柴田一成
1967年生まれ。東京都出身。パイオニアLDC(現ジェネオン エンタテインメント)入社後、自身の映画企画をキングレコードに持ち込む。この企画が中篇ホラー映画『もうひとりいる』(2002年)となり会社員でありながら映画監督デビューを果たす。最新作は、ベストセラー小説を原作とした『リアル鬼ごっこ』(2008年)。プロデュース作品に『渋谷怪談』(2004年)、『蝉しぐれ』(2005年)、『笑う大天使』(2006年)、『スピードマスター』(2007年)、『魍魎の匣』(2007年)など多数。現在もジェネオン エンタテインメントに所属する社員監督である

累計180万部を突破した山田悠介のベストセラー小説を映画化した『リアル鬼ごっこ』(2008年)。日本を支配する王様が、全国の「佐藤さん」のみを対象に、死の鬼ごっこを行うというとんでもない設定の作品だ。この映画は低予算で製作されたにも関わらず、若い世代の観客を中心に、興行収入5億円を越えるヒット作となった。この作品を監督したのが映画監督・柴田一成。柴田監督は映画製作元でもあるジェネオン エンタテインメントの社員である。「サラリーマン映画監督」という異色の肩書きを持つ柴田が、『リアル鬼ごっこ』と自身の映画監督道を語りつくす。

――西暦3000年を舞台にしている原作を、かなり大胆にアレンジして映画化されていますね。

柴田一成(以下、柴田)「出版社から映画化の話を頂いて、僕はジャンル・ムービーが大好きなので、ひきうけることにしました。ただ、読んでみたら原作はぶっとんだ設定の話でした。そのままでは映像化出来ないので、かなり悩みましたよ。『リアル鬼ごっこ』という発想自体は凄く魅力的だったので、これを活かしつつ設定を色々変えて、オリジナルの物語を考えました。原作の、西暦3000年を舞台にするのはとにかく無理なので、パラレルワールドという設定にして、現在の日本で撮影できるようにしました。こうして、主人公がふたつの似て非なる世界を行き来する物語になったんです。それと鬼ごっこを命令する王様に理由を与えて、やや無理のない有り得る存在にしたんです。主人公達の名前や家族構成は原作どおりにして、年齢だけ大学生から、高校生に変更しました」

――王様が派遣する不気味な鬼たちから「佐藤さん」たちが逃げる場面がとにかく印象的で、作品は興行的にも成功しました。

柴田「とにかく走るという鬼ごっこのシーンの面白さを意識しました。公開規模も小さく、低予算という条件でも、出演者が本気で走る姿が観客の共感を呼んだのだと思います。予算に関係なく、走るって人間そのものの姿だから。凄く美しい女優が映っていると、それだけで魅力的じゃないですか。それと同じものが、この映画の本気で走る姿にはあるのだと思います。それは出せたと思います」

鬼たちに捕まると大変なことに……

とにかく佐藤さんは逃げるしかない!

――石田卓也、谷村美月、大東俊介という主演の3人が、期せずしてこの映画の公開後にブレイクしていますね。柴田監督から見た3人の印象を聞かせてください。

柴田「石田君は『蝉しぐれ』(2005年)という僕がプロデュースに関わった映画に出演していたんですが、そこで彼は、大御所の俳優やスタッフに囲まれて見事に1年間やり遂げた。その頃から彼の根性や礼儀正しさを"いいなあ"と思っていました。いわゆる若手のイケメン俳優たちとは明らかに違うオーラがあり、ずっと目を付けていたんです。大東君はとにかくオーデションで演技の幅が広く、ルックスも含め光っていた。谷村さんとは、何度か仕事をしたことがあったんですが、これまでの彼女は作家性のある監督との仕事が多くて、いかにも正統派の日本映画という感じの作品に出ていた。今回、良い意味で"ばからしいジャンル・ムービーに出てみませんか"と出演依頼したんです(笑)。静かな芝居は彼女に任せて、男ふたりはとにかく走るという動の魅力。この計算は見事に当たりました」

――柴田監督は以前から、若い女優の起用法に定評がありますね。

柴田「単純に若い女優に魅力を感じるんです。逆にアイドル然とした人は映画では使いにくいですね。あくまでも、顔つきや物腰が女優という人と仕事するのが好きなんです」

――王様を演じた柄本明さんも、凄い怪演でした。

柴田「絵に描いたような悪役で、一歩間違えたらバカ殿になってしまいますが、柄本さんだったからこそ、学芸会にならずに済んだと思っています」

――佐藤さんたちを追い詰める鬼のデザインも、インパクトがありました。

柴田「鬼のデザインに関しては色々悩んだのですが、シンプルで典型的な悪のイメージのお面にしました。全身黒ずくめで、目が赤いという。バカにして笑っているようにも見える口の部分のデザインとか、予想以上に不気味な感じが出せたと思います」

――柴田監督はこの映画をDVDで観る方々に、どんな風に楽しんで欲しいですか?

柴田「原作ファンには、違う『リアル鬼ごっこ』として楽しんで欲しいですね。この作品は、殺伐とした恐怖を描くのではなくて、爽やかなSFジュブナイル的なエンタテインメント映画ですので、どなたでも楽しめると思います。あと、今回のDVD化には色々と力を入れました。メイキングやインタビューはもちろん、音声を劇場公開時は2chだったものを、5.1chで入れ直してます。環境によっては、劇場以上の迫力ある音声で楽しめると思います。プレミアム・エディションには、公開時に要望の多かった鬼のストラップがついてます」

石田、大東、谷村が演じる3人の佐藤さんは生き残れるのか?