講演では、先に述べられたように高いコンピューティング能力を獲得したビジュアル・コンピューティングが、様々な業界に普及し、既に浸透をしはじめているという例が次々と紹介された。「それは熱狂的なゲーマーだけのものではなく、多様な人々が利用するものになった。世界中の様々な業界に対し、我々が貢献できているのは間違いないことだ」(Huang氏)。

例えば映画で、全米の興行収入トップ10に注目すると、そのほとんどのタイトルではコンピューター・グラフィックスが必須のものとなっている。コンシューマやエンターテイメント以外の分野であっても、例えば医療の世界において、CT画像の3D化などに画像処理能力の向上が寄与している。

また、講演のステージ上でも、ビジュアル・コンピューティングの進化で実現、もしくは実現の目処がたったという各業界の実例のいくつかが、実際にデモンストレーションされ披露されている。

ドイツでCADソフトなどを開発するメーカーのソリューションをデモ。自動車のリアルタイムモデリングを行うものだ。モデリングされているのは限定20台しか製造されないというランボルギーニの新型車

設計での利用はもちろんのこと、非常にリアルなため、例えばディーラーはこのリアルタイムモデリングのソリューションだけで顧客への販売活動も行えるという。20台しか製造しないため、そもそも見本車を用意するのが難しいのだとか

リアルタイムなので内装の変更や車載オプションの追加なども即時に反映できる。「ビジュアル・コンピューティングを活用し、実物を見ることと同等の体験ができる。実物を見ることなく購入の判断が可能だ」という

Huang氏は「オンラインゲームとSNSはクロスする」と述べる。SNSの体験を、ゲームのグラフィックス技術が飛躍させるというのだ。同氏は「10年以内に25億のPCユーザーが実現する言われるが、その3分の1はバーチャルの世界を行き来するだろう」として、韓国Nurienのソーシャルネットワークプラットフォーム「NURIEN」を紹介する

「Second Life」のような3D仮想世界が楽しめるものだが、NURIENの特徴は高いアバター技術だそうだ。スカートなどの服や付けているアクセサリなど物理シミュレーションで、高度なモデリングながらリアルタイムでレンダリングしているため、様々な挙動にも対応。より現実に近づけて没入感を高めたスーパーリアル版Second Lifeといったところ?

NURIENで作ったJen-Hsun Huang氏のアバター。下のバーを動かすとリアルタイムに顔が変化していた。左はHuang氏曰く「若返った僕」

続いてはSportvisionの提供する放送向けソリューションを紹介。左の画像は、ステージ上を撮影した動画にリアルタイムでパーソナルデータの"囲み"が合成されている。右は体操選手の連続動作を単一フレームに合成したもの

実は何の変哲もない緑の芝生なのだが、カメラに映るとアメフトのライン情報などが追加されていた。現実を現実のまま、ちょっとわかりやすく見せるための技術だそうだ。現実の映像を補助するこういったCG合成は既に広く普及している。今回のオリンピックなどでもそうだが、日本でもスポーツ中継などで普段から目にする機会が多い"ビジュアル・コンピューティング"だろう

さて、話をもっと個人寄りに戻して、ビジュアル・コンピューティングが、パーソナルコンピュータとのインタフェースをより素晴らしいものにするという例も紹介された。

「今度はディスプレイの"次元"を増やす。過去のディスプレイの進化は色数だったり、解像度だったり、それは平面の進化でしかなかった」(Huang氏)。これは写真だとまったくわからないので申しわけないが、3D立体ディスプレイの紹介だ。「NVIDIA GeForce Stereoscopic 3D」という技術で実現していて、特殊なパッチ等を使わなくても数多くのゲームが3Dの立体映像で楽しめるようになるというもの。ただ、専用のディスプレイとゴーグルは必要

前の写真の映像はNVIDIAのサンプルデモを利用したものだが、今度は他社のタイトルでも3D立体化したものを紹介し、対応ゲームタイトルの多さをアピール。専用ハードは必要だが、それでもGeForceの機能として提供されるので、3D立体視へのハードルは以前までよりは相当下がるだろう。Huang氏は、これを「すべてのゲーム、すべてのディスプレイで実現したい」と話している

最後に、Huang氏が、「過去、グラフィックスはマウスに追いついていなかった。今は、マウスがグラフィックスに追いついていない。また、先程の3Dディスプレイへの進化がはじまったとして、それが進めばマウスはネックでしかない」とし、新たなUIの可能性だと紹介されたのが、今話題のコンピュータ科学の有名人、Jeff Han氏による「Multi-Touch」。マルチタッチインタフェースの"極めつけ"と言って過言で無いほど良く出来たUIだ

「グラフィックスをUIに利用すると、こうなる」(Huang氏)だそうで、リッチなUIもGPUの新たな使い道なのだという。ちなみにJeff Han氏は「このUIを近いうちに一般へ普及させたい」と話している。ところで、このインタフェースは動画で見ていただくと"凄さ"がわかりやすい。興味のある方はYouTubeなどに大量の動画があるので、「Jeff Han」あたりを検索キーワードに是非とも探してみて欲しい