若い頃のハッカーぶりを振り返ったところも面白かった。あまり知られていない話(だと思うが……)、高校生の時に警察に保護されたことが一度あり、その時に一緒に収容されていた面々に、天井のファンから電線を引っ張り出して鉄格子に接続し、看守を感電させる方法をレクチャーしたそうだ。
Jobs氏については、一度Appleを離れるというトラブルを経ても、Appleを設立した頃と変わらない長所が今も活かされていると述べた。「プロダクトが優れたレベルで維持されるようにコントロールするのがSteve (Jobs氏)の基本姿勢だ」とWozniak氏。例えばJobs氏が暫定CEOとして復帰する前から初代iMacの開発は進んでいたし、デザイナーのJonathan Ives氏もAppleに入社していたが、初代iMacは完全にJobs色が伝わってくる製品となった。Jobs氏の解任は不誠実だと感じたし、同氏が復帰を果たしても満たされない思いがあったというが、その後のAppleについてはポジティブに受け止めているという。「その理由は、わたしの言葉よりもiPodやiPhoneなどの製品がよく伝えてくれている」(Wozniak氏)。
「生涯エンジニアでありたい」と願ったWozniak氏だが、今では家族のために費やす時間や教育への関心を犠牲にしてまで、何かを開発したいとは思っていない。ほぼリタイア状態である。それでもマルチコアプロセッサや、電子の代わりに光子を用いる将来的な可能性など、新たなテクノロジに思いをはせるとわくわくするという。
エンジニアとしての人生に悩みとトラブルはつきなかったが、後悔はしていない。だから、会場のエンジニアとテクノロジー業界関係者にも夢とビジョンの追求をうながした。Wozniak氏はパソコンを設計した際に、他のコンピュータデザインの細かい部分をまったく参照しなかったそうだ。パフォーマンスを引き出すために試行錯誤し、その結果「どんな本にも書かれていない、実に奇妙なトリックが用いられている」という。協力作業の効果も否定しないが、時に個人や小グループの努力から、革新的でユニークな成果が生まれると指摘した。要はこだわりの強さである。
さて最後に、インタビューの中身とは直接関係のない話題を1つ。この日Wozniak氏は、異様にデカい腕時計をはめていた。中には真空管2本(と電池)が並んでいる。ニキシー表示管を使った腕時計だ。時計を振ると真空管に時間を示す数字が浮かび上がる。2桁の数字しか表示できないので、時→分→秒と数字が変わっていく。その代わり数字が大きくて見やすいそうだ。数週間試すだけのつもりが、ボタンのないデザインを気に入って、そのまま使いつづけているという。「(ガジェット好きが飛びつきそうな)風変わりな時計だからではない」と主張していたが、言うまでもなく会場からは「ギークだから、そんな時計を愛用できるんでしょ」というニュアンスの苦笑が返ってきた。