本製品最大のトピックといっても過言ではないのが、動作モードの切り替えスイッチだ(写真9~13)。type S/SZシリーズにも搭載されていた機能で、「Speed」と「Stamina」と書かれたスイッチを切り替えることで、パフォーマンス重視モードとバッテリ駆動時間重視モードへ、PCの設定が自動的に切り替わる。ソフトウェア上の設定だけでなく、GPUもチップセット内蔵グラフィックと、外付けグラフィックを切り替える点が特徴だ。

しかも、type Zに搭載された本機能は、従来のSZシリーズよりも進化している。Santa Rosa世代以前のプラットフォームを採用していたSZシリーズは、こうした機能をソニー独自の機能として実装していた。そのため、切り替えのたびにPCを再起動しなければならなかった。

しかし、type Zで採用されているMontevinaプラットフォームには、スイッチャブルグラフィックスと呼ばれる技術が組み込まれており、内蔵グラフィックと外付けGPUを"再起動なしで"切り替えることができるようになった。これは非常に大きなポイントといえる。再起動時のHDDアクセスなどはバッテリの無駄遣いでしかないし、時間の無駄もなくなる。このスイッチ機能の魅力はさらに増したといえるだろう。

写真9 キーボードの奥に備えられるモード切り替えスイッチ。その直下にはアプリケーションランチャーボタンを装備している

写真10 起動中にモード切り替えスイッチを触ると、切り替えの警告画面が表示される。[OK]をクリックすれば、再起動無しで切り替えが完了。不意に触ってしまっただけ、といった場合には、ここで切り替えをキャンセルできる

ちなみに、Montevinaプラットフォームを採用する本製品の内蔵グラフィックは、Intel GM45に内蔵されたIntel GMA X4500HD。そして、外付けGPUとして搭載されているのは、NVIDIAのGeForce 9300M GSだ。後者もローエンド向けGPUに位置付けられる製品であるが、どの程度パフォーマンスの改善効果があるかは、後ほど検証することにしたい。

さて、本製品のもう一つの大きなトピックが、VAIOオーナーメイドで実現可能なSSDの搭載だ。しかも、単にSSDを搭載するだけでなく、2台のSSDをRAID0構成として搭載することで、より高いパフォーマンスを実現させることができるのだ。

今回、SSD搭載モデルとHDD搭載モデルの2台を借用しているが、SSDモデルではSAMSUNG製の64GB SSD×2台で計128GBとなっていることが分かる(写真13)。

一方、HDDは最大320GBを搭載が可能だが、借用機は5400rpmの200GB HDD搭載モデルで、使用しているHDDは東芝の「MK2546GSX」であった(写真14)。このHDDは本来250GBの容量を持つドライブだが、部材統一によるコスト削減などの理由で、ファームレベルで調整して200GBに制限して使っていると想像される。この予想どおりであれば、一般的にはHDDは高速な外周から利用するので、このHDDの最も遅い部分を使わずに済ましているということになる。これはこれで面白い仕様だ。  SSDとHDDについては善し悪しがあるが、SSDのメリットは大きい。駆動部(メカ)が存在しないことで持ち運びによる振動で物理的なトラブルが発生する可能性はなくなるし、消費電力も低く抑制されるのでバッテリ駆動時間も延びるはずだ。それでいて、RAID0構成による高速なアクセスも期待できる。価格と容量という現実的な面でHDDのメリットもあるのだが、何とか予算をひねり出したい魅力的なスペックであることは間違いない。

写真11 電源接続時の省電力バランス。緑がSpeedモード時、オレンジがStaminaモード時を表す。Stamina時には液晶の明るさや光学ドライブの自動電源オフが有効になる

写真12 こちらはバッテリ駆動時の省電力バランス。基本的には電源接続時と似たようなセッティングだが、スリープまでの時間を短縮しているのが大きな違いだ

写真13 128GBのSSDモデルでは、64GBのSamsung製SSDを2台利用して、RAID0を構築した状態になっている

写真14 こちらは200GB HDDモデル。5400rpmの東芝製HDDが搭載されていた

パフォーマンスとバッテリ駆動時間をチェック

最後に、SSD搭載モデルとHDD搭載モデルを用いて、いくつかのベンチマークを測定したので結果を紹介しておきたい。両モデルは、先述のとおり液晶の解像度が異なっており、SSDモデルが1600×900ドットのパネル、HDDモデルが1366×768ドットのパネルを搭載している。また、SSDモデルはWindows Vista Ultimate、HDDモデルはWindows Vista Home Premiumがインストールされているという違いがある。

そのほかの主な仕様は統一されており、CPUはCore 2 Duo P9500、メモリはDDR3-1066 2GB(1GB×2)、内蔵グラフィックスはIntel GM45内蔵グラフィックスとGeForce 9300M GSといったところである。

まずは、表1にパフォーマンスを測定するベンチマーク結果をまとめた。SpeedとStaminaでは、差がない箇所もないわけではないが、おおむねSpeedのほうが良好な結果を見せる。ハードウェア的にはグラフィック機能が切り替わるわけだが、チップセット内蔵グラフィックはメインメモリの一部をビデオメモリとして利用するのに対し、GeForce 9300M GSは専用のビデオメモリを有している。そのため、内蔵グラフィックを利用する場合は、メインメモリのパフォーマンスも若干落ちてしまう。メインメモリはあらゆる処理で利用されるものであるため、わりと安定した性能向上が期待できるわけだ。

表1 パフォーマンス測定結果

HDD SSD
Stamina Speed Stamina Speed
PCMark Vantage PCMark 3170 3393 4739 4920
Memories 2007 2188 2641 3166
TV and Movies 2526 2581 2953 2981
Gaming 2000 2179 3588 5085
Music 3392 3681 5498 5735
Communications 3346 3454 4396 4626
Productivity 2707 2606 6015 5968
HDD 2598 2671 15495 15021
PCMark05 PCMark 4827 5350 6604 7284
CPU 6138 6183 6132 6378
Memory 5368 5488 5317 5432
Graphics 2301 3564 2262 3556
HDD 4649 4312 15992 15751
3DMark06 800×600ドット 1183 2327 1127 3093
1024×768ドット 957 1719 1045 2528
1280×1024ドット 913 1661 938 2268
CPU Score 2168 2295 2178 2295

そのグラフィックの性能差については、大ざっぱに言って2倍前後といったところ。2倍というと悪くない数字だが、絶対値としてはそれほど高いパフォーマンスではなく、3Dゲームを快適に楽しむためのグラフィック機能というよりは、先述のメモリメモリ周りやWindows Aeroのパフォーマンス底上げに貢献するものという印象を受ける。SpeedとStaminaの差をもっと明確にするために、例えばGeForce 9500M GSを搭載するなどという案もあったかも知れないが、熱や消費電力などさまざまな要因が絡んでいるのだろう。

さて、SSDのパフォーマンスについては、PCMark VantageとPCMark05のHDDスコアが示すとおり、極めて高いパフォーマンスを見せている。具体的にどの程度のアクセス速度なのかは、CrystalDiskMarkによる結果を写真15、16に示しているが、読み書き、シーケンシャル/ランダム、すべてにおいてRAID0のSSD環境が圧倒している。実際、Windowsの起動や、アプリケーション中のちょっとした動きがキビキビ感じられ、使っていると病み付きになりそうだ。

写真15 200GB HDD搭載モデルのCrystalDiskMark 2.1.5の結果

写真16 128GB SSD搭載モデルのCrystalDiskMark 2.1.5の結果

また、バッテリ駆動時間についても測定している(表2)。こちらは標準バッテリ(写真17、18)を用いてテストしたもの。Speed、Staminaの各モードで、PCMark Vantageをループ動作させ、電源が切れるまでの時間を測定したものだ。

写真17 バッテリは本体裏面に搭載。シリンダー型ヒンジと一体化したようなデザインが特徴だ

写真18 標準バッテリは10.8V/5400mAhのもの。スペック上の駆動時間が1.5倍程度になる大容量バッテリパックもオプションで用意されている

表2 バッテリ駆動時間測定結果

HDD SSD
Stamina Speed Stamina Speed
バッテリ駆動時間 2時間31分24秒 2時間4分5秒 2時間46分21秒 2時間14分39秒

アプリケーションが動き続けるというバッテリにとっては厳しい使い方であるが、Staminaで2時間半~3時間程度、Speedで2時間強といったところ。最低でも、このぐらいは持つことが期待できるという目安になるかと思う。悪くない数値ではあるのだが、もう少し長時間駆動が果たされると嬉しいという人もいそうなレベルだ。そうした向きは大容量バッテリを導入すべきだろう。また、SSDモデルのほうが若干バッテリ駆動時間が長い傾向が出ており、価格と容量面以外では非常に魅力の高いデバイスになっている。

最後に、このtype Zの印象であるが、一般に性能という言葉を聞くとPCであれば処理速度をイメージするものだ。だが、モバイルPCについては、処理速度以外の性能が強く求められる。それは、バッテリ駆動時間であったり、サイズであったり、重量であったり、デスクトップPC以上に多様なニーズを抱える製品といえる。type Zはそうした多様なニーズを高いレベルでバランスよく盛り込んだ製品である印象を受けた。モバイルPCの真の性能とはこういうものか、というものを感じさせてくれる製品なのだ。A4モバイルのジャンルは、ハードにモバイル利用するビジネスパーソンを中心にニーズが高いジャンルである。こうしたモバイルPCを求めるユーザーに強くお勧めできる製品だ。

テスト機の主な仕様

CPU Core 2 Duo P9500
メモリ 2GB(最大4GB)
チップセット モバイル Intel GM45 Express
グラフィックス NVIDIA GeForce 9300M GS/チップセット内蔵Intel GMA 4500 MHD(スイッチにより切り替え)
ストレージ 200GB(HDDモデル)/128GB(SSDモデル)
液晶 13.1型ワイド(1,366×768ドット(HDDモデル)、1,600×900ドット(SSDモデル))
光学ドライブ DVDスーパマルチDL対応
インタフェース USB2.0×2、ミニD-Sub15ピン×1、HDMI出力×1、LAN(1000Base-T/100Base-TX/10Base-T)、IEEE1394、メモリースティックスロット)ほか
サイズ/重量 約314(W)×210(D)×24.5~33(H)mm/約1.35kg(最軽量時)