今世代注目のプロシージャル技術をアニメーションや群衆シミュレーションに応用する

CPUがマルチコア全盛となり、メニーコアプロセッサともいえるプログラマビリティが劇的に向上したDirectX 10世代のGPUが普及してきたこともあり、この膨大なコンピューティングパワーの使い道として、俄然プロシージャル技術(Procedural)が注目されてきている。

プロシージャル技術とは、テクスチャ、3Dモデル、あるいはシーンそのものの構成などのコンテンツデータを人間の手で全て作成するのではなく、"種"と"法則"を与えたAI的なプログラムで算術的に生成しようとする技術のこと。

SANDBOXでは、まず、3Dキャラクタの動き(アクション)、3D業界の専門用語では「アニメーション」というが……これをプロシージャル技術によって生成し、より実用化を進めていこうというパネルディスカッションが行われた。

ニューヨーク大学コンピュータサイエンス学部 Ken Perlin教授

膨大な数の人間キャラクタを動かす際に、モーションキャプチャーした同じデータを適用してはロボットのようで不気味に見えるし、それぞれのキャラクタには個性や感情の違いがあることを表現できない。

ニューヨーク大学コンピュータサイエンス学部 Ken Perlin教授は、同一のアクションをさせるものの、体のアクションに特定の揺らぎや感情表現をキーフレームアニメーションベースで与えることで多様なアクションを表現できる様を例示した。

歩行アニメーションに「疲れた」感情表現を付加した様子。猫背気味になり両腕をだらんと垂れ下げるようなアクション抑制を付加

同じく「恥ずかしい」という感情表現を付加した様子。歩行は内股気味になりきょろきょろと周りを見回すようなアクションを付加

本格的なプロシージャルなアニメーション技術を実装した商業アプリケーションとして注目されている「SPORE」のデモンストレーションも行われた。プレゼンテーションを行ったのはSPOREの開発地に携わるMAXISのChris Hecker氏だ。

MAXIS、Chris Hecker氏

SPOREでは、人型、四つ足に制限されない、様々な奇っ怪な生物を作り出すことが出来るが、その製作工程は頭、手、足、胴体などの種類を選択して自由につなぎ合わせて作ることが出来る直感的なシステムとなっている。

SPORE CREATURE CREATORの様子。ゲーム本編の日本語版は9月に発売予定

作り出した生物はすぐさまそれっぽい動きで動き出す

できあがった異星生物は完成すると同時にユニークなアニメーションを伴って動き出すが、これは生物のパーツ単位(たとえば手、足)に設定されたアニメーションパターンをリアルタイムかつ動的に合成して表現しているものだという。開発側で体の部位単位に仕込んだアニメーションは総計2000程度だとのことで、パーツの組み合わせで無数の見たこともない静物の動きが実現できているという。SPOREでは、体の部位パーツを組み合わせて出来る生物の総数は無数であり、それら全てに適切なアニメーションを個別に設定することは到底不可能だ。プロシージャルなアニメーション技術が実装できなければ、極端な話、SPOREは実現できなかったかもしれない。

そのアクションはパーツごとに設定されたアニメーションを動的に合成して生成されている

変わってSCE US Research and DevelopmentのCraig Reynoldsは、プロシージャル技術のユニークな一例として新しい群衆シミュレーションのテーマについて語った。

SCE US Research and DevelopmentのCraig Reynolds

群衆シミュレーションの次なるテーマは「群衆で働く」というここが同じ目的を持ちながら個別の知性で動く「群衆」

これまで群衆シミュレーションというと、「てくてくと歩く群れ」を取り扱うものがほとんどで「群れで移動する」というテーマが中心だった。

Reynolds氏が掲げる次なるテーマは「目的を持って団体行動する群衆」だ。

これは、群れをなすという基本的な行動特性的な知性以外に、状況適応型の知性を実装する必要がある。

Reynolds氏らが開発したデモでは、シーンに散らばっている煉瓦を群衆がそれぞれ一個ずつ拾い集めつつ塔の形に積み上げていく様が示された。

白い箱が労働者。それぞれが散らばっている青い箱(煉瓦)を拾って建設位置に積み上げていく。シアンの煉瓦は塔の二段目、より高い位置に積み上げられた煉瓦であることを表している

より煉瓦が積み上がった塔

モーションキャプチャーによるアニメーションは、実際に人間が演じているかのようなリアリティでキャラクターにアニメーションをさせられるが、キャプチャしたモーションデータを再生しているだけであるため、固定的なアクションであり、それ自体に知性や適応能力はない。

今世代以降のキャラクター・アニメーション(アクション)において、さらなるリアリティを実現するためには、ここで紹介したような、プロシージャル技術を適用した、知性あるアクション、適応型のアニメーションが求められるようになっていくはずだ。

(トライゼット西川善司)