『第1部 スタジオジブリ作品のレイアウト』では『風の谷のナウシカ』にはじまり、『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』と、レイアウトを通じて人気作品の制作の裏側に触れる事ができる。例えば、『風の谷のナウシカ』で怒りに燃えてガンシップを操縦するアスベルを描いたカットでは、アスベルの怒りがほとばしるような画風が全体を包んでおり、BG(バックグラウンド=背景)の空の部分には"Follow"と数値が書き込まれている。これはBGと手前のガンシップに乗ったアスベルのパーツを動かす事でガンシップが空を飛んでいる状況を創り出すものだ。
■用語解説
「Follow」
動いている被写体に対し、カメラが移動しながら動きを追うカメラワークの事で、アニメーションの場合、カメラは固定なのでキャラクターを動かし、背景とBOOKを引く事で表現している。Followの指示には動かすスピードの数値もあわせて記されている。例えば、「BOOK 1K/0.25ミリ →」と書かれている場合、BOOKを左から右に1コマ(=1/24秒)に0.25ミリ動かす、つまり1秒間に6ミリ動かすということなる。
「BOOK」
通常の背景画以外に描かれる背景画のパーツの事。例えば、キャラクターが木の後ろを通ったりする場面で、背景画の上にキャラクターのセル画が入り、さらにその上に木のみを描いたBOOK素材が入る。
『天空の城ラピュタ』の竜の巣の中に現れたラピュタが見えるカットでは、空のBGとラピュタやいくつかの雲のBOOKが効果的に動かされる事で、ラピュタの存在がより強調されている。また、ラピュタ内にそびえる大樹を描くカットでは、カメラは根元部分から樹上にPANアップしており、4枚のレイアウト紙を縦につなぎ合わせて一枚として描かれている。最初の焦点が根元部分の碑のあたりにあり、そのままPANアップしていき、最後にドームを突き破っている木の上部に焦点がある、一枚の絵としては2つの焦点があるというちょっと異質なものとなっている。オーディオガイドでは「木がふんぞり返って見える」とコメントしていた。この他のレイアウトにも大変興味深い手法が数多く紹介されている。
後半にはとてもワクワクするコーナーが設けられている。突然、登場するトンネルをくぐり抜けるとその向こうには、「千と千尋の神隠し」の湯屋「油屋」のレイアウトが数mまで引き延ばされて登場する。天井高をうまく活用し、縦の構成が印象的だった「油屋」の内部を彷彿させるほどの高さまで、所狭しとレイアウトが掲げられており、まるで「千と千尋〜」の世界に迷い込んだような錯覚を覚える楽しいコーナーだ。
トンネルの向こうに「油屋」が見える。「千と千尋の神隠し」の世界への入り口だ |
「千と千尋の神隠し」(c)2001 二馬力・GNDDTM。天井にも届きそうなほどの「油屋」の内観を描いた大伸ばしのレイアウト |
別会場となっている『第2部「レイアウトシステム」のはじまり』では、『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』、『未来少年コナン』といった高畑・宮崎両監督がスタジオジブリ以前に手がけた、まさにレイアウトシステム創成期の作品を見る事ができる。これらの作品のレイアウトを一堂の会するのはまたとない機会と言えるだろう。そして、最後は見てのお楽しみ。『アルプスの少女ハイジ』から34年後に制作された、現在公開中の『崖の上のポニョ』のレイアウトもたっぷり公開されている。
この後のコーナーでは、トリミングフレームを使って実際にレイアウトをのぞいてみることができたり、自由に撮影できるコーナーが用意されている。さらに展示会場を出た大きな広場には、自分で描いたまっくろくろすけをシールにして壁に貼ることができるコーナーがあったり、床には誰もがメイやさつきになれるゆがんだトトロの絵があったり、ポニョが潜むバケツがあったりと、子どもも大人もめいいっぱい楽しめるものとなっていた。