海野流撮影テクニックとは
2008年3月のEX-F1発売開始からわずか4ヶ月だが、海野さんはすでに2回も海外取材にこのカメラを持参している。制約が多い海外での撮影でEX-F1を使ってみた感想はどうだろうか。
海野:「マレーシアとインドネシアで撮影したのですが、残念なことにインドネシアの取材中はずっと天気がよくなかったんです。熱帯雨林で天気が悪いということは光量が不足するので、ISO感度を上げざるを得ず、せっかくの連写機能もハイスピードムービーも、高感度で撮影をしたため、画質面では満足いくものが撮れずに残念な想いをしました」
確かに高速度撮影の画質は光量に左右されることが多いのが難点だ。海野さんの写真を見ていつも驚くのは、場所や被写体によって変化する撮影環境の中においても常に昆虫の一瞬一瞬をフレームにしっかりと捉えていることだ。いったいどういうテクニックを駆使しているのだろうか。
海野:「ボクの撮影の基本はまず魚眼レンズや広角レンズを使って撮ることです。それは昆虫が飛び立つ瞬間に、ピントを合わせて捉えるためには、被写界深度が深いほうが有利だからです。その点では、撮像素子の小さいコンパクトカメラは有利ですが、広角レンズを装備したモデルが少なかったり、画素数が足りなかったりするので、今はもっぱら一眼レフタイプを中心に撮っています。もちろんコンパクトカメラでもワイドコンバージョンレンズを付ければ広角になるのですが、レンズ側が大きくなると、チョウなどは嫌がって逃げてしまうんです」
しかしながらアマチュアカメラマンが撮ると、一眼デジカメを使ってもなかなかフォーカスが追いつかないことがある。ピンぼけ写真から抜け出すためには、どうすればいいのだろうか。
海野:「オートフォーカスではなく、マニュアルフォーカスにして、昆虫との距離を常に一定に保ちながらシャッターを押すとうまくいきますよ。被写体の大きさにもよりますが、例えばチョウの飛び立つ瞬間を撮りたければ、まずフォーカスをマニュアルにして、被写体から10~20センチにピントの位置を固定し、飛び立ったらシャッターを押します。EX-F1のパスト連写ならこれで確実に飛び立つ瞬間を捉えることができます。もうひとつ注意したいのは撮影モードを『シャッター優先』に設定することですね。昆虫撮影では最低でも1/2000秒、できれば1/2500秒以上は欲しいので、コンパクトカメラのように最高速度が1/1000秒しかないような機種だと、やはり動きをしっかり止めることができないのです」
EX-F1を日常づかいする
EX-F1がその高い性能によって"一瞬"を切り取り、プロ並みの写真が撮れることはわかった。だが、日常づかいするデジタルカメラとしてEX-F1を使う魅力はどこにあるのだろうか。
海野:「スポーツ写真、特に屋外スポーツには向いていますね。被写体によっては今発売さ れている最高級の一眼デジカメよりも決定的瞬間を容易に撮れるんじゃないでしょうか。例えば、被写体の動きが速いスポーツ大会などのイベントでEX-F1を使用すれば決定的瞬間を確実に撮ることができます。野球の場合、バットにボールが当たる瞬間をぐっとズームアップして撮影するのも効果的ですよ。個人的におすすめしたいのは、300フレーム/秒のハイスピードムービーです。NHKが数千万円もするような機材で撮影している画像を、このカメラで誰でも撮れますよ。野鳥や昆虫、スポーツだけでなく、生活の中の身の回りの動くものを、何でも撮ってみれば今まで知らなかった不思議で面白い世界が見られると思います」
さらに究極のカメラへ
最後に、秒60コマ連写や秒1200フレーム超高速撮影、フルハイビジョンムービーなど他機にはない優れた機能をたくさん持つEX-F1に、海野氏が今後さらに期待するポイントをうかがった。
海野:「ボクの写真の基本は広角撮影なので、もっと広角側にシフトしたズームレンズにしてもらえると嬉しいです。また、ハイスピードムービーでは、現状の画質を維持して500フレーム/秒くらい撮れれば最高ですね。操作面ではやはり可変式のモニターのほうが、ローアングルやハイアングルに対応できるので、撮影がしやすくなるのではないでしょうか。さらに操作ボタンのデザインやロック機能の追加などにも期待したいです。先日の撮影では無意識にボタンを押してしまいモードが変更されて冷や汗をかきましたよ(笑)」
時折EX-F1を愛でるように手の中で弄びながら、昆虫とカメラを愛する写真家はそのカメラへの想いを語ってくれた。里山やジャングルの中でカメラを構えながら、夢中になってチョウを追いかけている海野さんの姿を想像すると、少年の夢を持ちながらそのまま大人になったようでうらやましい。そんな昆虫を相手に日夜奮闘している海野さんの活動は、「これからもデジタルカメラを駆使して、毎日珍しい昆虫や風景の写真を掲載します」という『小諸日記』でうかがい知ることができる。これからも独特な味わいをもった海野流昆虫写真を、末永く楽しませて欲しいものだ。
インタビュー撮影:中村浩二