ウィルコム 次世代事業推進室長の上村治氏

ワイヤレスジャパン初日の22日、今後の無線ネットワーク技術に関する講演が集まる「4G+将来NW構想フォーラム」の中で、ウィルコム次世代事業推進室長の上村治氏が講演し、同社が来年のサービス開始に向けて取り組む次世代PHS技術の優位性について説明した。

LTE、UMB、WiMAXなど多くの高速無線通信技術の開発が進んでいるが、ウィルコムの次世代PHSは、WiMAXと同じく「広帯域無線アクセス(BWA: Broadband Wireless Access)システム」に分類されるもので、携帯電話技術の発展系であるLTEなどとは異なるカテゴリーの技術とされている。しかし、いずれの通信方式も変調/多重化方式にOFDMA、周波数利用効率向上にMIMOを用いるなど、技術的には類似する点も見られ、それぞれどのような用途をターゲットにしているのか違いが見えにくい。

上村氏はBWAについて、「通信速度が1.544Mbps(※)を上回るもの」(※いわゆる"T1回線"の速度)というITU-Rによる定義や、「3Gおよび3.5Gを上回る伝送速度/周波数利用効率」という総務省の情報通信審議会による定義を紹介しながらも、よりわかりやすいイメージとして、BWAは家庭のブロードバンド回線のように「いくら使ってもよいネットワークシステム」であると説明。加えて「ジャブジャブと通信を利用できるシステムがBWA」とも表現した。

ウィルコムのデータ通信サービスでは、最も高速なプラン(最大約800kbps)の場合、1加入者あたり月に最大1GB程度のトラフィックが発生しているという。現在、ADSLや光ファイバーによる固定ブロードバンドサービスのトラフィックが同10GB程度と見られており、ウィルコムではBWAにおいて1加入者あたり毎月5~10GB程度の通信を処理できることが必要と見積もっている。周波数利用効率がより高くなければ、それだけのトラフィックを次世代PHSというサービスに収容することができない。

BWAの公的な定義は一応存在するが、これらからは具体像をイメージしにくい

BWAサービスでは固定ブロードバンド並みの容量を無線で収容する必要がある

「周波数利用効率」と言われるとき、通常は一定の周波数帯域幅あたりどれだけの伝送速度を得られるかが指標となるが、上村氏は「面積というファクターが抜け落ちている」と指摘する。周波数あたりの伝送速度が同じであっても、1基地局でまかなう範囲(セル)が狭ければ、同じ周波数を繰り返し使用することができるので、面積あたりの効率は向上させることができるからだ。「セルの半径が10分の1になると面積あたりの容量は100倍になる。セルサイズ縮小の容量への貢献は計り知れない」(上村氏)

BWAサービスでは面積あたりの周波数利用効率という考え方が必要と指摘

面積あたりの効率向上にはセルサイズの縮小が有効

PHSに比べてセルの半径が大きい携帯電話では、狭い範囲で多数の端末が通信を行うと、原理的に通信速度の低下が起こりやすい。PHSはセルサイズが小さく、しかもセルが重なっていても、基地局や端末が自律的に通信チャネルを選択して通信を行う仕組みになっているので、基地局が密に設置されている都市部では、それぞれの基地局にトラフィックが分散される。これにより、多数の端末が狭い範囲で同時に通信を行っても一定の通信速度を維持しやすい。

ウィルコムが行った実験で、携帯電話に比べてPHSは実効速度が落ちにくいことが確認できたという

PHSの小さいセルサイズを次世代でも引き継ぐことで、理論値に近い実効速度を得ることをねらう

また、通信チャネルの制御が基地局間で自律的に行われるため、基地局があらかじめ想定した場所から少しずれた地点に設置されるようなことがあっても、既存セルへの干渉といった不具合が起きにくいという。屋上に基地局を設置する予定だったビルのオーナーと交渉がまとまらず、やむを得ず隣のビルに設置することになった場合も、セルを再設計するような煩雑さがないとしている。そのほか、アンテナの指向性を制御するアダプティブアレイ技術を応用し、ひとつの基地局から同じ周波数で複数の端末に対して別々の通話・データ通信を提供する「空間多重」も、現行のPHSで既に実現している。

自律分散、空間多重といった技術は現行PHSで実現済み