レースのカギは"駆け引き"
会ったその日に「今後よろしくお願いします」と挨拶してしまったという程に、信頼する山根コーチのもとで、五輪に向けハードな練習をこなしているという上田選手。「たとえば朝5時に起きてスイムを3~6km、朝食後にバイク70km、クロスカントリーを15kmといった感じで練習をしています。またバイクでの技術力など3種目それぞれの課題に取り組んでいます」。
また、"駆け引き"が勝負のカギとなるトライアスロンでは、ライバルである選手たちとコミュニケーションを図りながら、自分に有利な展開にもっていくことが重要と上田選手は説明する。
「私の場合は、一番得意なランでの勝負にもっていくためのレース展開を、スイムでつくっていくように心がけています。ただし、レースの大半の距離を占めるバイクはスイム以上に重要なもの。オリンピックではバイクで先行する選手の直後を走ることで、その選手を風よけにする"ドラフティング"が許されています。だからこそ、バイクの速い選手と協力し合いながら、スイムから先行する集団に追いつき、最後のラン勝負に持ち込むことで、自分の勝ちパターンをつくっていくようにしています」
壁を越えることで前へ進める
極限の状態で戦うプロトライアスリートとして、自分の限界と向き合う日々を過ごしている上田選手。その限界について彼女は、見事なまでポジティブでシンプルな考えを持っている。
「レースや練習中に本当に辛いときもありますが、そんなときは『越えられない壁を神様は与えない』という言葉を思い出しています。また、ランが得意な私は最後に勝負をもっていくパターンが多く、常に攻めている状態のレース展開になります。だからこそ、最後のランは興奮します。『よ~し、どこまでいけるか』って(笑)。いつでも『ダメかもしれない』というところを乗り越えなければその先には進めないですからね。それに、常に前向きでポジティブでいると、自分が越えられないような壁とぶつかったときに支えてくれる人も現れてくれるんですよ」
最後に上田選手は目標を達成させるために必要なものは、特別な才能ではなく、空気を読む力でもなく、誰にでもできる"KD"だと教えてくれた。
「もともと才能がある人の中には実は努力をしていない人たちのほうが多いのではないでしょうか。私がここまでの成績を残せたのは平凡だったからこそ、努力するしかなかったから。挫折したときでも、踏みとどまって継続(K)することが大切です。私自身、これからも諦めることなく、歩みを止めずに努力(D)していきたいです」
挑戦し続けるパワーの源は"勝つ喜び"だという彼女。その目標には、すぐそこまで迫っている北京五輪での勝利が一番に掲げられているようだ。北京でのトライアスロン女子大会は8月18日開催。「夢は大きく、金メダルをとりにいきたいです」と笑顔をみせるプロトライアスリート・上田藍の実力が試される大一番に、ぜひとも注目したい。