カットが終わると、続いてシャンプーも兼ねた頭皮の脂出しマッサージに入る。「頭も肩のように、凝るんですよ」と渡辺さん。シャンプー剤として使っている無添加の洗浄剤の泡は毛穴の奥の汚れを包み込んで落とす働きをし、マッサージでは、うっ血している血液を流す。渡辺さんには、お客様の頭を触っただけでうっ血している場所がわかるそうだ。
アミノ酸と多糖類が、自宅でのシャンプーでは取れない毛穴の奥の脂までやさしく落としてくれるとのこと。低刺激で、しばらく洗い流さなくても脂分を取りすぎることはない。このフォームで髪と地肌を包むようにして、頭皮の血行を促すマッサージを行う。マッサージの後は遠赤外線で3分ほど温める |
この日Sさんの頭で凝っていたのは、側頭部。いつしか話題は鉄道から頭皮に。これはこれで盛り上がっている。「頭皮のマッサージは、自分でやるのもいいですよ。こめかみのところなどが効果的です。下から上へとマッサージするのがポイントです」と渡辺さん。さっそく自分でマッサージしてみる私。なるほど、気持ちいい。
つづいて、ヒゲ剃り。蒸気を当てられて「ドレイン(蒸気機関車が車輪付近から出す蒸気)を浴びているみたいですねえ」と、すっかり夢心地のSさん。先ほどシャンプー剤として使ったものと同じ無添加の洗浄剤を使い、通常は二枚刃のカミソリを使用。リクエストで一枚刃を使うこともある。
私はこの取材に先駆けて、蒸気を浴びながら顔にフォームをのせるエステ(2,000円)をこちらのお店で体験したのだが、肌がスベスベになったのは言うまでもなく、目の疲れもすっきりとした。顔にフォームをのせて広げていく動作には、リンパマッサージの要素が含まれているとのこと。数十年ぶりの床屋でこんないい気分になれるとは、意外だった。女性にもおすすめのメニューだ。
セットを終え、一通りの施術を終えたSさん。おっ、男前になっているではないか! 本人も満足げである。そこで、「一番気になった鉄道グッズは何? 」と尋ねると、迷わず指差したのが店の一番奥にひっそりとかけてあった特急「つばさ」の号車札(駅のホームで、乗車口を示すためにぶら下げてある札)。Sさん曰く、「『つばさ』は秋田出身の自分がとても好きだった特急。でも、僕が子どもの頃はもう編成が短くなっていて、12号車まではなかったんだ……」。
髪を切ってもらいながら、そんな細かいところまで見ていたとは、鉄ちゃん恐るべしである。唖然とする私とは逆に、渡辺さんは後片付けをしながら、しっかりとうなずいていた。「鉄道」と「床屋」。一見無関係と思われるこの2点を繋ぐのは、「男のロマン」なのかもしれない。