'85年当時の熱気を見事に再現!
まずは本作の簡単なあらすじをご紹介しましょう。
本作の主人公、悠木は北関東新聞社に勤務する記者。
友人の安西と山登りに出かけようとしていた矢先に日航機墜落事故が発生し、この件の報道に関して全権を任されます。この大抜擢に奮い立つ悠木。しかしかつてないほどの大事故に社内は混乱し、次第に人間関係にも軋みが生まれ始めます。
報道とは。モラルとは。新聞は何をどのように伝えるべきなのか。
日本全土を揺るがした怒涛の一週間が幕を開けたのでした――。
冒頭こそ静かに始まるものの、すぐに日航機墜落事故という大事故が発生し、それから先はもうアクション映画以上の勢いで物語が進んでいきます。
未曽有の事態に興奮する悠木と、彼の指揮下で動く北関東新聞社の記者たち。時には自社内での足の引っ張り合いや、世代の違いが生み出すギャップに苦しめられながらも、悠木は事故を報道することに力を尽くします。
その姿には、僕を含め現代の若者にはない「熱さ」がありました。
このスポ根的な「熱」は、監督のこだわりでもあったようで、試写会後のトークセッションでは「現代の若者は、もっと本音をぶつけあって熱く仕事をするべきだ」と持論を展開。
個人的には、現代の若者にだって熱く仕事をする人はたくさんいると思うのですが、でも確かに主人公である悠木の仕事にかける情熱はすごかった! どれぐらいすごかったかというと、妻子に逃げられるぐらい、です。
……これ、ドキッとしたお父さんもいるんじゃない?
ちなみに悠木と彼の家族との関係がどうなっていくのか、というのが本作のもうひとつのテーマになっていますので、そのあたりにもぜひ注目してご覧ください。
さて、最初からフルスロットルの熱いテンションで2時間23分は、ちょっと僕の脳みそがもたないなと心配していたのですが、そこはさすがベテラン監督。ちゃんと考えられています。
本作は基本的に1985年を舞台に物語が進行するのですが、たまに舞台が現代(2007年)に戻ります。そこでは年老いた悠木が山を登っているシーンが挿入されており、目の前に広がる雄大な景色が85年の喧騒に疲れた視聴者にとって一服の清涼剤の役割を果たしています。
もしかしたら監督にそんな意図はなかったのかもしれませんが、少なくとも僕にとっては良いメリハリになりました。 もちろんこの時間軸の演出も物語上大きな意味を持っていますが、それはネタバレになりますので実際にご覧ください。
"新聞人"を目指す学生は必見!?
トークセッションですが、こちらは日航機墜落事故を実際に取材した記者が参加しただけあり、実にリアルな話を伺うことができました。
特に現場付近の地図を使った解説や、当時の新聞記事など、貴重な資料とお話が盛りだくさんで、参加した学生にとっても大変貴重な経験になったことでしょう。
3部構成の最終部では、質疑応答が行われ、参加した大学生たちから様々な質問が飛び出しました。
多かったのは映画の内容や演出についての質問ですが、中には「監督自身は、『映画が観客にどんな影響が与えるか』ということを考えて作品を製作されているのですか?」といった、監督の映画製作に対するスタンスを問う質問も。
これについては、監督から「映画は社会の写し鏡だと思っています。たとえば僕の映画を見て人を殺しました、という人がいたとしても、罪の意識は感じません。犯罪者の言うことは間違っているし、たとえそんなことを言われたとしても、自分の映画はその陰で100人の命を救っているんだ、という気概で作っていますから」と明快な答えが返ってきました。
またトークショーのラストでは、監督から現代の若者に向けて、「今の若い世代は、怒ったり、怒鳴り合ったり、何かで葛藤して悩んだりした経験のない顔をしています。ジャーナリストは、書く文章はもちろん冷静であるべきですが、そこに至るまでのプロセスでは感情をぶつけ合うほうが自然だし、そうするべきだと思います」という熱いコメントが。
……とても良い言葉なのですが、でもこれ、今回のトークショーに参加していた学生よりも、むしろジャーナリズムに関心のない、その他大勢の若者や一般の方に届けたいメッセージだと思います。
今回は参加者を一般公募せずに、大学生やメディア関係者を招待して本イベントが行われたわけですが、今後LMNのこうした集いが大きくなっていくのであれば、ぜひ一般の方も招いてディスカッションしてほしいですね。
様々な問題を考える契機となった映画、「クライマーズ・ハイ」は、7月5日(土)から丸の内TOEI他、全国ロードショーとなります。
ぜひこの機会に、メディアの在り方についてもう一度考えてみませんか?
(C) 2008「クライマーズ・ハイ」フィルム・パートナーズ