フランス3日目。この日も早起きをして、建築巡りへと出発した。ホテルからノートルダム大聖堂(1345年)、そしてアラブ世界研究所(1987年)へと向かう。

アラブ世界研究所はフランスの建築家、ジャン・ヌーヴェル設計の代表的な建築。同氏は2008年に建築界のノーベル賞ともいえる「プリッカー賞」を受賞した旬の人でもある。日本では東京・汐留の電通本社ビルを手掛けている。ガラスを使用するのが得意なジャン・ヌーヴェルらしく、同研究所も外壁一面がガラス。南側一面に並ぶ窓は、カメラの絞りのような調光装置が日光の量によって自動的に開閉して模様が変わる。アラブ的な模様だったり、日本特有の切り絵のようにも見えたり。なぜだろうか、少し懐かしく感じた。

フランスの建築家、ジャン・ヌーヴェル設計の「アラブ世界研究所」。あいにくの雨模様だったが、ガラス一面の建物は透明感のあるシャープな印象だ

まるでカメラの絞りのような調光装置が装備された窓。館内に差し込む日差しの量を調節するのとデザインの両方を兼ね備えている。外壁一面に並ぶとアラブ的な模様が圧巻

朝から建築の洗礼を受けた筆者。いよいよ南フランスのマルセイユにあるル・コルビュジェ建築の「ユニテダビタシオン」(1952年)へ。リヨン(Paris Lyon)駅からTGV(新幹線)で3時間半の旅。近づくにつれて車窓からの風景は、地中海特有のレンガの家が目立つようになる。抜けるような青空からは日差しも強い。

マルセイユに到着したら地下鉄に乗り継いでRond-Point du Prado駅へ。最寄り駅からは徒歩で約15分。バスで行くならば最寄の停留所は、その名も「ル・コルビュジェ」だ。大通り沿いにマンションが立ち並ぶ中でも、目的地の「ユニテダビタシオン」はやはり別格の佇まいだった。この旅で同氏の建築は2つ目となる。

マルセイユの大通りに面しているユニテダビタシオン。豊満な脚のようなピロティが約350戸の住戸を支えている構造は圧巻。夕暮れには西日でコンクリート打ちっぱなしの外壁が柔らかに照らされる

集合住宅を意味するユニテダビタシオンは、同氏が都市を再現しようと住居、ホテル、幼稚園、体育館、プール、店舗などが1つの集合住宅内に凝縮されている面白い建築だ。見学するだけでなく実際に宿泊することができるの魅力のひとつ。筆者も今回はホテルに宿泊し、"一住人"となって名建築を堪能することができた。エントランスを入り、フロントのある3階へ向かおうとエレベーターに乗ると、住人が笑顔で声を掛けてくれた。住人同士の世間話もはじまり楽しそうな雰囲気に和む。

エントランスにもル・コルビュジェのこだわりが盛りだくさん。厚い壁の明り取りには彩色されており、キャンディーのような光が差し込んできて可愛らしい。貝殻の収集が趣味だったという同氏らしい壁の装飾も、屋内に設置した同氏設計の照明もすべてが作品

住戸が並ぶ廊下は昼間も暗いが、照らされた色とりどりの玄関が浮き立つ

到着したその日は早速、「屋上庭園」を見学。屋上には体育館、プール、滑走路、壁に投影する映画スクリーンもある共用施設が集まっている。実際に見てみて、こんな屋上を持つ集合住宅は50年以上経った今も、世界でここだけではないかと驚いた。個の集まりの集合住宅として住居は防音や配置が考え抜かれている一方で、屋上ではその個が交わる工夫がされているところが意味深い。すると突然、外国の見学者の男性2人に英語で話し掛けられる。住人が実際に部屋を見学させてくれるので一緒にどうかという誘いを受け、貴重な機会を得ることになった。

共用施設が集まった屋上庭園。体育館のほか幼稚園や絵画教室もあって、教育も万全?!マルセイユの地中海もすぐ目の前だが、夏には屋上のプールで子供たちが水遊びに興じるという。内周は滑走路になっており、ジョギングもできる。コンクリート壁が直角に立っているのは何かと思えば、映画を投影するスクリーン代わりと聞いてびっくり