極端紫外線露光(EUVL:Extreme UltraViolet Lithography)技術は、次世代の半導体チップ量産用に研究開発が非常に活発に進められている技術である。波長が13.5nmと短い軟X線(極端紫外線)を光源に採用し、縮小投影方式で半導体回路のパターンをシリコンウェハ表面に露光する。
現在の最先端半導体製品は、量産にArF露光技術を採用している。光源であるArFエキシマレーザの波長は193.4nm。リソグラフィで解像できる最小の線幅は光源の波長に比例するので、13.5nmのEUV露光は193.4nmのArF露光に比べるとはるかに微細なパターンを描けることになる。
最小加工寸法が40~45nmの半導体チップは、ArF露光技術の改良で量産できる見通しである。実際、最小加工寸法が45nmのマイクロプロセッサや43nmのNAND型フラッシュメモリの量産が始められている。しかし最小加工寸法が32nm以下の次世代半導体チップは、ArF露光技術の改良では膨大な開発期間を必要とする可能性が高くなってきた。
そこで期待がかかるのが、EUV露光技術である。光源の波長がArF露光の1/10以下と短くなることで、微細なパターンの解像度が一気に上がる。解像度は基本的には、光源波長と投影レンズの開口数(NA)、プロセス係数(k1ファクタ)で決まる。投影レンズのNAは低い方が技術的に容易で、通常は1.0未満になる。プロセス係数は0.25以上の値であり、高ければ高いほど露光が簡単に済むことを意味する。
例えば次世代半導体チップの量産に必要な32nmを解像するには、ArF露光ではNAが1.55の光学系を開発し、k1ファクタを0.26に下げなければならない。これは非常に高いハードルだ。一方でEUV露光技術では、NAが0.25と低く、k1ファクタが0.59と緩やかな光学系で32nmを露光できる。原理的には非常に簡単に次世代半導体チップを実現可能になる。
ただしEUV露光技術は、まったく新しい露光技術システムである。半導体露光システムの要素技術や周辺技術、インフラストラクチャのすべてを新たに作り上げなければならない。EUV露光技術の開発プロジェクトは、膨大なリソースを要求する巨大プロジェクトになってしまう。民間企業1社では、とうてい負担できる規模ではない。
そこで日本では、二大露光装置メーカーであるニコンとキヤノンの自主開発努力のほか、民間の共同研究開発会社「株式会社半導体先端テクノロジーズ(Selete:Semiconductor Leading Edge Technologies)」、技術研究組合「極端紫外線露光システム技術開発機構(EUVA:Extreme UltraViolet Lithography System Development Association)」、文部科学省のリーディングプロジェクトなどが連携して研究開発を進めている。
独立行政法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)は2002年度からEUV露光装置の光源と投影光学系の開発をEUVAに委託し、2006年度からはEUV露光装置用マスクの開発をSeleteに委託してきた。これらの開発の一部は、国内複数の大学が再委託先としてを分担している。EUV露光技術は日本の産官学が相当なリソースをかけた大きな開発プロジェクトであることが分かるし、それだけのリソースをかけなければとても完成しない、巨大技術なのである。