一目でノックアウトされてしまった。事前に写真集などで予習をしてきたものの、想像をはるかに超え、言葉にし難い感動が胸に迫ってきた。「すごい場所に来てしまった!!」。
少し冷静になったところで、近づいたり、眺めたりしながら外観をゆっくりと一周。緑の芝生に白い外壁、コンクリートの甲羅状の屋根は共通しているものの、360度どこから見ても違う建物のように見える。南側には様々な大きさのいくつもの明り取りがあり、北側には赤色と緑色のドアをつないだ階段が設置されていて面白い。西側には屋根の雨水の落とし口とそれを受けるオブジェがあり、東側は屋外でも礼拝ができるように祭壇、説教壇などが設置された広場になっている。色々な顔を持った建築で、これが礼拝堂だという事実に驚かされる。
いよいよ礼拝堂の中へ。外観とのギャップにまた驚かされてしまう。内部はまさに祈りの場所。コンクリートに囲まれた緊張感のある暗闇の中に、ステンドグラスとは一味違う紫や緑に色づけされ、絵や文字まで描かれた不揃いの明り取りから温かい光が差し込んでいる。さらに中には赤い壁と白い壁の筒状の小さな礼拝堂もあり、天井高の明り取りから壁を伝わって柔らかな光が注がれる。この礼拝堂はル・コルビュジェ自身が言った通り「光の器」として光を導いていた。
1955年に竣工したこの礼拝堂は、それまでル・コルビュジェが白い箱型の建築を作っていただけに、唐突に作風を変えたことで「裏切り」とも言われ大きな議論となった。今ではこの礼拝堂はル・コルビュジェの後期の最高傑作と言われている。
夕暮れに染まる礼拝堂の姿も見てみたいと後ろ髪を引かれながら、1時間半の滞在で後にする。礼拝堂を囲む山や町の景色も見晴らしが良く美しかった。交通費も時間も掛かるが、それでもあの丘の上の礼拝堂に立った時の感動はどこでも味わえない。
夕方17:00過ぎにパリ市内へ戻ってきた。休むまもなくルーヴル美術館へ足を運ぶ。入り口の「ガラスのピラミッド」は、1989年にアメリカの建築家・I.Mペイの設計で落成され、伝統ある宮殿の外観を損ねるとパリ市民の世論を沸騰させた。美術館に新しい魅力を生み、世界からの観光客の名所となっている今の様子からは想像がつかない。モダンなガラスの入り口は、筆者に美術館内に広がる古代からの美術の世界と、外のパリの今を介してくれる"どこでもドア"のような不思議な感覚をもたらした。
時の経過とは不思議なものだ。人々の建築の見方も変える。建築家は未来を予見しながら時代の先を行く職業で、完成当初は人々を驚かせてしまうこともあるかもしれないが、月日を重ねて人が集まり愛着を持った時、真の理解を得ているようだ。大変難しい職業でもあるが、大変うらやましい職業だ。