フランスへ旅行するとなれば、ルーヴル美術館を訪れ、フランス料理に舌鼓を打ち、憧れブランドでショッピング……というのが一般的だろう。しかし、筆者は初めてのヨーロッパ旅行であるにも関わらず、テーマを「建築」に絞り、その他の欲望を抑えひたすらフランス国内を巡った。昨日今日の建築好きではあるが、フランスは歴史的建築と現代的建築の共存している点が魅力的だと実感。時代を重ねながら斬新な要素を融合させてきた街並みが印象的だった。そこで、筆者が他の欲望を抑え、フランスで味わった"建築のフルコース"について、3回にわたってお伝えしたい。
某月某日。建築の旅にふさわしく、イタリアの代表的な建築家レンゾ・ピアノ設計の関西国際空港から日本を旅立った筆者。約12時間の飛行時間の末、フランスのシャルル・ド・ゴール空港へ降り立った。着いた途端、この空港の宇宙船のような建築に圧倒される。フランスでの建築巡りのスタート地点に立った。そんな思いが胸を去来する。
時差ぼけにも負けず、ホテルに荷物を置くとすぐさまポンピドー・センターへと向かった。宿泊したホテルはその真裏。エントランスを出て10歩も歩けば、一瞬たじろぐ外観を持つ同センターが現れる。
第一印象は「……派手な工場だなぁ」。青や黄、緑色など原色のパイプやダクトが外壁にむき出しになっている。7階までつながった透明の"チューブ"はエスカレーターだ。国立近代美術館や公共情報図書館、映画館、劇場、音響音楽研究所が入っている世界的な文化発信スポットだとは一見では分からない。外壁に押し出されたパイプは、空気管が青、水道管は緑、電気管は黄、エレベーターは赤色に彩色し、設備系を外に配備することでメンテナンスがし易いという利点があるということも後から知った。
1977年の開館当初、建築界も市民も外観に驚愕し、パリの歴史的街並みにそぐわないとの非難につながっていったという。しかし30年経った今、パリの街並みとも調和し、たくさんの人が集まる場所として確立している。
この歴史的にも文化的にも大きな意味を持った建築を手掛けたのは、日本では出発地ともなった関西国際空港や銀座メゾンエルメスを設計したレンゾ・ピアノとリチャード・ロジャース。先日、レンゾ・ピアノがテレビ番組で「建築家は特別な職業だ。画家など他の職業は、完成品が駄目だったら公表しなければ良いが、建築は建ってしまうと誰の目にも触れることになる。未来に存在し続ける建築を作る者としての責任も負わなければならない」と言っていたのを思い出す。きっとレンゾ・ピアノは同センターを手掛けた当時も、酷評を受けながらも「いつか認められる」と確かな自信を持っていたのかもしれない。番組内では「建築家は詩人でなければいけない」「冒険心を忘れてはいけない」と言っていたが、実際に同センターを見て納得した。
初日はポンピドー・センターを見るので精一杯だった筆者。心残りを抱きつつ、フランスの建築巡り2日目を迎える。4:30に起床。先が思いやられるが気持ちを奮い立たせ、近代建築の巨匠、ル・コルビジェによる「ロンシャン礼拝堂」を目指す。まだ夜が明けない真っ暗闇のパリの街を足早に、地下鉄へ乗り込む。
東駅(Paris Est)からはTGV(新幹線)に乗車。日本で言えば東京から岡山への乗車時間程の3時間半をかけて、ルアー駅(Lure)に到着した。すっかり日は高くなり、遥々とスイスの国境近くまで来てしまった。今度は駅からタクシーで15分。運転手に行き先を告げると「コルビュジェね! 」と誇らしげな返事が返ってきた。道の途中で運転手が車窓の外を指して、丘の上に白い礼拝堂が見えてきたことを教えてくれる。ここまで遠くて焦らされた分、一気にわくわくしてきた。目的地に着くと、はやる気持ちで丘を駆け上がった。