20年間で6倍にも増加した蓄膿症の原因は……
エバー・ウォール・ジェー・ピー・トレーディングの代表取締役社長で来日33年になる米国人のスタンレー・ジョンソン氏は、室内の空気汚染の脅威について講演し、「Air Quality(空気の質)」の重要性を訴えた。冒頭で同氏は、煙突からもくもくと煙を吐く工場と清潔な佇まいのリビングルームの写真を示し、あなたはどちらで過ごしたいかと場内に質問を投げかけた。誰もがリビングルームと答えるところだが、米国環境保護庁(以下、EPA)が発表したデータによれば、リビングルーム内の空気は、公害を出す工場周辺の空気よりなんと96倍も汚染されていたという。場内から驚きの声が上がった。
氏によれば、米国内でもっとも多い感染症は約3,700万人の患者がいる慢性蓄膿症(副鼻腔炎)とのこと。20年間で6倍に増加したという。大手病院での研究によれば、これはカビに対し人体に負荷がかかり放しになり、常に花粉症にかかっているような状態になるためだと判明した。カビの原因は何か? EPAは、調査の結果壁紙のビニールクロスに主な原因があることをつきとめ、その使用について強い警告を発したという。
さらにEPAの調査では、壁から剥がしたビニールクロスからは1,000種類以上のカビが発見されたという。水分は、温度も湿度も高いほうから低いほうへと移動する性質を持つが、ビニールクロスは水分を通さないためカビを発生させるのだと指摘する。こうしたカビのほとんどは人体にとって有害なものばかりで、この結果を受けて米オレゴン州ではすでに、ビニールクロスそのものを州内からなくそうというキャンペーンが始まっているという。 同氏は、ビニールクロスのカビが慢性蓄膿症をはじめとするさまざまな病気を誘発する原因となっていると訴えた。
日本のビニールクロスの使用率はと言うと、いまだに壁紙の95%がビニールクロスで占められ、その面積は7億平米にも及ぶという。ビニールクロスは安価なため、使用が減らないのだ。ジョンソン氏は日本国内でのビニールクロス使用が、日本で深刻な室内の空気汚染を招き、さまざまな病気の原因となっていると指摘する。ジョンソン氏は、ビニールクロスと同じように安価で、かつ健康にいい壁材の研究開発に取り組み、現在その普及に努めている。
ホルムアルデヒドによる空気汚染でハムスターが死ぬ
室内の空気汚染については日本のシックハウス研究の第一人者で、室内環境学会前会長の柳沢幸雄東京大学大学院教授の講演も興味深いものだった。同氏によると、一日の人間の生命維持活動に必要な食料と水はそれぞれせいぜい2kgずつ程度だが、空気は15kgも必要だという。また、ほとんどの人は90%以上の時間を室内で過ごすとし、とくに主婦は自宅にいる時間が長いので、室内の空気がいかに大切か、柳沢教授は力説する。
住宅の密閉度が高まり、室内の汚染物質が外へ出て行かないために起きる空気汚染は深刻だという。現実に、ホルムアルデヒドによる空気汚染により室内で飼っていたハムスターが死ぬといったこともあるそうだ。主因は、建築の際使われる合板建材の接着剤だ。行政側では指針値や建築基準法を改正して対応に取り組んでいるが、こうした汚染物質は加水分解によって放散しつづけるため、有害物質の中で暮らしつづけることになる危険性があるとしていた。
柳沢氏は「身の回りにある化学物質を一度ゼロにしろ」と提案する。暮らしに入り込んだ化学物質は減らそうと思っても、なかなか減らせないのが常。だったら一度、洗剤も防虫剤も含めて暮らしから一切の化学物質をなくす。なくしてみて、耐えられるか耐えられないか。もし耐えられないなら、他のものに代えることはできないか? 柳沢教授は、各人による化学物質への真剣な取組みが、今こそ必要だと訴えた。