ディレクターの三宅一生氏がスタッフとともに手がけたインスタレーション作品『21世紀の神話』は、素材に廃棄される紙や梱包用包装紙を使う事で、作品づくりにリサイクルや環境保全の視点を取り込み、作品を通じて化石燃料に依存する生活を問い直している。

三宅一生『21世紀の神話』(東京/2007-2008)紙でできているとは思えないような荒々しい表情の龍に、幻想の森に遊ぶような娘たちが対照的だ

本作では、日本の神話「ヤマタノオロチ」とストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」にインスパイアされ、これをモチーフにした龍と8人の娘が巨大な空間いっぱいに表現されている。三宅氏の代表的なプロダクトである「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」は化学繊維の発展を背景に実現しているが、本作ではこの製造過程において廃棄される紙を、和紙づくりの技術で再生し、素材として活用している。これらを素材として衣服とボディを制作し、さらに梱包用包装紙を使ったダイナミックな空間を作り出している。

イッセイミヤケ・クリエイティブディレクターの藤原大氏を中心とした、デザイナーとエンジニアによる混成チーム、イッセイミヤケクリエイティブルームは「ザ・ウィンド」を出品している。

2006年にイッセイミヤケ・クリエイティブディレクターに就任した藤原氏

ザ・ウィンドは、2007年にパリコレクションで発表した「DYSON A-POC」シリーズをモチーフとしたインスタレーションで、DYSON A-POCは「The Wind(風)」をテーマとした2008年春夏のコレクションの演出を、ジェームズ・ダイソン氏に協力を依頼した事がきっかけとなっている。A-POCは1998年より展開しているブランドで、コンピュータを介在させた革新的なシステムを発展させた次世代型の服作りを行ってきているもので、今回、ダイソンとのコラボレーションもその一環と言える。ジェームズ・ダイソン氏は言わずと知れたサイクロン・クリーナーの代名詞、ダイソン社の創業者であり、インダストリアルデザイナーとしても知られる人物だ。

DYSON A-POCは、ダイソンクリーナーの部品を衣服のパーツとして取り込んだものだったが、ザ・ウィンドではさらにこの作業をボディを形成する事に発展させている。つまり、ダイソンクリーナーの部品を分解し、これらを新たに組み上げてボディを制作し、これにDYSON A-POCで生み出された服を着用させているわけである。

藤原氏はダイソン氏とのコラボレーションに至った経緯について、「コレクションでは風がテーマだったのですが、ショーで風を吹かせるのは、これまで何度も繰り返されてきた表現でした。それで吹くんじゃなくて、吸ったらどうか、という事でダイソン社に協力をお願いしたのです」と語る。また、制作の様子について「当初はバラバラに分解する予定はなく、クリーナーの機種別に作ろうというアイディアもあったのですが、一旦、作業をはじめるとスタッフの手が止まらず、いつのまにか分解する事にもなりました。その作業はとても楽しそうだったのですが、僕は実質的な作業には入れてもらえませんでした(笑) スタッフ総出で、制作している間はだれも"仕事"をしていないほどの熱中していました」と、楽しそうに語っていたのが印象的だった。

イッセイ ミヤケ クリエイティブルーム『ザ・ウィンド』(東京/2007-2008)。(DSC_0213)当初、正立していたが、足を見せる事を考え、逆立ちさせる事にしたという。意図か偶然かまるでダンスをしているかのようだ

本展には三宅氏が多くの刺激を受けたという、3人の作家の作品が特別に参加している。ティム・ホーキンソン氏の『ドラゴン』は2007年のロサンゼルスのゲティ・ミュージアムで開催された個展「Zoopsia」に出展された作品。365×269cmの大作で、クラフトペーパーに描かれた後にネットに貼られ、梱包用のナイロンの紐で木の棒に括り付けられている、水墨で描かれたような味わいの龍の力強さが伝わってくる作品だ。デザイナーのロン・アラッド氏が制作した『ピザコブラ』はデリバリのピザボックスのようなパッケージに収められており、使用する際に自由に形を変えて使う事ができる照明器具だ。

ティム・ホーキンソン『ドラゴン』(ロサンゼルス/2007)

ロン・アラッド『ピザコブラ』(ロンドン/2007)

そして、三宅氏が感銘を受ける事が多かったというイサム・ノグチ氏の1930年の作品、『スタンディング・ヌード・ユース』も出品されている。青年時代のノグチ氏が北京滞在中に学んだ墨絵の技法で描いたもので、滞在中に描いた100点以上の裸体画の中でも際立って力強い作品。この作品を見いだしたニューヨーク在住のアーティスト、デュイ・セイド氏は、「スタンディング・ヌード・ユース」をヒントに、和紙の原料となる楮(コウゾ)を組み合わせて人体像を構成した『スティックマン』を出品した。

イサム・ノグチ『スタンディング・ヌード・ユース』(北京/1930)

デュイ・セイド『スティックマン』(東京/2007)

この他、国内外の注目される作家の作品が出品されている。建築、インテリア、プロダクト、グラフィックに至るまで、大変幅広いジャンルで国内外から注目を集めている、佐藤オオキ氏が率いるデザインオフィス、nendoも参加、新作の椅子『キャベツ・チェア』を出品した。三宅氏の作品と同様に、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」の製造過程で使われた後、不要となる紙でつくられた新作の椅子『キャベツチェア』で、紙を重ねて筒状に巻き、下部を固定した後、外側の紙から1枚づつむいていく事でその面が座面となる。まさにキャベツのような構造となっている。残念ながら座る事はできなかったが、布のようにも見える素材の紙の風合からは、意外に座り心地はよいのではないかと思わせるつくりだ。

nendo『キャベツ・チェア』(東京/2007-2008) 和紙のような風合で、ちょっと見ただけでは紙なのか布なのか判別がつかない質感を持つ素材でできている

ロンドンのプロダクトデザイナー、ベンウィルソン氏は一輪自転車を実現した『モノサイクル』を出品している。二輪自転車の登場で忘れ去られてしまった、自転車の期限であるはずの一輪自転車を制作する事で、人間の持つ運動能力と想像力、ものづくりの可能性を探っている。

ベン・ウィルソン『モノサイクル』(ロンドン/2007-2008)

『まばたきの葉』で知られるアーティスト、鈴木康広氏は空気中の水が起こす結露現象からイメージを広げたインスタレーション『はじまりの庭』を出品した。枝を連想させる構造体に冷水を循環させる事で、凍結と解凍を繰り返すもので、枝に結露した雫が少しずつ成長し落下するしくみになっている。沖縄で喫茶店を営むという外間也蔵氏は、生まれ育った与那国島の伝統的な凧への強い思いから、コーヒーの袋を素材として制作した『どぅなんエンデバー号』を出品した。

鈴木康広『はじまりの庭』(東京/2007-2008)

外間也蔵『どぅなんエンデバー号』(沖縄/2007)