計算し尽された映像

――監督がいちばん好きなシーンはどこですか

「音楽や映像のバランスを考えて、イメージどおりにいったのは、石田くん(石田卓也・阿久津伸二役)がCDショップに行くシーンからその後の銃撃戦に入っていくまでの一連です。あのなだれこむ感じがうまくできたなと。あと、富司さんと金城さんのラストシーンですね」

――ラストシーンもそうですが色彩が独特だなと感じたんですが

「デザインっぽいってことでしょうか?」

――というよりも、ロケなのにセットぽいというか

「そうなんですよ。もともと撮影監督の柴主(高秀)さんの撮る画が好きで。すごく計算されてかなり緻密に照明を当てているとおもうのですが、そこにさらに影を作るので、なんだかどこの都市だかわからない印象になる。ひとつのユートピアというか、死神が現れそうな架空都市を作ってくれている。金城さんの存在感と、照明など含めた全体的なこともあって独特な色彩を感じるのでしょうか? あと、衣装のことは細かく考えました。

人間界に現れるときはなぜか雨ばかりで、天候に恵まれない。そのため、千葉(金城)は青空を見たことがない。ちなみに一緒にいる黒い犬は上司

――"Sweet Rain"という原作に無いタイトルは監督のアイデアですか?

「誰かのアイデアです(笑)。原作とは違う、映画ならではのオリジナルのアイデアもたくさんありますし、映画は映画と言う意識もありましたので。あと、活字の印象から、『死神の精度』だとホラーというか、堅い内容だと思われるのではという思いもありまして、映画ならではのタイトルを入れようという話になりました。でも、この言葉が加わったことで、イメージが広がったと思います」

素手で人に触れると気絶させてしまうため、白い手袋が手放せない(とはいえ、ときどきつけるのを忘れてしまう)

映画監督としての今後

――監督ご自身のことについてうかがおうと思います。最初から映画監督を目指していたわけではなかったとか

「マンガを描くつもりでいたんです。30歳で大ヒット漫画家のつもりでしたから(笑)。まさか、映画監督になれるとは思っていませんでした。もちろん、監督もやりたかったんですが、あくまでもそれは人生で最後の目標といいますか。いつか人生で一本映画を撮れれば良いなと思っていたくらいだったので。絵を描きたかったから、本当に絵を描いて一生暮らせたらこんなに幸せなことはないな、と思っていました。今となっては絵を描けるっていうのはかなり武器かなと。なるべく絵コンテも描いてますしね」

――監督になった、という自覚は出てきましたか?

「まだそれ程自覚はないですね。この5年くらい偶然に、映画とかドラマとか、色々と映像の仕事が続いているだけです。劇場公開映画に関するこだわりは、他の監督さんに比べるともしかしたら薄いかもしれないですね。好きなことをやれていれば、他のことでもいいかなと思えてしまうタイプだから。時間とお金がかかってしまうということではあるけれど、僕の中では、ものを作るという意味では映画も絵も同じです。そういうスタンスでいたいなという気持ちでいます」

――それでも「監督、監督」と言われるとことが多くなったのでは

「多いですね。始めは恥ずかしかったです。僕、監督のなかでは若い方なんで、スタッフが僕を呼ぶのに、「筧くん」「筧さん」のどっちで呼べばいいの? っていう微妙な空気になることがありますし(笑)。だから、監督って呼べば良いかなと思っているのかな、という感じは若干ありますね(笑)。現場で、役職で呼ばれるの、僕だけですからね。"撮影さん"とか"照明さん"とかあんまり言わないですからね。

「それだけ特殊な仕事。撮影が終わって何カ月もたつのに、公開まで関わるのは、僕と役者の方だけじゃないですか。役者の方はもっと作品の本数が多いけれども、僕らは本当に何年に一本しか撮れないし、DVD発売まで続くわけです。永遠にずっと作品の説明責任をもつというか」

「たとえば、海外映画祭に行くと、お客さんの目が厳しくて、なんであのカットがあったのかとか指摘されることもある。映画の現場って、カメラマンや役者の方の意見を取り入れて進めていくので、監督の意見じゃなくても撮ったりするんですよね。けれど、それを最後に編集でどうするか決めるのは僕なんです。僕の責任になるわけです。だから、質問されたときにもちゃんと答えられなくてはいけない責任を持つんです。だから監督はちょっと特別なんだなっていう感覚はもってます。だから、役職で呼ばれるのかな(笑)」

――これからはどんな活動を

映画中心にやっていきたいなとは思いますけど、本数をたくさん撮るというよりは、一本一本を大切に。そうですね……がんばります(笑)。ずっと隙間でいたいですね。隙間な感じを王道にしたいですね(笑)。なんとなくですけど、ずっとこういう『死神の精度』みたいな感じの映画を撮れたらいいなと思いますね

PROFILE

かけひ・まさや
1977年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科映像コース卒業。14歳の時に「妖怪のいる町」でビッグコミックスピリッツ月例新人賞奨励賞受賞。大学入学とともに本格的に映像制作を始める。代表作に、映画『美女缶』(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2003オフシアター部門グランプリ、ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2003企画賞受賞)、ドラマ「世にも奇妙な物語 '05年春の特別編『美女缶』」、「ロス:タイム:ライフ」、「ユキポンのお仕事」、短編映画『35度の彼女』など。昨年公開の『恋するマドリ』の原案も担当した。映画のほか、マンガ、イラストレーション、文筆業と幅広く才能を発揮している

『Sweet Rain 死神の精度』

出演・金城武 / 小西真奈美 / 富司純子 / 光石研 / 石田卓也 / 村上淳 / 奥田恵梨華 / 吹越満 ほか

監督 : 筧昌也
脚本 : 筧昌也、小林弘利

丸の内プラゼールほかにて全国ロードショー中

(C)「Sweet Rain 死神の精度」製作委員会

インタビュー撮影:石井健