標準UIから独自UIへ
当初は標準のユーザーインタフェース(UI)をほぼそのまま採用する機種が多かったWindows Mobileデバイスだが、F1100のみならず、次第に独自色の強い待受画面や操作体系を持つ機種が増えてきた。HT1100は、独特のタッチ操作技術「TouchFLO」を全面的に採用し、タッチパネル上で指を滑らせることでスクロールやズームなどが行える。
Windows Mobile搭載スマートフォンが日本よりも先に登場していた欧米市場では、すでにそのような独自UIの採用は一般的に行われている。昨年発売された機種では、T-Mobileの「Shadow」などがそれにあたる。Windows Mobile自体に珍しさがあった最初期は、搭載OSだけで注目を集めることができたが、次第に「他の機種にはない特徴」が求められるようになるのは当然だ。F1100があえてタッチパネルを採用せず、キーのみの操作にこだわったのも、日本のWindows Mobile機としては後発になる中で、独自の付加価値を求めた結果のひとつである。
梅田氏によると、各メーカーからのカスタマイズ要求が最も強いのがUIやブラウザの部分だという。特に、昨年のAppleによる「iPhone」発売前後から、タッチ操作を特徴とした携帯電話の開発には世界各国のメーカーが力を注いでいる。
「2月にバルセロナで開催されたMobile World Congressでも、滑らかなボディに大型のタッチスクリーンを搭載する、いわゆるiPhoneライクな携帯電話は多く出展されていました。そういった製品が今年ひとつのカテゴリを形成していくことは間違いないでしょう。我々もUIの部分は高い優先度をもって開発していますので、Windows Mobileの次のバージョンでは、そこに重点をおいたアップデートを行うことになると考えられます。ただ、そういったフルフラットパネルのデバイスや、Windows Vistaのような半透明のリッチなUIを備えるデバイスがあれば、一方で、片手操作に特化したようなデバイスもあるわけです。我々の場合はプラットフォームを提供する立場ですので、それらを同じようなルック&フィールで簡単に実現できるような、ベースの部分をご用意するのが役割です。そこが、Appleさんとの立ち位置の違いだと思います」(梅田氏)
Windows Mobileの次期バージョンについては、登場時期を含め公式には何のアナウンスもされていない。ただ、ベースOSがWindows CE 5.0から6.0に変更される次期メジャーバージョンアップの前にも、逐次改善版にあたるマイナーバージョンアップは行われる模様で、そこでもUIに何らかの改良が加えられるとみられている。
携帯OS市場の中でのWindows Mobileの方向性
携帯電話のOSとしては、iPhoneに搭載されているOS Xのほか、Symbian OSや、Googleらが中心のOpen Handset Allianceによる「Android」などがある。現在のところWindows Mobileは高機能スマートフォン向けに特化しており、ミドルクラス以下の市場で大量のライセンス数を稼ぐという戦略はないように見える。
エントリー~ミドルクラス市場向けは「やるともやらないとも言えない」(梅田氏)ということだが、もともとWindows Mobileはハイエンド市場だけを狙っていたわけではなく、ミドルクラス以下の製品にも適用すること自体は可能という。また携帯電話の場合、全体の開発・製造コストに占めるOSのライセンス料はPCに比べて非常に小さく、むしろミドルウェアやデバイスドライバの開発に長い期間と費用がかかるため、コスト面でもWindows Mobileには十分競争力があるとしている。
一方、ウィルコムがWindows Vista搭載のUMPCを開発中と発表するなど、従来スマートフォンがカバーしていた利用シーンに近い、新たなデバイスも登場しようとしている。ある部分ではWindows Mobileと、PCのWindows Vistaがライバル関係になりかねないのではないか。しかし梅田氏は「ユーザーの方々が無意識に使い分けていくことになるのではないか」と話し、競合の心配はないと見ている。
「フォームファクタ的には、小型のPCがスマートフォンに近づいてきているのは確かですが、スイッチオンですぐ使いたい、バッテリで長時間駆動させたいというニーズに対しては、携帯電話のようにハードウェアから専用に作られている組み込み機器のほうに分があります。電車を待つ間などのちょっとしたスキマ時間に、メールやスケジュールをチェックするといった用途には、やはりCE系デバイスのほうが良いと思われます。少し広めの画面でExcelのシートを確認したい、座れる場所で長めのテキストを書きたい、という用途でしたら、UMPCを選ぶことになるでしょう」(同)
そもそもマイクロソフトにとっては、「PCとスマートフォンのどちらに力を入れるのか」という質問はあまり意味がないのかもしれない。梅田氏は次のような言葉でインタビューを締めくくった。
「ひとつ言えるのは、携帯専用のアドレス、ちょっとファイルを開くにも専用のビューワーソフト、会社のサーバーに接続するときは特殊なUIのリモートメール……といった状況よりも、使い勝手はデバイスを問わずいつも共通のほうが便利なのでは、ということです。メーラーもスケジューラーもPCと同じ機能が使えます、すべてのWebサイトが制限無く見られますというように、エクスペリエンスが共通であれば、ユーザーにとってみればプラットフォームは何でも良いのではないでしょうか。ですので我々は、ユーザーの方の利用シーンにあわせて、最適なプラットフォームをそれぞれにご用意していくということになります」