内側に和紙を貼って1日乾かし、薬を塗ってまた1日乾かしてから外側に取り掛かるという、ものすごく時間と手間のかかる工程だ。実際に浩子さんの手際の良い見事な絵付けの技法を目の当たりにした後、来店者も立候補して体験。刷毛を持つ手を震せながらも、和紙に空気が入ってしわにならないように慎重に作業を進め、奥田さんらの"後継者探し"をほのめかすような実況も会場を湧かせた。
丸直製陶の陶器は通常、3つくらいの商社を通してやっと百貨店などの売り場に並ぶ。丸直製陶の特色である厚さ1、2mm程の薄い繊細な陶器は、輸送などの扱いにくさのリスクから敬遠されたりもするという。なんとももったいない話である。
後継者問題を解決するにはマーケットの若返りが急務
将高さんにとって今回、自分と同世代の若い世代へ商品を紹介するイベントは初めての経験だという。将高さんをはじめ、伝統工芸の現場には若い継承者がたくさんいるが継ぎたくないという葛藤も多く、将高さんも「最初は家を継ぐことは嫌だった。でも、生まれた時から当たり前のように見てきた私のところの陶器が、他にはない珍しい特色があると分かると継がなくてはいけないと分かった」と話す。また、ナガオカケンメイさんも「まず継承するにもマーケットを若返らせないといけない。継承するのは実際若者なのだし、日本の伝統工芸には若い感覚が求められている」と考える。
イベント終了後、将高さんは「使ってくれる人たちに『説明責任』を果たさないといけない。それが改めて分かった」と感想を話した。「説明責任」というと固いイメージだが、実際にイベント中の将高さんの説明はユーモアたっぷりで、伝統工芸への興味関心が一気に高まった。例えば、丸直製陶の陶器が薄い理由。「明治26年ごろフランスの貿易商が薄いコーヒーカップを持って、『こんなのはできないか?』と相談にやってきた。その出来栄えを素晴らしいと思い、負けずに薄い陶器を作った。また、当時は輸出の際は重さで税金がかかったので、薄ければ薄いほど良かった」(将高さん)のだとか。
自然光にかざすと透き通る薄い茶碗の用途については、「熱いものは熱いなりに……。光に透けるから、ワインを注ぐとロマンチックですよ」という話ぶりで来店者を和ませた。バターの取り分け用など、用途を自分の生活に合わせてイメージすることで、伝統工芸品もこんなにお洒落で身近なものになる。我が家でも早速、丸直製陶の茶碗に赤ワインを注いでみると、なんということだろう。夜は部屋の照明の灯りに透けて、もう一段上のロマンティックを味わえるのだ。
同展の時間は11時半~21時(水曜休)。巡回展として札幌展が3月18日~3月30日にはD&DEPARTMENT PROJECT SAPPORO(北海道札幌市中央区)で開かれる。札幌展の時間は12時~22時(月曜休)