主人公の夢は世界一怖いお化け屋敷を作ること
――では、演じた主役の遠山照男のことはどう捉えました? 幼いころから人を怖がらせることに熱中し、30歳目前になっても、日々世界一怖いお化け屋敷を作るという現実味のまったくない夢を追いかけているだけの男でしたが
「照男みたいな人って、たぶん社会にはいっぱいいるでしょうし、自分もあんな感じになっていたんじゃないかと。お化け屋敷とかは作らないでしょうけど、30歳ぐらいじゃ焦らないかもしれないですね、僕なら」
――脚本も手がけた藤田監督は、最初から荒川さんが演じることを想定された、いわゆる"あて書き"だったそうですが、ご自身と近い人柄なのでしょうか。個人的な見解ですが、荒川さんはほかの役者さんと比べると、素顔が見えづらいと思うんです。台本上にしか存在しないような……
「ふだん、存在していないんですか(笑)? まったくふつうですけどね。僕よりふつうの人間がいたら見てみたいくらい、ふつうに生活してますよ。休みの日は、テレビをずっと見てますし。寝なきゃいけないのに深夜テレビをダラダラ見ちゃったり。あとは、散歩とかですかね。とくに遠出するわけでもなく」
――老成していますね
「いや、そんなことないですよ。ただ、まったく焦りはないですね。一番うれしいのは、今回みたいに面白い作品に出会えたときですから、脚本でも監督でも共演者でもいいんですけど、これからも芝居からは離れたくないです」
――でも、ご自分の出演作品は観ないことがほとんどなんですよね
「全部が全部観ないわけではなくて、観るのが苦手なんです。でも今回は2回観ました。1回目は自分の出ているシーンを見られないんですね。自分がなんか嫌なんです。あんまり好きではないんです、顔とか。2回目は免疫がついているからけっこうちゃんと観られましたね。藤田さんっぽいっていうか、撮りたいことがはっきりしているというか、一本筋の通った映画ですから」
――では、そんなお気に入りの作品を、主演として責任を持って宣伝してください
「見てくれた方たちが「面白かったよ」って言うことで広がっていってくれる……それが本当にいい宣伝ですよね。1週間限定の上映だったらわかんないですけど。僕が出る作品は、すごくかっこいい衣装が出るとか、あのPVを撮った人が! っていうものじゃないですし、すごい出来事がいっぱい起こるわけでもない。時間がゆっくり流れていく作品なので観ながら寝ちゃう人もいると思うんですよね、居心地がよすぎて。今はいいシートの映画館も多いじゃないですか。だから、寝ちゃったらもう1回見に行ってもらえればと(笑)。まあ、なんでしょう。映画が好きな人だけじゃなく、いろんな方に観てもらえれば。年も明けたし、ゆるやかな気分でね」
あらかわ・よしよし
1974年1月18日生まれ 佐賀県出身 33歳
松尾スズキが主宰する「大人計画」所属。舞台のほか、ドラマ、CM等でも幅広く活躍中。2月8日からBunkamuraシアターコクーンにて上演の舞台『恋する妊婦』に出演
『全然大丈夫』
物語は、古本屋の長男で29歳の植木職人でありながら、人を怖がらせることしか頭になく、世界一怖いお化け屋敷を作ることを夢見る遠藤照男(荒川良々)、自分に自信を持てないことによる不安を幼馴染の照男にぶつけてしまうサラリーマンの小森久信(岡田義徳)、そして久信の会社の求人にボロボロの服を着、なぜか流血したまま応募してきた負のオーラ満載の木下あかり(木村佳乃)の3人を軸に展開される。ちゃんとした大人たちからの重圧に負けて一念発起する照男、あかりに好意を抱いた久信、負のオーラをまといながらもじょじょに笑えるようになっていくあかり。30歳を前に、彼らの人生は、劇的ではなく、静かにユルユルと変化を見せていくのだが……。
1月26日よりシネクイント他にて全国順次ロードショー
(C)2007 「全然大丈夫」製作委員会
インタビュー撮影:石井健