ビオディナミに関してのざっくりとした解説が終わったところで、試飲会場に場所を移そう。会場にはスロベニア、イタリア、スペインからチリ、オーストラリアまで、各国のワインが並んでいる。イタリアの青臭くて芯の残るタイプから、ニュージーランド産でハチミツの余韻が強く感じられるものまである。会場全体を見渡すと、一般参加者以外に生産者も自分のブースを離れて試飲に参加しており、ラフで楽しいムードが漂っていた。
試飲会場。生産者も自分のブースを離れて試飲している |
今回の試飲会で私が個人的に一番インパクトがあると感じたのは、ジョリー氏の畑「クレ・ド・セラン」で栽培されたぶとうでつくったワインだった。ジューシーでバランスがよく、豊かな香味が一瞬で体中に浸透していくかのよう。その他の自然派ワインも澱があって濁っていたり、発酵時の炭酸が残っているものもあったりと、どれも非常に個性豊かだった。
会場で様々なワインを試飲しているうちに、原材料であるぶどうに興味を持つようになってきた。そこでジョリー氏に自然派ワインで使われるぶどう品種について質問したら、次のような答えが返ってきた。「自然環境は多様なのだから1つのセパージュ(ぶどう品種)だけにこだわることはない。日本ではもっと『甲州』を活用したらいいんじゃないか」。
ジョリー氏のコメントの中に日本のぶどう品種が出てきたが、日本にももちろん自然派の生産者はいる。彼らがRenaissance des Appellationsに参加することはできるのだろうか。答えは、イエスだ。しかし簡単に参加できるのではなく、今回のような試飲会には出展するためにはまず予選を通過する必要がある。Renaissance des Appellationsで中核となる生産者が試飲をし、3分の1が合格。めでたく試飲会に出品、といったシステムだ。
「私たちはパーフェクトを求めているわけではない。魂、感情、真実があれば合格できる」とジョリー氏。志の問題というわけだが、その前提として彼が「品質憲章」を掲げていることを知っておいてほしい。品質憲章では最低限の条件として除草剤や化学肥料、さらに合成化学剤や吸収性効果剤を使用しないことを掲げ、最大限に成熟したぶどう果実を得るために収穫は機械に頼らない、としている。
今回、日本からの出展は山梨のルミエール ワイナリーのみ。日本には自然派ワインの生産者が北は北海道から南は九州まで各地にいるといわれている。にもかかわらず、あまり表には出てこないように感じる。それは、自然派が農家の間では特殊な存在であるということが挙げられるように思う。自然派ワイン生産者として目立ちすぎると、浮いた存在にもなりかねないのだろう。
Renaissance des Appellationsほどの大きな団体でも、ボルドーで自然派ワインの展示会を行おうとした際には同業者から横槍が入ったそうだ。ジョリー氏は言う。「それでも自然派の活動の火は消せない。ただし、テクニカルなワインも市場から消えることはない。選ぶのは消費者だよ」と。
ジョリー氏は2008年で63歳となる。1日の仕事を終えて、通りの前に腰掛けてシガーで一服しながら通行人と言葉を交わす時間が何よりも好きだという。ジョリー氏の名刺にはこう書かれている。「Nature assistant and not wine maker」。