「技術をどう使うか」という考えが必要

続いて行われた基調講演では、日本におけるユビキタスコンピューティング理念の第一人者で、東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏が登場し、「イノベーション基盤としてのユビキタス」と題したスピーチを行った。

「イノベーション基盤としてのユビキタス」と題した基調講演を行う東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏

坂村氏は1946年に世界初のコンピュータとしてに誕生したENIACから、1971年のIntelによるマイクロプロセッサの登場、1990年のインターネットの一般開放までを振り返り、「従来のコンピュータの世代は、要素技術から見た分類だったが、新しいコンピュータの世代はインフラとしての性質から見た分類だ」と述べた。そして1970年代のマイクロプロセッサの誕生を「新第一世代」、1990年代のインターネット普及を「新第二世代」とし、2010年代からはユビキタスコンピューティングの実用化を「新第三世代」とする説を唱えた。

さらに、諸外国と日本における公共事業分野でのICT(Information and Communication Technology)の活用事例を紹介し、「日本は不可侵の成文化された原則を置いた上で現場対応で調整する傾向があり、"ケーススタディ"という考え方がそもそもない。しかし、革新を起こすには大原則はない。技術だけで解決できない問題があるという認識が21世紀社会には必要。技術そのものよりも技術をどう使うかを考えるべきだ」と訴えた。

ユビキタスコンピューティング実現のために

一方、坂村氏が従来から提唱する社会インフラとしてのユビキタスコンピューティングについて「ユビキタスコンピューティングの基本は状況の自動認識だ」と述べた。あらゆるものをコンピュータによって総合的に自動認識し、最適制御する世界を実現するインフラとして、128ビットの数字で表現する世界共通の個体識別番号"ucode"(ユーコード)の構想を紹介。ucodeはあらゆる物品や場所に割り振るための番号である。割り振られたucodeを読み取り、ネットワーク上のデータベースと照合することにより、それぞれの物品や場所を認識できる。なお、ucode自体は意味や情報は持たない。坂村氏は「多様に存在するタグの一本化は不可能。読み取る側でマルチ対応し、ucodeに一本化すればよい」とした。

また坂村氏は国土交通省と共同で進めているという「自立移動支援プロジェクト」についても紹介し、「社会基盤のオープンシステムだからこそ、さまざまな問題が起こりうるという前提で多様な実証実験が必要。そのためにも多くの人に知ってもらい、議論に加わってもらいたい」と述べた。