IBMの影払拭に悩んだ聯想の経営陣

聯想はまた、ThinkPadの獲得を国際市場でのブランド戦略展開の端緒にすることを狙っていたのだが、ThinkPadは、IBMのサブブランドとして、世界であまりにも強固に認知されてしまっていた。

聯想はThinkPadについて、ソニーの「Walkman」や「VAIO」のように、そのブランド資産を聯想の一部とし、両者を不可分に連動させながら世界市場でのブランド化を図ろうとしたのである。ところが、米国ないし全世界のユーザーにとり、ThinkPadを買う理由は、その背後にIBMがあるから、であった。IBMという絶大な信用が控えているからこそThinkPadを購買していたわけで、決してThinkPadのブランドのみを購買するわけではなかったのだ。

こうした真実を知った聯想は、ジレンマに陥った。IBMが作り上げた強固なブランドの連携―IBMブランドとThinkPadブランド―のゆえに、である。ThinkPadをIBMから引きはがし、無理やり「Lenovo ThinkPad」を押し出せば、間違いなくThinkPadブランドの劣化を引き起こすと考えられたからである。

「ThinkPad購入をやめた」との声も

LenovoブランドとIBMブランドとの格差は、認知度、ロイヤルティーにおける格差であり、状況は国際市場でも中国の国内市場でもほとんど同じであった。

両ブランドとの関係をどう処理するかで、聯想のトップ層は、大いに悩んだ。聯想集団の薫事長(代表取締役会長)である楊元慶氏がかつて、「聯想が今後ThinkPadを生産すると宣伝したら、従来のユーザーを失ってしまうかもしれない」と述べたほどである。

確かに、ThinkPadの購入を考えていた一部のユーザーは、ThinkPadが聯想製品になったことで購入をやめたといわれている。当時、中国のある消費者は「ThinkPadを買うのはIBMブランドだから。聯想になったら買う意味が無くなる」と言った。IBMブランドとLenovoブランドの関係についての問題は、聯想がIBMのPC事業を買収した瞬間から、既に始まっていたと言うべきかもしれない。