Leopardが一般ユーザの手に渡ったのは10月26日ではない。実は6月のiPhone、9月のiPod touchのOSも、Leopardがベースとなっているからだ。
iPhoneに先立ちリリースされたメディアアプライアンス「Apple TV」も、Mac OS Xをベースとしていた。ただし、こちらはTigerをベースとし、ほぼフルセットのCore Service、Cocoaを持つ、少々改造しただけのサブセットであった。大きく違うのはApple TV特製のFront Rowが"Finder"代わりに起動し、ユーザインタフェースとして振舞っているところぐらいだ。
一方、iPhoneはTigerではなくLeopardがベースとなっている。Safari 3.0についても、Mac向けが長らくβで10月26日にやっとリリースとなったのに対し、すでに「実戦投入」されていたのだ。
また、構成も大きく異なる。もっとも大きな違いは、Application Kitが存在しないということだ。その代わり、Objective-CベースのUIKitというフレームワークがあり、これがApplication Kitの代わりにGUIのオブジェクトを提供している模様だ。それというのも、Apple TVと異なり、携帯電話という非常に限られたりソースの中で効率的に描画し、キーボードやマウスでもApple Remoteでもない、「指先」という異質のデバイスに対応するためだろう。マンマシンインタフェースが異なるのだから、フレームワークがまったく違うのも当然でる。
これまで組み込みOSを採用していたiPodにわざわざ(組み込み系OSに比べれば)重装備なLeopardを積んだのは、ひとえにQuickTimeに代表されるOS Xの強力なコンポーネントが利用できるからに他ならない。そもそもMac OS Xは移植性に優れ、PowerPCからIntel CPUへの大移行も難なくなし遂げた(注4)。上位コンポーネントを勝手の違う別OSに移植するより、Mac OS XをARMアーキテクチャに移植するほうがよっぽど楽なわけだ。
なお、システムバージョンとしてはOS X 1.0と記載されている。そう、「Mac OS X」ではないのだ。それは考えてみると当然だろう。iPhoneやiPod touchはiPodであってMacではないのだから。そう考えると、これまで「Mac OS」「X」と暗黙のうちに切り分けて考えていたが、実は「Mac」「OS X」と考える方が正しいのだろう。すなわち、Mac OSのX(9の次のバージョン)ではなく、「OS X」の単なるMac向けバリエーションであると。
iPodがそうであるように、この変化は、じきにAirMac ExpressやAirMac Extreme Base Stationのような他の周辺機器にも及ぶだろう。Appleにとって知り尽くしたOS Xを基盤に使うならば、これまで以上にアプライアンスを出すことが容易になる。新しいガジェットのリリースも期待できるだろう。
過去とは違い、MacはもはやAppleにとって絶対の存在ではない。iPodやApple TVと同じで、重要だが数ある「製品」の1つにすぎない。NewtonやMac OS 9がディスコンになったように、AppleがMacという製品を手放す日は来るかもしれない。
しかしOS Xは「あらゆるソフトウェアの土台」として、iPodや、まだ見ぬ新しいデバイスの中でも生き続ける。その分岐路を切り開いたOSとしても、Leopardは歴史に残るだろう。
注4: Mac OS Xは移植性に優れ、PowerPCからIntel CPUへの大移行も難なくなし遂げた
これは、Motorola 68040、Intel x86、HP PA-RISC、Sun SPARCの4つのアーキテクチャをサポートしたNeXTSTEPの経験によるところが大きい。