それでは早速、「北斎 - ヨーロッパを魅了した江戸の絵師 - 」展について紹介していこう。まず、第一部では「北斎とシーボルト」と題し、「端午の節句」「節季の商家」などシーボルトが持ち帰った北斎の作品をはじめ、現在オランダ国立民族学博物館やフランス国立図書館に所蔵されている北斎の作品が一堂に会する。たとえば「端午の節句」(北斎と娘応為が制作したと推定)。画面に大きく母子3人、背景には鯉幟や家紋を描いた幟が描かれ、当時の風俗を知るにも貴重な作品となっている。また「節季の商家」(北斎と娘応為が制作したと推定)は、師走の決算期を迎えた商家の主人たちの様子を描いたもので、主人と眉を落としてしどけなく座る妻がそれぞれ番頭と思われる人物の仕事を満足げな表情で見つめている。着物の表現や室内描写に見られる丁寧で濃密な表現は、西洋的な陰影法とあいまって際立った出来ばえを示していると言われる。
写真左)<> 北斎工房 オランダ国立民族学博物館蔵 (C)National Museum of Ethnology, Leiden 写真上)<> 北斎工房 オランダ国立民族学博物館蔵 (C)National Museum of Ethnology, Leiden |
続いて第二部は「多彩な北斎の芸術世界」。北斎の代表作「富嶽三十六景」シリーズも第二部で見ることができる。同シリーズは多色摺である錦絵であり、斬新な構図や従来の藍よりも発色性の強いベロリン藍による彩色の美しさで人気が高く、北斎の"風景版画家"としての顔を確立したとされる。このほか、名披露目や演劇の案内など、私的な配り物として作られた非売品の木版画「摺物」や印刷により制作された図書「版本」など、北斎が手がけた様々なジャンルの作品を広く紹介する。
特に版に摺るものではなく、絵師が直接絹布や紙などに描く「肉筆画」では、65年ぶりに現存することが確認された「四季耕作図屏風」(北斎作)が本展覧会で一般公開される。屏風絵は6つ折で、50代前前半の頃の制作と指定され、北斎としては珍しい農村風景が肉筆画で描かれている。また北斎の現存する屏風絵も10点ほどしかないと言われており、貴重な発見であるといえよう。
この作品のもともとの所蔵者は、鹿鳴館を設計したイギリス人建築家であるジョサイア・コンドル(1852~1920)。コンドルは建築家として活躍する一方、絵師の河鍋暁斎に師事し「暁英」の名で版画を描いていたほか、日本美術品の収集家でもあった。彼の死後、収集品の多くはデンマークで暮らした娘によって売却された。この屏風も売却された作品のひとつである。
このほか、絵を学ぶ際に用いる教材「絵手本」では、北斎の代表作として有名な「北斎漫画」を見ることもできる。なお「北斎漫画」でいう「漫画」とは、北斎が気の向くままに描きまとめたスケッチ画集を意味する。「北斎漫画」は文化11年(1814)に初編が刊行され、以下順次刊行された。15編は北斎の死後、明治になって刊行されたと考えられている。全15編には人物、動植物、日用品、風俗などが描かれ、図版総数は3,900点余りとなり、まさに絵の百科事典といえる内容だ。また、シーボルトの著作『日本』で紹介されるなど、北斎存命中から海外でも知れ渡ったとされている。
以上、紹介したように本展では、オランダとフランスの2カ所に分蔵されていた北斎の風俗画から今まで「知らなかった北斎」の姿を探り、あわせて「冨嶽三十六景」をはじめ、「北斎漫画」に代表される版画や版本、肉筆画、摺物など、初公開を含む北斎の名品など「知っている北斎」を紹介することで、2つの視点から江戸の絵師、北斎の芸術に迫るという今までにない企画展となっている。
期間は2008年1月27日まで。開館時間は9時30分~17時30分、土曜日は~19時30分。休館日は12月10日、17日、25日と年末年始にあたる12月28日~1月1日で、1月2日・3日は11時より開館する。観覧料金は一般当日券が1,300円、常設展共通券は1,520円となっている。