江戸東京博物館では12月4日より、同館開館15周年を記念した特別展「北斎 - ヨーロッパを魅了した江戸の絵師 - 」を開催する。本展では、オランダ商館の医官・シーボルトが持ち帰ったとされる「端午節句」や「節季の商家」が披露されるほか、65年ぶりに発見された北斎作の肉筆画「四季耕作図屏風」が公開されるなど見所いっぱいの展示内容となっている。そこで今回は、江戸の絵師、北斎の芸術に迫る本展の魅力について紹介する。

日本の画家の中で最も早く西洋画法に習熟し、独自の絵画世界を作り上げた江戸の絵師・葛飾北斎(1760~1849)。日本古来の技法にとどまらず、遠近法や陰影の表し方など西洋風の技法を取り入れ、独自の画風を追求した。生涯において3万点を越す作品を発表したとされる北斎の絵は、日本ではもちろんこと海外でも人気が高く、江戸時代には数多くの作品が海を渡っている。なかでも浮世絵に影響を受けたとされるヴィンセント・ヴァン・ゴッホは「大好きな日本版画のコレクションをありったけ壁にピンで留めたい」と語り、その筆頭として北斎の名前をあげるほどだったという。

ところで、なぜ北斎の作品は海を渡ったのか。最新の研究によると、鎖国政策を採っていた当時の日本において、長崎の出島に滞在したオランダ商館長たちは、江戸参府のとき葛飾北斎などに肉筆の風俗画を注文し、次の参府の際に注文した作品を祖国に持ち帰っていたという。そのうちの一人がヨハン・ヴィレム・デ・ステュルレル。彼が持ち帰った浮世絵25点は死後、フランス国立図書館に寄贈された。また、北斎の浮世絵を持ち帰った別の人物がいる。それがオランダ商館の医師として滞在したフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796~1866)だ。シーボルトが収集した浮世絵は現在、オランダ国立民族学博物館に収蔵されている。本展では、この2カ所に分蔵されていた風俗画が里帰りする貴重な機会となっている。