予定した買い物が終わった我々は、一息つこうとアキバ名物のメイド喫茶、には向かわず、秋葉原駅近くの喫茶店「古炉奈」に足を運んだ。Opera東京オフィス広報担当の壽かおり氏によると、以前この店では「オペラ」という名前の付いたケーキが出されていたということだったが、残念ながら既にメニューが変わっていた。

ちなみにこの日も至る所でメイド姿の人々とすれ違ったが、Tetzchner氏は「なぜ彼女たちがああいう衣装を着ているのか分からない……マーケティング的な理由なのか?」と話していた。壽氏が「そういう理由の人もいるし、着た姿を誰かに見てほしいから着ている人もいる」と説明しても腑に落ちない様子だった)

たくさんの製品を買い込んだTetzchner氏だが、これは単に趣味やおみやげのためというだけではないようだ。荷物を見ながら、いろいろな話をしてくれた。

「秋葉原にはさまざまなデバイスが並んでいるので、Operaを搭載できる新しい機器がないかをいつも考えながら見て回っています。IBMのある研究所では、インテリジェントな冷蔵庫の研究開発が行われており、その実験の中で冷蔵庫に搭載するユーザーインタフェース部分にOperaが採用されました。今後はもっともっといろいろな機器にOperaが搭載される機会があると考えています。例えば、洗濯機に合ったユーザーインタフェースのOperaといったものも有り得るはずです」

「私の自宅にはDVD/HDDレコーダーが2台ありますが、リモコンのボタンがそれぞれ違っていて、ひとつには[再生] [録画] [停止]というボタンがあります。もうひとつには[再生] [再生停止] [録画] [録画停止]というボタンがあります。前者はレコーダーの状態によって[停止]ボタンの機能が変わります。後者は違う機能には違うボタンが用意されています。どちらがわかりやすいでしょうか。Operaのユーザーインタフェースでもいろいろな意見があります。例えば、我々は 先日公開したバージョン9.5のα版で、試験的にいくつかのキーボードショートカットを変更しました。以前からOperaを使っているユーザーにはとまどいがあるかもしれませんが、より他のブラウザに近い標準的な割り当てになっているので、初めてOperaに移ってきたユーザーには親しみやすいものになります。今後のOperaがどういう方向性を取るかという問題ですが、社内でも大変な議論があり、まだ最終決定はしていませんので、ぜひ皆さんからのフィードバック(※)をください。ただ、変更するとしても、以前と同じショートカットに設定できるような仕組みを用意したいとは思っています」

※:Opera Softwareへのフィードバックについては、日本語のガイドラインと、日本語で送信できるフォームが公開されたので、国内のユーザーも新バージョンの開発により積極的に参加できるようになった。

話に出たついでに、せっかくの機会なので最新バージョンのOpera 9.5についていくつか質問してみた。

――目玉機能として、複数環境の同期や、過去に見たページの内容から全文検索できる機能(Full History Search)がありますが、いろいろなアイデアがある中で、これらの機能を搭載しようと考えたのはどうしてですか。

「Operaの特徴にその高速さがありますが、それはただレンダリングが高速というだけではないということを示したかったからです。別のPCにOperaをインストールしたとき、ブックマークなどを移行するのには手間がかかりますが、この機能を使えば一瞬です。また、今回のバージョンで実装する機能は始まりに過ぎません。将来は、携帯電話版のOperaや、そのほかのデバイスに搭載されているOperaとも同期ができるようにしたいと考えています(注:「Operaリンク」として10月25日にリリースされた)。全文履歴検索も同じです。つい昨日見たはずのページなのに、検索してもなかなか見つからないという経験は誰でもあると思いますが、新しいOperaならそのページに含まれていたごく一部の言葉さえアドレスバーに入力すれば、その前後の文とともにページの候補が表示され、すぐに目的のページを見つけることができます」

Webサービス「My Opera」のアカウントを利用して、複数のOperaのブックマークなどを同期する機能が用意されている

――全文履歴検索は過去に見たページのテキストをデータベース化してHDDに蓄えますが、履歴が大きくなるとパフォーマンスに影響を与えませんか。また、このデータベースの技術は自社開発でしょうか。

「もちろん、この機能はパフォーマンスに影響を与える可能性があります。動作の高速さはOperaの最大の特徴ですから、それを損ねるわけにはいきません。チューニング、チューニング、チューニングにまたチューニングを重ねています。α版なのでまだ改善の余地はありますが、いまのところ、全文履歴検索にはおおむね好意的な反応が寄せられていると考えています。この技術の開発には1年から1年半、いや、2年くらいはかかっていると思います。データベースの技術を外から導入するという選択肢もありましたが、汎用的なデータベースでは我々が求めるパフォーマンスが得られず、自社で専用のものを開発しました。Operaの内蔵メーラー上で過去のメールを検索するために開発した技術がベースになっており、それを拡張した形になります」

アドレスバーにキーワードを入力するだけで、過去の履歴から即座にマッチするページを表示する全文履歴検索機能。URLやタイトルだけでなく、ページの内容そのものが検索対象になっている

――バージョン9.5の開発コードネームが"Kestrel"ということですが、Operaのコードネームとしては以前"Presto"というものがありました。これらはどういう関係にあるのでしょうか。

「"Kestrel"はバージョン9.5のコードネームで、このバージョンだけのためのものです。ちなみに、バージョン10のコードネームは"Peregrine"です。一方、"Presto"はOpera 7以来使われているコアエンジンのコードネームで、このエンジンはOpera 9.5でも使われています。Prestoエンジンは日々進化していて、今回はスピードがもちろん高速になっているほか、CSS3のサポートの拡大や、HTML5規格の一部を先行して実装しています」

――バージョン9.5の正式リリース時期はいつごろになりそうですか。

「特にいつ、ということはいまのところアナウンスしていませんが、順調にいけば、今年中にはリリースされるのが適当だと思っています」

――バージョン9.0のリリースから既に1年以上が経過しており、このような新機能が搭載されているのならば、「Opera 10」になっても良かったと思うのですが。

「社内で『いや、バージョン10はまだ残しておこう』という話になりました(笑)」

――ということは、バージョン10ではもっともっと革新的な機能が追加されると期待できるということでしょうか。

「その通りです」