中国のオンラインゲーム企業と外国企業の間で発生するM&A案件の中には、非常に稀ではあるが、盛大、中華網遊戯などと全く逆のケースもある。上海第九城市信息技術(以下、九城)は、今年5月下旬、1億6,700万ドルで15%の発行済み株式をアメリカのゲーム開発企業EAに譲渡した。その後、これまで紹介してきた中国オンラインゲーム企業のM&A案件とほぼ同様に、九城はEAから、EAのオンラインサッカーゲーム「FIFA Online」の中国における独占代理権を与えられた。

これに先立ち九城は、2003年に大きな代価を支払い、米国のゲーム会社Blizzard Entertainmentからオンラインゲーム「魔獣世界(World of Warcraft、 WoW) 」の中国における独占代理権を取得していた。2005年第2四半期から2007年第1四半期まで、WoWからの収益が 九城の全売上の97%を占めていた。しかし、WoWの運営、特に収益配当の割合、プロモーション費用、プライベートサーバの処理をめぐり、九城とBlizzard Entertainmentとの間には矛盾や摩擦が生じ、しかも日増しに深刻になってきている。もちろん、WoWに頼り切る九城の収益構造そのものが、巨大な経営リスクとなってきていた。

こうした状況をみれば、EAへの株式譲渡とFIFA Onlineの代理権取得は、九城のリスク回避策、増収策として、高く評価するに値する。一方、資本参加によりEAは株主として九城の経営に強い発言権を持ち、FIFA Onlineのライセンス料のほか、WoWからの収益も含む九城の全収益に対する配当を得られることになった。

九城にしてみれば、EAとの資本提携、業務提携の代価は決して安くはない。この案件からは、オリジナルゲームの開発力で劣る中国のオンラインゲーム企業は、「金の卵」を獲得するため、外国のゲーム開発企業に高いライセンス料や株式譲渡などの対価を支払わざるをえないという側面がうかがえるのだ。

付言すると、面白いことに九城はEAに対し、FIFA Onlineを運営する姿勢をアピールしつつ、FIFA Onlineのプロモーションや広告効果を狙い、サッカーチームである「申花」をFIFA Onlineのライセンス取得前の今年2月末に、1億5,000万元とも言われる金額で買収している。オンラインゲーム企業による異業種企業の買収は非常に珍しいだけに、業界内外から高い関心を呼んだ。オンラインゲームコンテンツと現実スポーツとの融合を通じ、より多くのユーザーをひきつけるという集客手法は、オンラインゲーム運営企業各社に大きなヒントを与えている。