フィルタリングに関して国分氏は、「現状では普及率が低いため、フィルタリングの存在を知ってもらい認知率を高めることが必要」と指摘。また、匿名性の問題については、「韓国では、『高見の見物』というインターネットのカルチャーを是正するため、10万アクセスを超えるサイトでの情報発信について実名登録制を導入した。同国でも以前は、『インターネットは仮想の世界』として規制がゆるかったが、現在は『インターネット上に一度掲載されると破壊力がすごい』という認識が浸透し、インターネット上での名誉毀損のほうが現実社会での名誉毀損より罪が重くなっている」と説明した。
国分氏はインターネット上の違法・有害情報に関するこうした状況を踏まえ、中間取りまとめ案で示された「公然通信」を規制する共通ルールについて、「放送法ではコンテンツの規制は事業者の自主ルールに委ねられているが、通信事業においては、事業者の中に存在する『アウトサイダー』の存在がネックになっている。放送業界には存在しないアウトサイダーは、営業戦略的に危ない橋を渡る業者などもおり、全てを規制するにはあまりにも多い。共通ルールをつくるにしても、アウトサイダー対策をしっかりやらないと、自主規制だけでは対応できない可能性がある」と強調した。
インターネット協会の国分氏に引き続き、通信関連企業各社でつくる社団法人のテレコムサービス協会の桑子氏が、同協会における違法・有害情報に関する取り組みなどについて説明を行った。
同協会では、著作権や商標権などに対する権利侵害情報やその他の違法情報、公序良俗に反する情報、青少年に有害な情報、自殺サイトなどに関して、通信業界としてのガイドラインを作成しており、こうしたガイドラインを通じて、違法・有害情報への対応を行っている。
権利侵害情報に関しては、著作権や商標権などの各種団体で構成する「プロバイダ責任制限法(※)ガイドライン等検討協議会」を通じ、2002年から、同法運用についての指針となる「著作権関係ガイドライン」「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」「商標権ガイドライン」「発信者情報開示関係ガイドライン」を策定してきた。
(※:正式な法律名は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)
ガイドラインでの規制に「限界」の声も
同協議会ではその他の違法情報に関しても、典型的な事例における規制の根拠となる法令を示した上で、可能な範囲で具体的な事例における考え方を示した「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」を策定。電子掲示板の管理者等による違法な情報への対応や、警察など第三者機関による違法性の判断を経て行う違法な情報への対応などについて、プロバイダなどに指針を示している。
また、このほかにも、公序良俗に反する情報等への取り組みとして「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」、青少年に有害な情報への取り組みとして「フィルタリング普及啓発アクションプラン」、さらに自殺サイトへの対応として「インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン」を策定している。
桑子氏は、こうした各種のガイドラインの効果について「一定の効果があがっている」としながらも、「インターネットの広がりを考えると、ガイドラインによる違法・有害情報への取り組みには限界がある」と指摘。その上で、「インターネット上のコンテンツは通信業界以外の関係者がさまざまな情報発信を行っており、法制度の検討に際しては、すべての関係者が対象となる枠組みを検討することが必要」として、「中間取りまとめにおけるコンテンツに対する方向性については、EU法をモデルとした基本的な大枠について賛成する」との意見を表明した。
さらに、「違法・有害情報で取り扱いが難しいのはむしろ有害情報で、ある種の国民的コンセンサスが必要な部分がある」と指摘し、「プロバイダが違法・有害か判断することは難しい場合が多く、判断を支援する『信頼性確認団体』のような枠組みが期待される」と主張した。また、「コンテンツ規制は法的な対応が難しい場合が多く、自主規制などを前提とせざるを得ないので、自主的な取り組みを法的に支援する仕組みが期待される」と述べた。
これに対し、堀部座長から「法的な支援とはどのような仕組みを想定しているのか」との質問があり、桑子氏は「自主的なガイドラインに沿った措置が『法的に問題ない』と裏づけしてくれるような仕組みが望ましい」と回答した。