1935年にメリヤス工場として創業し、1960年代からTシャツ作りを続けてきた東京都墨田区の久米繊維工業。小さいながらも伝統のある同社で、ITの活用を積極的に推進してきたのが3代目社長の久米信行氏だ。社員や地域との密なコミュニケーションを生かしたブログによる情報発信と受注のオンライン化で新たな市場を創出、オリジナルブランド「久米繊維謹製」の確立も図っている。同社が展開する、中小企業ならではのIT活用法をレポートする。

ゲーム会社などでの経験からネットの革新性に気づく

同社は、当時の代表的産業だった繊維産業の一大生産地である東京本所石原町(現在東京都墨田区石原町)で、久米信行氏の祖父である才市氏がメリヤス製造の町工場を創業したのが始まり。戦災による一時休業を経て、戦後まもなく工場を再開したが、1950年代からは、ハリウッド映画などとともに米軍が持ち込んだ新しい文化である「Tシャツ」の製造・販売を、「全国でもかなり早い時期」(久米氏)に開始した。

応接スペースにはさまざまなデザインのTシャツが並ぶ

ブームを先取りした強みもあり、70年代後半には「VANジャケット」ブランドのTシャツも受注、最盛期には数十万枚を生産した。だが、人と違うものを求める消費者の好みの多様化や、繊維産業における中国の台頭などの環境変化もあり、徐々に生産が減少。こうした状況を打開する切り札として91年に社長業を継いだ久米氏が選んだのが「IT」だった。

「社長に就任する前のゲーム会社や証券会社での経験から、女性や子供、高齢者ら情報弱者だと思われていた人々が、インターネットによって情報強者となりうることを強く感じた」と、その潜在力に着眼。96年に、当時では珍しいオンラインのTシャツ製販ショップ「T-GARAXY.COM」のサービスを開始した。

オンラインTシャツ製販ショップ「T-GARAXY.COM」

T-GARAXY.COMでは、同社とアーティスト達がコラボレーションして製作したデザインTシャツの販売のほか、オンラインでオリジナルTシャツを作ることができる「オリジナルプリントオーダー」が可能となっている。Tシャツのデザインとなる原稿をデータや郵送で送り、サイズやプリント場所、オーガニックコットンなどプリントするTシャツの種類、製作枚数、製販方法、納期などを指定することで、自分ならではのTシャツが作れる仕組みだ。

「お客さんもいないし、画面も見づらいという中で、手探り状態の出発」(久米氏)だったというが、その後、イベントやNPO向けなどのB to B市場や個人顧客を開拓。売り上げの3-4割がネット経由となるまでに成長させた。先代のTシャツと同様、社会に先駆けたこうした取り組みを認められ、2004年度に経済産業省の「IT経営百選」最優秀賞を受賞、2006年度にも同優秀賞を受賞した。