――話は変わりますが最近、角松さんが特に力を入れていることがあると聞いたのですが?

「4月からTOKYO FMのラジオ番組「TDK REAL SOUND JAM」のパーソナリティを務めていますが、その番組の中で記録メディアに関して根本的な歴史から始まって、それがどう作られているのかを詳しく説明しています。そして、ある意味その裏側も見せてしまおうっていうことを企んでいます(笑)。最近、音楽を真正面から語っていく番組も少ないので、いいかなとは思っているんですけどね」

――なぜ、そのような発想に至ったのですか?

「たとえば、コンピュータで自動演奏的に作られた音楽に関しては、今は1度セーブしたら何回でも再生が可能です。でもそれは、生のミュージシャンが何テイクも録りながら最高のテイクを収めていった音源とは全然意味合いが違うと思うんですよ。本来"レコード"って"記録"という意味で、要するに記録するに値するものしか"レコード化"されなかった。で、今の音楽業界の現状は果たしてそうなのかっていうことや、音楽の質について考えてみようよって思ったんです」

――なるほど。では番組自体の内容としては?

「1960~1980年代の名曲と言われているものの中から選曲をしながら、記録メディアの歴史を語るコーナーがあります。たとえば、若い人たちにとっても演奏を記録するなんていう感覚は全然ないと思うんですよ。『"ステレオ"は商品名じゃなくて、音響学的な用語なんですよ』って言っても分かりにくいじゃないですか。だから、まずは歴史から始めようと思って」

――その歴史というのは具体的にどういうものなのでしょうか?

「蓄音機を発明したエジソンの話から始めたんですけど、実は同時期に電話を発明したベル博士という人も蓄音機を開発しているんです。電話と蓄音機の開発の歴史って非常にリンクしていて面白いんですよ。あとは、記録したいっていう思いは、風や波に音を感じた古代人が楽器を発明したところから始まった、とか。他に、世界最古の楽器はパンフルートという(イネ科の植物の一種である)アシで作った笛と言われている、といった具合です。それから、音楽と宗教は非常に密接な関係があって、ユダヤ教からキリスト教というものが生まれてきたところでいわゆる教会旋律が生まれて、そこからバロックやクラシックの世界が成立していく。その過程で、さらにバイオリンやいろんな楽器が生まれて、それから今のR&Bやヒップホップになっていく、などなど」

――記録メディアの歴史も奥が深いですね

「で、最近ようやくカセットテープの話まできたんです(笑)。カセットテープも最初はオランダのフィリップ社が開発して、特許料は要らないって言ったから全世界で作られたんです。元々は会議で録音したりするためにコンパクトに作られたものなので、音質は良くなかった。それを音楽も聴けるように開発したのが日本のメーカーだったんですよね。そういう歴史もすごく面白いなと思うし」