文部科学省が定める「第 2 期教育振興基本計画」には、"社会を生き抜く力の養成" が基本的方向性として定められています。世の中の変化は依然として激しく、日本がこれまで以上のプレゼンスを世界へ示していくには、個人として自立し、かつ周囲と協働して社会を牽引できる人材の育成が不可欠です。
これを受け、多くの教育機関が、知識や記憶力に偏った従来型の教育から脱却し、"思考力型教育" へのシフトを進めています。しかし、いかに子供たちの思考力を育もうとも、その考えを社会に発信できなければ意味がありません。近年重要性を増すこうした思考力、主体性の教育は当然とし、それをアウトプットする方法論の育成にも注力しているのが、東京都渋谷区にある学校法人富士見丘学園 (以下、富士見丘学園) です。
国際化、情報化が進む現代、周囲との協働に際しては、しばしば、言語や ICT が壁として立ちはだかります。コミュニケーションの複雑性が増す中、富士見丘学園では英語や ICT を、「知識」ではなく自身の考えをアウトプットする「ツール」として活用できるよう、さまざまな取り組みを進めてきました。2017 年度には、中学校の新入生を対象に 1 人 1 台の 2 in 1 タブレット所持を実施。2019 年度には、高等学校を含む全校生徒が ICT 端末を所持する環境が整う予定です。2 in 1 タブレットとそこで利用するサービス、これらの環境を管理するツールには、マイクロソフトの Windows 10、Office 365、Intune for Education が採用されています。
プロファイル
1940 年 3 月、昭和商業実践女学校として設立された学校法人富士見丘学園。2015 度に文部科学省の「スーパーグローバルハイスクール (SGH)」の指定校となった同学園は、サステナビリティに関する課題研究や自主研究を実践する「探求学習」といったユニークな教育や、英語 4 技能教育の実践をもって、将来国際的に活躍できるグローバル リーダーを育成し続けています。
導入の背景とねらい
自らを表現する "ツール" として ICT が活用できるよう、1 人 1 台、ICT 端末の所持を検討
1940 年の創立以後、富士見丘学園は "女性と職業" という教育テーマのもと、一貫して、女性が自立してキャリアを重ねていくためのジェンダー フリー教育を実践してきました。文部科学省が進めるグローバル リーダー育成を目的とした事業「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の 1 校に指定される同学園は、毎年、これからの社会を牽引し得る人材を数多く輩出しています。
学校法人富士見丘学園 理事長校長 吉田 晋 氏は、同学園の教育テーマである「自立的な人材の輩出」は、自らを表現する方法論を教育してこそ果たすことができると語ります。
「『自ら社会を切り拓く力』として、思考力や主体性の重要度が高まっています。しかし、単にそれらを培うだけでは意味がありません。自身で考えたことを正しく、そして相手の立場を思いやりながら伝えることが重要なのです。自らを表現する力を育むべく、富士見丘学園では 45 年ほど前から、英国へのホームステイを教育カリキュラムに組み込んでいます。これはお世話していただいている相手方の気持ちになって英語を身に付けることで、子供たちが英語を、"知識" ではなく自身の考えをアウトプットする "ツール" としてとらえることを狙いとしています。グローバル化によって他者への情報伝達が複雑化することを見据えた取り組みであり、近年進展が著しい情報化についても、このグローバル化と同様の動きが始まっていると考えています」(吉田 氏)。
今日、ICT は社会に当たり前のように存在しています。近い将来、ICT を有効に扱うことが、英語と同様、自らを表現するうえで欠かすことのできない要素となることが推測されます。しかし、各家庭の ICT 環境には差異があり、生徒間の ICT スキルもまた大きく乖離しています。
これを踏まえ、富士見丘学園では 2017 年度より、学内の ICT 環境の整備を本格化。同年度の中学校の新入生を対象に、1 人 1 台の 2 in 1 タブレット所持を実施しました。吉田 氏は、「コミュニケーション ツールとして、ICT は重要な役割を担っていくと考えています。また、今の子供たちが大学を受験するころには CBT (Computer Based Training) の文化も一般化しているため、ICT に対する理解の乏しさが、大学教育の効率を下げるボトルネックとなることが懸念されます。ICT 端末の使用は、子供たちの ICT スキルを標準化し、なおかつ、これをツールとして活用できる人材の育成を目指したものです」と、取り組みの意図を説明します。
続けて、富士見丘中学高等学校 参事 板垣 尚志 氏は、ICT 端末の所持によって、生徒の思考力が高まることにも期待したと語ります。
「たとえばインターネットは、思考力を育むための有効なツールといえます。というのも、インターネットでまず行う "検索" には、『自身に欠けている知識は何か』『目的に対して把握しなければならないことは何か』といった思考がまず必要になるからです。生徒の手元に ICT 端末を用意すれば、この『思考する』という慣習を日々の学校生活で身に付けることができます。ICT 端末の貸与は、思考力を高める意味でも大いに有効でした。しかし、これを進めるうえで、1 つ大きな課題があったのです」(板垣 氏)。
板垣 氏が触れた課題とは、セキュリティ管理の問題です。インターネット接続する以上、そこには相応のセキュリティ リスクが存在します。生徒たちは未成年であり、万が一何かがあった場合、まずそれに対応するための判断能力がありません。問題に対処することができず、また責任を取ることも不可能です。
ICT 端末の所持にあたっては、こうした問題自体が発生しないよう、学校側が徹底してセキュリティを管理する必要がありました。しかし、ICT の管理を担当する富士見丘中学高等学校 教諭 檜谷 功夫 氏は、現在の管理体制のままでは、これを行うことが難しかったと語ります。
「富士見丘学園には専任の ICT 管理者がいません。そのため、私と板垣の 2 名が、教務、校務と兼任で、ICT を管理していました。限られた人員が兼任という形で ICT を管理する場合、どうしても、管理できるシステムの数は制限されます。PC についても、従来校内には、教員が利用する校務用の共用 PC が数十台と、生徒用 PC が 100 台ほどある程度でした。クライアント管理のしくみも設けていなかったため、子供たちが所持する ICT 端末を管理することは大変な作業でした」(檜谷 氏)。
また、仮に管理面の課題が解消されて生徒全員の ICT 端末の所持を実行したとしても、有効に活用されるサービスがなければ、ICT を積極的に活用するという文化は生まれません。こうした背景から、富士見丘学園ではデバイスだけでなく、デバイス上で稼動するサービス、そして管理ツールについても、導入を検討しました。
システム概要と導入の経緯、効果
Intune for Education を利用すれば、限られた人員で大量のクライアント管理が可能
ICT 端末の所持は、「目的」ではなく、生徒たちがこれから先自らを表現できるようになるための「手段」であるべきです。富士見丘学園では「ICT を利用したユーザー体験がその後の人生にどう生きるか」という視点のもと、デバイス、サービス、管理ツールの選定を進行。そしてこの結果、デバイスには 2 in 1 Windows 10 タブレットを、サービスと管理ツールにはマイクロソフトのクラウド サービス Office 365、Intune for Education を導入しています。
吉田 氏はまず、デバイスに 2 in 1 Windows 10 タブレットを採用した理由について、次のように説明します。
「子供たちの多くが卒業後、大学へと進学します。そしてその先には社会が待ち構えています。大学、社会のいずれも、そこで稼動している PC のほとんどが Windows ですから、富士見丘学園で 6 年間慣れ親しんだ ICT 環境とその後に触れる環境との間でギャップがある場合、せっかく "ツール" として扱えるようになった ICT を十分に活かすことができません。社会との連続性を考えた場合、OS に Windows を採用することは必然でした。また、社会に出れば、当然キーボード入力を必要とする場面が増加します。こうした理由から、2 in 1 Windows 10 タブレットを子供たちに所持させることにしたのです」(吉田 氏)。
一方、サービスと管理ツールについては、パートナーであるディスカバリーズ株式会社 (以下、ディスカバリーズ) とともに検討が進められました。社会との連続性を考慮するのであれば、世の中で多く利用されているサービスを採用すべきです。また、管理ツールについては、同様の悩みを抱えていた組織の解決策が参考になります。ディスカバリーズに期待したことは、これらのノウハウの提供でした。
板垣 氏は「ディスカバリーズは私たちと同じ目線で、"子供たちへどういう教育を提供すべきか" を主題としたコンサルティングを提供してくれます。また、一般企業の実績も多く、本学園が期待するとおりの提案をしていただけます。同社から紹介を受けた Office 365、Intune for Education は、まさに最適なソリューションでした」と、マイクロソフトのクラウド サービスを導入した理由を明かします。
これを受け、ディスカバリーズ株式会社 代表取締役社長 島田 祐一朗 氏は、Office 365、Intune for Education を提案した理由について、次のように説明しました。
「社会で一般的に利用されている ICT は、主に 3 つに分類できます。まず Office アプリケーション。次に、メールや IM といったコミュニケーション ツール。最後に、電話会議や文書管理といった協働作業を円滑化するためのコラボレーション ツールです。Office 365 はこれらすべての機能を備えているため、社会人になっても通用するスキルを培うことが可能です。また、OneNote Class Notebook や SharePoint Online を授業で活用すれば、教育にインタラクティブ性を持たせることもできます。これは思考力、主体性を育むうえで有効です。クラウド サービスですのでシステムの運用負荷を必要とせず、また、同社の Intune for Education を利用すれば、クライアント管理の工数を最小化することも期待できました。子供たちの将来を見越したサービスを整備し、なおかつ今の管理体制のままで ICT 環境の安全性を担保する。これを実現するうえでは、Office 365 と Intune for Education の導入が最適解でした」(島田 氏)。
導入効果
マイクロソフト ソリューションで整備した「安全で有効な ICT 環境」が、生徒と教員、双方の主体的な ICT 活用を促す
Intune for Education では、教育機関のクライアント管理に特化した GUI のもと、わずか数分の作業で各クラスの端末にセキュリティなどのポリシーを適用することが可能です。富士見丘学園では、生徒向けの 2 in 1 タブレットだけでなく、教員が利用する PC についても Intune for Education によって管理することを構想。従来、人的リソースを理由に実施できなかった全教員への教育用 PC の配付も行い、教員、生徒の双方が積極的にICT を活用する環境づくりを進めることに決定しました。
富士見丘学園では機器の調達を経た 2017 年春より、教育での ICT 活用を本格的に開始しています。檜谷 氏は、Intune for Education があったことで、同学園の ICT 教育を大きく進めることができたと語ります。
「Intune for Education は、直感的な操作だけで簡単に、子供たちと教員のクライアント環境を管理することができます。現在、子供たちの 2 in 1 タブレットは、ストアからアプリをダウンロードできないよう設定しており、フィルタリングといったソフトウェアを Intune 経由で実装することによりセキュリティ リスクも最小化しています。授業で特定のアプリケーションが必要となった場合でも、クラス単位でダウンロード可否をオン/オフに切り替えるだけで対応可能です。板垣は国語、私は数学が専門と、2 人とも決して ICT リテラシーが高いわけではありませんが、それでも問題なく運用できています。Intune for Education がなければ、富士見丘学園の ICT 活用は実現できなかったと感じています」(檜谷 氏)。
Intune for Education によって、生徒が ICT を "安心" して利用できる提供が手に入りました。そして、並行して導入した Office 365 によって、生徒は 2 in 1 タブレットを用いて、これまで以上にわかりやすく学びを深めることが可能です。吉田 氏と板垣 氏は、マイクロソフトのソリューションでこうした「安全で有効な ICT 環境」を整備したことが、生徒と教員、双方の主体的な ICT 活用につながっていると語ります。
「たとえば家庭科、社会科の授業では、教員が OneNote Class Notebook や SharePoint Online を活用することで、授業のインタラクティブ性を高めています。富士見丘学園では基本的に、ICT を授業で活用するかどうかは教員に一任しています。トップ ダウンによる指示がないにもかかわらず、教員が積極的に ICT を活用してくれているのです。Office 365 が備える優れた機能、Intune for Education による『安全に ICT が利用できる』という安心感、これらが理由であることは間違いありません。今や ICT は、子供たちだけでなく教員にとっても、授業に欠かせないツールとなっています」(吉田 氏)。
「子供たちや教員にとって、ICT があることは、既に "当たり前" になっています。私の担当する国語の授業でも、現在 ICT の活用に向けた準備を進めているところです。現代文の授業は、登場人物の心情を推察するなど、思考力に直結する授業といえます。思考した結果である解答やそこまでの過程を Office 365 上で共有しながら授業を進めることによって、子供たちは思考プロセスの多様性を実感しながら学びに取り組むことができます。こうした、ICT を活用した思考力の教育にも、これからますますチャレンジしていきたいと考えています」(板垣 氏)。
今後の展望
より安全で、より利便性の高い環境を整備していく
富士見丘学園では 2018 年度より、中学生とともに高等学校の新入生に向けても 2 in 1 タブレットの所持を開始します。3 年後の 2020 年には、全校生徒が 2 in 1 タブレットを所持することになります。そのころには、さまざまな形で ICT を活用しながら、生徒が学びを深めていることでしょう。
吉田氏は、これからの期待と展望について、次のように語ります。
「教員や子供たちが活用方法を広げていくことによって、今は想像もしていないようなことが起こってくるだろうと、わくわくしています。今後、『もっと活用したい』という主体的な意思を高めていくべく、より安全で、より利便性が高い環境を整備していきたいと考えています。そこへ向けて、ディスカバリーズとマイクロソフトにはこれからも、本学園の ICT をご支援いただきたいですね」(吉田 氏)。
個人として自立しながらも周囲と協働して社会を牽引していくことのできる女性を輩出し続ける、富士見丘学園。英語や ICT を武器に自らの考えを発信することのできる同学園の生徒たちは、きっと、これからの社会で大いに活躍してくれるでしょう。
「たとえば家庭科、社会科の授業では、教員が OneNote Class Notebook や SharePoint Online を活用することで、授業のインタラクティブ性を高めています。富士見丘学園では基本的に、ICT を授業で活用するかどうかは教員に一任しています。トップ ダウンによる指示がないにもかかわらず、教員が積極的に ICT を活用してくれているのです。Office 365 が備える優れた機能、Intune for Education による『安全に ICT が利用できる』という安心感、これらが理由であることは間違いありません。今や ICT は、子供たちだけでなく教員にとっても、授業に欠かせないツールとなっています」
学校法人富士見丘学園
理事長校長
吉田 晋 氏
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