全国に21,000を超える店舗と事業所を抱え、日本の小売業界において6期連続で営業収益1位という業績を誇るイオングループ。日本を代表する小売業者といえるイオングループでは、顧客接点となる店舗で利用するPCの安定稼動を担保して"お客さま第一"を実践し続けるべく、綿密に計画立てしたロードマップのもとでクライアント環境を運用しています。

2015年9月には、まだ提供開始から間もないWindows 10への移行を見据えた検討を開始。2017年度内の移行完了を目指し、グループ内約45,000台のクライアントPCのOS移行プロジェクトに着手します。グループのITを統括的に管理するイオンアイビス株式会社では、同取り組みを機に、クライアント環境の運用体制の見直しを実施。セキュリティと利便性の両側面からクライアント環境に発展性を持たせるため、CBBモデルのもとWindows 10の採用を決定しました。

プロファイル

イオングループのITを統合管理する企業として、2009年8月に設立されたイオンアイビス株式会社。イオングループの量販店と専門店における事務処理を電子化、効率化する「BPRデジタリゼーション推進プロジェクト」、15年ぶりにグループ数万台規模で利用されていたPOSレジシステムの大刷新など、"絶えず革新し続ける企業集団"というイオングループのポリシーに沿ったIT推進に取り組んでいます。

導入の背景とねらい
"お客さま第一"の実践を継続すべく、早期でのWindows 10移行を計画

イオンアイビス株式会社では、イオングループのITを統括的に管理している

"お客さま第一"を掲げ、全国に構える21,000を超える店舗と事業所で同理念を実践し続けるイオングループ。6期連続で営業収益日本小売業No.1という快挙を成し遂げている同グループでは、"絶えず革新し続ける企業集団"というポリシーのもと、近年、グループ一丸となって先進ITの活用を推し進めています。

イオングループではこれまで、インフラ、アプリケーションの両側面から、旧態依然なITにとらわれない取り組みを進めてきました。店舗における紙ベースの事務処理業務を電子化した「BPR デジタリゼーション推進プロジェクト」や、15年ぶりの大刷新となった「新生POSシステムプロジェクト」といった取り組みからその一端を伺い知ることができます。2015年秋からは、グループ内に約45,000台あるクライアントPCについて、当時まだ世に登場したばかりであるWindows 10への移行を検討開始。これは、イオングループにおける先進ITの活用が強く示された一例だといえるでしょう。

イオンアイビス株式会社 ITインフラ本部 インフラ運用管理部 部長 石井 和人氏

グループ全体のITを管轄するイオンアイビス株式会社(以下、イオンアイビス) でWindows 10移行方針を計画した、イオンアイビス株式会社 ITインフラ本部 インフラ運用管理部 部長 石井 和人氏は、同計画を早期に進めた理由について、次のように説明します。

「一般的なクライアント環境と異なり、イオングループには事務所用PCに加えて店舗業務用PCというものが存在します。お客さまとの接点の場で利用する店舗業務用PCは、不具合が"お客さま第一"への悪影響に直結するミッションクリティカルなシステムだといえます。そのため、PCのリプレースやOS移行などは、綿密に計画を立て、店舗業務に支障が生じないよう配慮せねばなりません。そこで、当社では先手の対応として、Windows 10が登場したばかりのころからOS移行に関する計画に着手したのです」(石井氏)。

イオンアイビスが同プロジェクトで計画したのは、単にOSを移行するだけにとどまりません。これまでイオングループでは、物理的なディスクを介して関連会社や各部門に対して OSとセキュリティパッチを展開。また、システムの安定稼動を重視し、セキュリティパッチも必要最低限なものにのみ限定して対応してきました。しかし、こうした方法は、OS移行やパッチ処理の長期化や各現場の負荷増加を引き起こすこととなります。さらに、クライアント環境に発展性がないことも懸念事項のひとつでした。

こうした側面を問題視し、イオンアイビスはネットワーク経由でOS、セキュリティパッチを展開する体制の整備を計画。そこへ向けて、Windows Server Update Services(WSUS) とMicrosoft System Center Configuration Manager(SCCM)の導入を検討しました。さらに、Windows 10のコンセプトである「Windows as a Service(WaaS)」に則り、セキュリティパッチに加えてビルドも常時アップデートしていくことで、クライアント環境に発展性を持たせることも構想しました。

システム概要と導入の経緯
クライアント環境に発展性を持たせるべく、CBBでの採用を視野に検討

イオンアイビス株式会社 ITインフラ本部 インフラ運用管理部 運用管理グループ 廣瀬 剛史氏

Windows 10は従来のOSと異なり、更新プログラムの配付時期が異なる3種類のサービシング モデルから用途に合ったモデルを選択することになります。コンシューマー向けの「Current Branch(CB)」では常に最新のアップグレードを適用。一方、企業向けの「Current Branch for Business(CBB)」では、互換性を検証するための猶予期間が設けられています。また、ミッションクリティカルな用途を想定し、セキュリティパッチの展開のみを行う「Long Term Servicing Branch(LTSB)」も存在します。

イオングループがこれまでとってきた運用方針を踏襲するのであれば、LTSBが有力な選択肢といえますが、イオンアイビスではCBBの採用を視野に入れて、Windows 10への移行を進めます。その意図について、イオンアイビス株式会社 ITインフラ本部 インフラ運用管理部 運用管理グループ 廣瀬 剛史氏は次のように説明します。

「Windows 10では、生体認証機能のWindows Helloや資格情報を保護する Credential Guard など、機能面でもセキュリティ強化が図られていることが、事前にアナウンスされていました。セキュリティに対する社会的責任が高まる中、昨今のクライアント環境には、作業の安定性だけでなく情報漏えいリスクの最小化も求められています。Windows Hello がアニバーサリーアップデートから実装されたことを考えると、導入タイミングからビルドを更新しない場合、今後出てくるであろう最新機能の実装自体ができなくなります。利便性だけでなくセキュリティも常時高めていく場合、CBBの採用は有効であり、これを選択肢に入れることは必然だと考えました」(廣瀬氏)。

また、Windows 10への移行は、利便性とセキュリティの両側面を高めるだけでなく、運用体制の柔軟化も期待できたといいます。この点について廣瀬氏は、次のように続けます。

「従来のOSはサポート期限が存在したため、PCのライフサイクルもOSのEOL(End of Life)を考慮して設計する必要がありました。Windows 10の場合、現時点で少なくとも10年間は提供され続けることが表明されていますので、EOLを強く意識する必要がありません。イオングループではこれまで、クライアントPCについて3年周期でリプレースを行ってきましたが、この周期サイクルをより柔軟な形にできるのではないかと期待しました」(廣瀬氏)。

リプレースで発生するPCの換装は、従業員にとっての作業負荷となります。当然、リプレース周期が短いほど、組織全体での作業量は増加。イオングループのように約45,000ものユーザー数にもなると、そこで生じる業務の損失量は膨大です。また、4年以上の周期と比べて契約件数が多いことから、コストも余分に発生することになります。この課題も解消すべく、イオンアイビスではWindows 10の移行と並行して、リプレース周期を従来の3年間の固定制から、業務内容によって3年、4年、5年のいずれかから選択可能な体制へ変更することを計画します。「こうした柔軟性を持ったリプレース期間の設定は、EOLが存在しないというWindows 10の特徴があったからこそ検討が可能でした」と、廣瀬氏は笑顔で語ります。

こうして、イオンアイビスではWindows 10への移行について、さまざまな側面で存在していた課題の解消も目指してこれを進行。検討を開始した2015年秋から約9か月が経過した2016年6月には、下表の「移行手法」と「OS更新」、「リプレース周期」の変更も含めて、Windows 10への移行を進めることを決定し、検証作業を開始します。

イオンアイビス株式会社 ITインフラ本部 インフラ運用管理部 運用管理グループ 野口 康寛氏

イオンアイビスではマイクロソフトが提供する「Premier サポート サービス」の支援のもと、マイクロソフトとの密な連携体制を構築して検証作業を進行しました。イオンアイビス株式会社 ITインフラ本部 インフラ運用管理部 運用管理グループ 野口 康寛氏は、Premier サポートサービスを採用した理由について、評価も交えながら説明します。

「今回のプロジェクトは、SCCMの導入など、従来のOS移行と比べて手を付ける領域が広く、クライアント環境だけでなく運用体制も含めて見直しを行うことが求められました。プロジェクトをスムーズに進行するうえでは、当然ながらSCCMやWindows 10を提供するマイクロソフトから密にサポートしてもらうことが有効だといえます。互換性の検証やマスター設計時、Premierサポートサービスによる技術支援があるのは非常に心強かったと感じています」(野口氏)。

導入の効果
優れた互換性により、検証作業はスムーズに進行

検証作業、マスター設計の後、イオンアイビスは当初計画した時期から Windows 10 の展開を開始しています。計画どおりに進行できた要因として、野口氏は Premierサポートサービスによる技術支援に加え、OS自体の互換性の高さも挙げます。

「イオングループでは、およそ300ものアプリケーションがグループ各社、各部門で稼動しています。実は今回十分な計画期間を設けてプロジェクトを進めた背景には、Windows 7へ移行した際、この動作検証に多大な作業と時間を要したことがありました。ですが、当時と比較し、Windows 10の互換性検証は比較的スムーズに進行しました。これはWindows 10が優れた互換性を持つこと、またWindows 7への移行時、既にIE11への対応を済ませていたことが要因だと考えています」(野口氏)。

Windows 10の展開が進むにつれて、イオングループの業務環境はこれまで以上に発展性を持ったものとなっていくでしょう。石井氏はこの点について、次のように語ります。

「イオングループのクライアントPCは事務所用PCと店舗業務用PCに分類されます。その中でも、用途によってさらに6種類ほどに細分化され、それぞれで必要な用件のもとマスターを設計しています。今回、特定のアプリケーション以外の利用を制御せねばならない機種については、Windows 10の標準機能であるDevice Guardをマスター設計に組み込みました。こうした各用途で必要な機能は、今後も順次、Windows 10に搭載されていくでしょう。その都度で実装を検討することで、『発展性をもったクライアント環境』として事務所用PCと店舗業務用PCを運用していきたいと考えています」(石井氏)。

今後の展望
"お客さま第一"の高次元化を支援するクライアント環境を目指す

石井氏が語る「発展性をもったクライアント環境」の実現においては、新たに導入したSCCMやWSUSの有効活用し、いかにしてビルドを最適に適用していくかが鍵を握るといえます。また、リプレース周期の柔軟化によってクライアントPC間のOSバージョンに差異が生じることが予想されます。SCCMによってバージョンの標準化を行うことは、そこでも重要となるでしょう。セキュリティ水準、利便性の高い環境を維持し続けるべく、イオンアイビスでは運用の最適化に向けた協議を今後進めて行く予定です。

一方で、イオングループにとってクライアントPCはミッション クリティカルともいうべきシステムであり、そこでは安定稼動が第一に優先すべき事項となります。今後、CBBの採用を推進するために、OSの信頼性をより高めてほしいと、廣瀬 氏は期待を語ります。

「Windows 10は『発展していくOS』と聞いており、この点には多大な期待を寄せています。ただ、毎月発生するパッチ処理、半年に1回のビルド対応については、アプリケーションの安定稼動という側面でまだ不安があります。今回の移行のスムーズさから互換性については高い水準で担保されていると感じていますが、それでもミッションクリティカルなシステムゆえに、検証作業は欠かせません。全端末について定期的に検証、展開するのはリソース的に限界があり、現時点では全面的にはCBBを採用できていません。セキュリティ パッチ、ビルドを簡易的な検証で対応できるほど信頼性があれば、CBBの適用領域はもっと拡大していけるでしょう。マイクロソフトには今後も、信頼性を追及していってほしいですね」(廣瀬氏)。

"絶えず革新し続ける企業集団"というポリシーのもと、先進ITの活用を推進するイオングループ。現在同グループが進めているWindows 10移行が完了したあかつきには、グループ各社のセキュリティ水準と業務効率はさらに向上することとなります。その先にある"お客さま第一"は、いっそうの高次元化が果たされていくことでしょう。

「イオングループのクライアントPCは事務所用PCと店舗業務用PCに分類されます。その中でも、用途によってさらに 6 種類ほどに細分化され、それぞれで必要な用件のもとマスターを設計しています。今回、特定のアプリケーション以外の利用を制御せねばならない機種については、Windows 10の標準機能であるDevice Guardをマスター設計に組み込みました。こうした各用途で必要な機能は、今後も順次、Windows 10に搭載されていくでしょう。その都度で実装を検討することで、『発展性をもったクライアント環境』として事務所用PCと店舗業務用PCを運用していきたいと考えています」

イオンアイビス株式会社
ITインフラ本部
インフラ運用管理部
部長
石井 和人氏

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