日本電気株式会社(NEC)は、これまでオンプレミス型で運用していた、社内の各事業部門やグループ会社へITリソースを提供するプライベートクラウド環境を、VMware のクラウドサービスである「VMware Cloud on AWS」へ移行しました。既存のアーキテクチャを変更せず、ユーザーの業務に影響を与えないクラウドリフトを実施することで、2カ月強の短期間で「301システム、424台の仮想マシン」の移行が完了しました。その結果、クラウドシフトに比べて91%の移行コスト削減、従来のオンプレミス型と比べて19%の運用コスト削減を見込んでいます。同社では、今回のプロジェクトで得た知見を、これからEOLを迎えるシステムのクラウド移行や、同様の課題を抱える顧客へのオファリングにも活かしていく意向です。
ソリューション
NECが進めるクラウド活用の一環として、社内へITリソースを提供するオンプレミス型のプライベートクラウドを「VMware Cloud on AWS」へ移行。移行方式としては、既存の「VMware vSphere」による環境からアーキテクチャを変更せずに迅速に移行を行えるクラウドリフトを採用。「VMware HCX」を活用し、L2延伸によるIPアドレス同番移行や、移行作業に利用するネットワーク帯域のコントロール、作業の自動化などを行い、技術上のトラブルを回避しつつ、2カ月強で424台の仮想マシンの移行に成功。
導入前の課題
- ITインフラのクラウド移行を迅速かつ低コストに行う方法を模索
- 移行にあたってユーザーやその業務に与える影響の最小化を目指す
- 仮想マシン移行時の作業手順の効率化と安全性の確保が必要
導入効果
- 「VMware Cloud on AWS」へのクラウドリフトにより2カ月強で400超の仮想マシンの移行に成功
- L2延伸によるIPアドレスの同番移行でシームレスなクラウド移行を実現
- 「VMware HCX」による移行作業の自動化で99.5%の仮想マシンを機械的に移行
オンプレミス型プライベートクラウドを早く・安く・安全にクラウド移行する方法を模索
「NECは、2025中期経営計画の中で、DXをビジネスの中核とすることを明確に打ち出しています。DXは、企業にとって単に ‟従来のIT を変えること” ではありません。企業の持つビジョンやカルチャー、ビジネスプロセスなどを含めて、包括的に変革していく取り組みです。NEC では、我々自身が自らDXを進めることで得たノウハウやナレッジを、お客様や社会全体に循環していくことを目指しています」
そう話すのは、NECでコーポレートIT・デジタル部門 経営システム統括部のシニアディレクターを務める中田俊彦氏です。NECでは、同社の手がけるDX を、大きく「コーポレート・トランスフォーメーション(社内の DX)」「コア DX(お客様の DX)」「フラッグシッププロジェクト(社会のDX)」の3領域に定義しています。
なかでも「コーポレート・トランスフォーメーション(社内のDX)」は、NECが自らの変革を通じてDXの価値を享受するとともに、蓄積した知見を顧客や社会へ還元していくための起点となる重要な取り組みです。同社ではその推進にあたり、従業員の持つ力を最大限に発揮し働きがいの向上を図る「働き方のDX」、業務プロセスを最適化しデータドリブン経営を推進する「基幹業務のDX」、IT 運用の効率化・高度化を実現する「運用のDX」という3本の柱と、それぞれのDXに共通する、従業員のデジタル体験を高度化する「エクスペリエンス」、様々な社内データを一元化し有効活用する「DATAプラットフォーム」、全システムを効率化・高度化する「モダナイゼーション」の3つで変革を進め、積極的な価値創出を推進しています。NECは、これらを実現するITインフラの高度化にあたり、マルチクラウド活用を進めています。
コーポレートIT・デジタル部門、経営システム統括部の上席プロフェッショナルである梶野晋氏は、「社内にある約1,000の既存システムを、できるだけ短期間で、コストをかけずにクラウドへ移行する方法を検討しなければなりませんでした」と話します。
NEC では、システム構築を行いたいグループ企業や部門向けにITリソースを「VMware vSphere」ベースの仮想化環境上で払い出すオンプレミス型のプライベートクラウドを構築していましたが、それらをクラウドに移行することが必要となっていました。
「システムのクラウド移行にあたっては、クラウドネイティブな環境に適応するよう、アーキテクチャの変更を伴って移行を行うクラウドシフトが理想ですが、全システムでそれを行おうとすると、工数もコストも膨大になります。そこで、まずはアーキテクチャを大きく変えることなく、既存のシステムをそのままクラウドへ移行するクラウドリフトを短期間かつ低コストで行い、その後のシフトに備えることが多くのケースで有効です」(梶野氏)
大規模なクラウドリフトを迅速かつ低コストでスムーズに実現するため、同社ではVMwareがAWS EC2ベアメタルインスタンス上で提供しているクラウドサービスであるVMware Cloud on AWSの採用を決定しました。
PoCを通じて移行のスタイルや手順を綿密に計画さまざまな施策でユーザー業務への影響を最小化
NEC では、2022年 9月から約 3カ月をかけて VMware Cloud on AWS の検証[机上2カ月+PoC(概念実証)1カ月]を行い、1カ月間の本番環境構築を経て、2023年1月から実際の移行作業をスタートしました。目標は、そこから2022年度が終了するまでの「約 3カ月」という短期間のうちに、クラウドリフトの対象となった約400VM(仮想マシン)の移行を完了することでした。
移行作業を担当したメンバーのひとりである大森諭氏は、「事前の検証を通じて、VMware Cloud on AWS上に本番環境を作るところまでは可能だろうという見込みがありましたが、大量の仮想マシンの移行が実際に完了できるかどうかという点では、正直なところ不安もありました」と当時を振り返ります。
同社では、ヴイエムウェアによるレクチャーやワークショップ、技術サポートなどを活用しながら、移行作業の準備を進めました。PoCでは、複数の移行方式を検証して、実際の移行プロセスを綿密に計画していきました。
今回のプロジェクトで特に重視された要件は、「クラウド移行がエンドユーザーに与える影響を最小化すること」と「移行作業にかかる時間とコストを可能な限り圧縮すること」の2点でした。
エンドユーザーへの影響を最小化するうえでは「IPアドレスの同番移行」が大きなポイントになります。移行前と移行後でシステム側のIPアドレスが同じであれば、ユーザー側のアプリケーションや環境に手を加えることなく、シームレスにオンプレミスからクラウドへの移行が可能です。同社ではVMware HCXの機能を利用し、ネットワークの「L2延伸」を実施してこの課題をクリアしました。L2延伸を行う際にはネットワークの遅延を考慮する必要がありますが、今回のケースでは、PoCを通じて遅延はごくわずかであることをあらかじめ確認していました。
加えて、仮想マシンを順次VMware Cloud on AWSへと移行する過程で、仮想マシンの移行のためのネットワークトラフィックが通常の業務に利用される帯域を圧迫することを避けるためにVMware HCXを活用しています。VMware HCXでは、ネットワーク上に移行専用の帯域を確保して、ほかのトラフィックへの悪影響を避けつつ仮想マシンを移行できます。また「Mobility Optimization Network(MON)」機能を利用することで、オンプレミスとクラウド間の無駄なトラフィックを削減することも可能です。事前の検証を通じ、仮想マシン移行時のシステム停止時間は「1仮想マシンあたり1時間以内」に収められることも確認し、スケジュールを組んでいきました。プロジェクトメンバーとして、社内ユーザーへの説明や、移行スケジュールの調整などを担当した市村俊介氏は、「今回のプロジェクトにおいて、業務への影響を懸念して移行に乗り気でないユーザーは少なからずいましたが、切り戻し手段の準備などユーザーへの影響を最小化するために多くの施策を行っていることを社内説明会などで説明し、理解を得ました」と話します。
クラウドリフトのモデルケースを確立機能拡張やオファリング推進も視野に
結果として、NEC本社およびグループ全21社が利用している「301システム、424仮想マシン」のVMware Cloud on AWSへの移行は実質2カ月強(70日間)で完了し、当初の目標を達成できました。
また、懸念されていた移行作業中や移行後のネットワーク、システムのトラブルに対するクレームもなく、「むしろ、移行後はVMware Cloud on AWSのインスタンス性能の高さもあり、以前よりも処理時間が改善したというケースも聞いている」(市村氏)といいます。
今回のプロジェクトにおいて、クラウドシフトではなくクラウドリフトを選択したことで、移行コストは91%削減できたと同社では試算しています。加えて、マネージドサービスであるVMware Cloud on AWSへ移行したことにより、従来のオンプレミス型と比較して、運用コストを19%削減できる見通しがあり、移行完了後の4月からプライベートクラウドの利用料金について値下げを実施し、ユーザーへの還元を図っています。
同社では、今回のプロジェクトから得られたクラウドリフトの知見を、この先にEOLを迎える社内システムのクラウド移行や、同様の課題を抱える顧客を支援する「お客様のDX」などにも活かしていきたいとしています。
「ヴイエムウェアは仮想化技術の領域で業界ナンバーワンの技術と実績を持つベンダーだと認識しています。今後増えてくる企業のマルチクラウド環境の運用管理、コスト最適化の観点でも‟VMware Aria”と呼ばれるソリューションを展開しており、コスト最適化については、われわれも検証をはじめています。こうした周辺ソリューションが、VMware Cloud のみに留まらず、複雑化したマルチクラウドの管理を最適化していく上で有用なものになっていくことを期待しています」(梶野氏)
「ユーザーの業務を止めず、極めて短期間に大規模なクラウドリフトを成功させた要因は、エグゼクティブレベル、実行リードレベル、現場レベル等各階層での円滑なコミュニケーションを通じて蓄積した、ヴイエムウェアとNECのパートナーとしての強い信頼関係にあったと思います。NECがゼロ番目の顧客(クライアント)となる「クライアントゼロ」の考え方を実践し、今回の取り組みを通じて得た「活きた」ナレッジは、多くの企業でもご活用いただけるものと大きな手応えを感じています。皆様のDX推進をお手伝いし、これからも社会全体に向けた大きな価値創出につなげていきたいと考えています。」
●業界
TECHNOLOGIES
●カスタマープロフィール
1899年の設立以来、120年以上にわたりコアコンピタンスである「技術力」を武器に、日本と世界のビジネスを支え、変革してきた。ソリューションの提供領域は、社会インフラから公共、民間企業、宇宙開発など極めて多岐におよぶ。現在は、企業パーパスとして掲げる「Orchestrating a brighter world ~ NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。~」の実現に向け、これからの社会に求められる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の推進を2025中期経営計画の中核に据える。
●ユーザーコメント
「今回のプロジェクトが成功した要因には、‟ヴイエムウェアとNECのパートナーとしての強い信頼感”があり、NECが社内で取り組んだ成果をお客様に提供していくための大きな一歩になったと思います。今後も引き続き両社がそれぞれに持つ強みをうまく組み合わせて、新たな価値を生み出すことにチャレンジしていきたいですね」
――日本電気株式会社 コーポレートIT・デジタル部門 経営システム統括部
シニアディレクター中田 俊彦 氏
●導入製品・サービス
・VMware Cloud on AWS
・VMware HCX
・VMware NSX Advanced Load Balancer
[PR]提供:ヴイエムウェア