「3G(グループ、グローバル、ガバナンス)時代」が到来したと言われる現在、日本企業には「カネの有効活用」と「カネのリスク管理」に本格的に取り組むことが求められている点を前回紹介した。しかしそのためには、旧態依然とした財務管理のあり方を改めなければならない。では、いまの日本企業はどのような課題に直面し、財務経理責任者(CFO=Chief Financial Officer)にはどのような役割が求められているのか ―― キリバ・ジャパン株式会社 代表取締役社長の桑野祐一郎氏に聞いた。
「Excelで手作業」という現実
本格化した3G時代に向け、日本企業には解決しなければならない課題が山積している。そのうちの一つが、日本の本社と海外の子会社が個別に財務管理を行っていることだろう。そもそも日本企業は、欧米企業に比べて“現地”を重視する傾向がある。そのため、財務管理だけでなく、会計・経理も現地の個別最適化で取り組んできた企業が多かった。
現地任せにするということは、すなわち各国の海外子会社が取り扱うデータの仕様や形式が異なるということである。そうしたバラバラのシステムから出力されたレポートがメールを通じて集められ、日本の本社において手作業で集計されることになる。つまり、グループ全体では“丼(どんぶり)勘定”といっても過言ではない状況なのだ。
こうした状況において桑野氏は、「日本企業は高品質のモノを作って勝負することには長けています。ところが、良いモノを作れば勝負ができるという時代は終わりつつあるのです。特にカネの管理については、長い間、フォーカスされることがなく、非常に属人的な業務が行われてきました」と語る。
しかし事業がグローバル化し、グループ経営によるガバナンスの強化が求められる現在、現地で個別最適化した財務管理ではさまざまな不都合が生じてくる。海外子会社の不正などのリスクは最たる例だろう。不正でなくても手作業で集計作業を行っていたのでは、必ず人為的ミスが発生する。
「財務管理の資金繰り表などは、日本の名立たる大企業であってもExcelで管理しているというのが実情です。これでは人為的ミスの発生は免れません」(桑野氏)
このように「会計・経理システムが不統一」「財務管理はExcel」「グローバルグループ全体の標準プロセスは未整備」「リスク管理の必要性は分かっていても手付かず」というのが、日本企業の現状なのである。
見直すべきCFOの役割
CFOの役割は、日本企業がすぐに見直すべき大きな課題である。特に、日本企業には「人的リソースの課題がある」と桑野氏は言う。
「日本企業は長年、銀行が預金者から集めたカネを借り入れること、つまり間接金融によって事業展開に必要な資金を調達してきました。そのため従来のCFOの使命は、メインバンクと良好な関係を築き上げ、カネを借りたいときに借りられるようにしておくことでした」
その結果、メインバンクへの依存度が高まり「銀行に強く出られない」という関係を作り上げてしまった。ところが90年代初頭のバブル崩壊以降、銀行は必ず貸してくれるとは限らなくなった。リーマンショックのときには日本を代表する大企業でさえ、銀行が貸してくれず倒産しかかったほどだ。
「困ったときに銀行が助けてくれるというのは、古き良き時代の話です。銀行に対する規制は、金融危機以降ますます強化され、資産のリスク管理が厳格に求められるようになり、銀行も顧客を選ぶ時代になってきました。銀行に100%頼ることはできない時代です」(桑野氏)
最近の低金利環境下で、銀行借入よりも社債発行の方が条件が良くなるなど、投資家から資金を調達する直接金融で最適な調達手段を選ぶようになりつつある。
「直接金融で資金を調達するには、自社の財務状況を開示するとともに、事業計画を説明して投資家からカネを集めなければなりません。そのため、これからのCFOは説明責任を果たすことが最も重要な役割になります。これからの日本企業に必要なのは“ビジネスの分かるCFO”なのです」(桑野氏)
CEOにも財務への理解が必要
グローバル市場を相手に勝負するには、意思決定や資金調達のスピードも求められる。CFOが説明責任を果たせなければ、それもままならないというわけだ。ただし、それは最高経営責任者(CEO=Chief Executive Officer)にも、そっくりそのまま当てはまる。
桑野氏が多くの日本企業のCFOや財務部門とディスカッションしてきた中で明らかになった課題の一つに、「CEOの財務管理に対する意識・関心の低さ」があるという。
「日本企業のCEOと話をすると『財務は部下や各子会社に任せている』というケースが多くあります。例えばトップライン(損益計算書の最上行にある売上高の意)を上げさえすれば、ボトムライン(損益計算書の最下行にある最終損益の意)がどうでも構わないと考えるCEOもいます。自社の財務を理解した上で、あえて部下や各子会社に任せているならば良いのですが、CEOの中には財務を把握できないため、仕方なく任せているというケースもあります。財務に何かあれば、全責任を負わなければならないのはCEOなのに、それで良いのでしょうか。これからの日本企業には“ビジネスの分かるCFO”と同時に、“ファイナンスの分かるCEO”が必要なのです」と桑野氏は警鐘をならす。
財務を理解したCEOが主導して、グローバルグループ全体で中央集権的な財務管理体制を確立し、各事業部門や子会社にもガバナンスを効かせることが、財務管理の第一歩と言えるだろう。
多くのCFO、財務部門での課題
銀行政策 | 銀行政策・メインバンクへの帰属意識強、『銀行に強く出られない』 |
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システム | ERPシステムは不統一、トレジャリーシステムはExcel |
ポリシー | 個社最適(標準プロセス未整備) |
キャッシュ | 事業会社個別の占有意識が高い、『事業部門が言うことを聞かない』 |
人材 | ジョブローテーション(日本) vs プロフェッショナル(欧米) |
リスク管理 | 必要性は分かってはいるけど手付かず (火傷しないと真に分からない。火傷しても喉元過ぎれば熱さを忘れる) |
経営者 | トレジャリーに対する意識・関心の低さ |
コスト | かけられない(人でカバー) |
規制・税制 | 複雑すぎて放置(取り組まない理由にはならない) |
トレジャリーマネジメントは可視化から
そうした日本企業における財務管理の課題を解決するソリューションとして、いま「トレジャリーマネジメント」が注目されていることは、本連載の第1回で触れた。複数の異なる銀行口座間で資金移動(プーリング)できるなど、銀行が提供するキャッシュマネジメントシステムとの違いも紹介した。
では、トレジャリーマネジメントはどのように導入を進めていけば良いのだろうか。桑野氏はまず財務管理を可視化するところから始め、徐々に高度化のステップを登っていけば良いと話す。
「トレジャリーマネジメントの仕組みを導入すれば、グローバルグループ全体のキャッシュフローを可視化することができます。これにより、資金繰り精度の向上、為替・金利・銀行信用リスクへの対応、内部不正防止・内部統制向上などの『リスク低減』、計画的な運用・調達や報告・レポート作成業務の負荷軽減による『コスト削減』、グループ全体の効率的な運用・調達の実施、グループ全体の資金配分といった『バランスシート改善』という効果がすぐに得られます。可視化するだけなので、グループ内で資金管理に関するガバナンスや権限を変更する必要もありません」
可視化したのちに、必要に応じてグループ内の財務管理体制やガバナンスの改革に着手し、次のステップへと高度化していくのである。次回は、可視化したあとの高度化ステップを追っていくとともに、実際の導入事例を交えながらキリバが提供するクラウドソリューションの特長を解説する。
(マイナビニュース広告企画:提供 キリバ・ジャパン株式会社)
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