内外の経営資源 ―― すなわち“ヒト・モノ・カネ”を自在に使いこなすマネジメントが現代の企業経営者には求められている。いずれも企業経営にとって必要不可欠な要素だが、特に多くの日本企業が再考すべき大きな課題となっているのが“カネ”の管理だ。いまの日本企業を取り巻く環境にどのような変化が起きているのか。本稿では、こうした現状や企業が抱える課題・解決策において、グローバルで財務・資金管理のソリューションを提供するキリバ・ジャパン株式会社 代表取締役社長の桑野祐一郎氏に話を聞いたので、その内容を3回に分けて紹介する。
本格的な3G時代が到来
少子高齢化により人口減少時代に突入した日本において、企業はいま、従来のビジネス戦略を大きく転換しなければならない岐路に立たされている。今後もビジネスを成長させていくには、縮小傾向にある国内市場だけを対象にしていては立ち行かない。販路を求めて海外に軸足を移す日本企業は増加の一途をたどり、“ヒト”や“モノ”が国内外を行き来するようになった。これは“カネ”に関しても同様である。
企業の財務・経理に精通している桑野氏は、日本企業を取り巻く環境の大きな変化として「本格的な3G時代が到来した」ことを挙げる。3Gとは「グループ(Group)」「グローバル(Global)」「ガバナンス(Governance)」のこと。海外子会社を含む連結決算から連結(グループ)経営への移行、生産・販売拠点を求めた海外進出、あるいは海外企業のM&A(合併・買収)といった企業のグローバル化が一段と進み、経営者や投資家などステークホルダーによるガバナンスへの理解が深まったことで、カネの流れも大きく変わり始めているというのだ。
「3G時代が本格化した現在、企業には『資金の有効活用』と『資金のリスク管理』が求められます。そのために最も重要なことは、グローバルの企業グループ全体で “カネを見える”状態にしておくことです」(桑野氏)
海外子会社の財務管理による弊害
日本企業はこれまで、日本の本社と海外の子会社が個別に財務管理を行うことが多かった。いわば、それぞれが別々の財布を持っているわけだ。そこでよくあるのが、日本の本社は内部留保した資金を持っているが、子会社の財布には資金がないというケースだ。逆に日本の本社には資金がないが、市場が急拡大している海外子会社には資金があるというケースもある。どちらのケースであっても財布の管理が別個である限り、グループ企業全体で資金を有効活用するのは難しい。
桑野氏は言う。「例えば新興国に進出して生産拠点を建設するとしましょう。新興国の金利は高いため、金利がゼロに近い日本でカネを借りて投資したほうが、企業にとっては有利です。しかし子会社がそれぞれ財布を管理していたのでは、それができない場合があります。また子会社がそれぞれ少ないカネを持っていても、底溜まり資金になってしまうおそれもあります。逆に貯めたカネを海外子会社が出し渋り、さらなる海外進出に投資できないということも考えられます。それらの事態を招かないためにも、財布の中身をグローバルで統合管理しようといった当たり前の取り組みが必要なのです」
リスク管理の重要性 -為替リスク・不正リスク―
グローバルの企業グループ全体でカネを管理することは、リスク管理の観点からも重要になる。リスクとして、まず考えられるのが為替だ。
国内で材料を仕入れ、国内で販売するだけならば円の動きしかない。しかし国内で生産したものを海外で販売する場合、円高になると受領額が減ってしまうという為替の問題に直面する。海外の現地で生産し、販売するようにすれば現地通貨の動きだけにできるものの、子会社が連結対象であれば、いずれにしても為替の影響を受ける。こうした為替の影響を最小化するためにも、カネの流れをグローバルで統合管理することが欠かせない。
もう一つの大きなリスクが海外子会社の不正だ。
「日本のあるメーカーがM&Aによって同業の海外企業を買収したところ、その海外企業の子会社で粉飾・横領など不正会計が発覚。銀行への債務超過による保証で300億円、株価下落が300億円という損失を出したケースがありました。内部統制を担保しなかったと株主訴訟をされてもおかしくない事案でしたが、このケースでは銀行の残高証明が改ざんされていたという理由で監査法人から無限定適正意見が出されています。このような海外子会社の不正はたびたび起きており、日本企業の足元がすくわれかねない状況になるおそれもあります。多くの日本企業は財務経理担当者を子会社に送り込んでいますが、目が行き届かないのが現状です。子会社から人手を介して入ってくる情報だけに頼らず、財布の中身を見られるようにしておくことは、不正の抑止として重要です」(桑野氏)
トレジャリーマネジメントとは?
このように「カネ(資金)の有効活用」と「カネ(資金)のリスク管理」を実現するために、グローバルの企業グループ全体で財務を統合管理することが「トレジャリーマネジメント」である。これは、主に銀行が企業グループ全体の資金を集中的に管理するためにサービスとして提供する「キャッシュマネジメント」と似て非なるものだ。
銀行が提供するキャッシュマネジメントシステムとは、顧客を囲い込むための1つのツールとなっている。そもそも銀行には、資金を融資して得られる金利と決済の手数料という2つの収益源がある。ところがマイナス金利の現在、銀行が日銀に預金しても金利が得られるどころか逆に金利を支払わなければならず、主な収入源は手数料に偏在してしまっている。そのため、どの銀行も手数料を得るために、流動性の低い企業のオペレーション口座の取引を増やしたいと考えており、その手段としてキャッシュマネジメントシステムを提供している。
ところが、いまの企業はリスクを回避しようと複数の銀行に口座を開設し、取引を分散させている。それぞれの銀行独自のキャッシュマネジメントシステムでは、当然のことながら銀行をまたがったカネの管理は困難だ。
「キャッシュマネジメントでは、銀行口座にあるカネの管理しかできません。しかし、グローバルの企業グループ全体で資金を最適化するには、子会社に資金がいくら必要なのかを把握するなどキャッシュマネジメントを超えた管理が求められます。さらにその上で、為替のエクスポージャー、銀行の借入/貸付、銀行レス決済、キャッシュコンバージョンサイクルなどを管理しなければなりません。キャッシュマネジメントではあらかじめ定めたルールに基づいて複数の口座間で自動的に資金移動するプーリングが、同一銀行でしかできませんが、複数の銀行にある口座間でプーリングできることが本来の姿です。このような要件をすべて備えているのが、トレジャリーマネジメントです」(桑野氏)
このトレジャリーマネジメントへの取り組みこそが、グローバル企業に求められているのである。本連載の次回は、いまの日本企業が直面している財務管理の実態や財務経理責任者(CFO=Chief Financial Officer)の役割を振り返りながら、トレジャリーマネジメントの実践と効果を考えてみたい。
(マイナビニュース広告企画:提供 キリバ・ジャパン株式会社)
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