働き方が多様化する現代社会は、多くの企業に対して新たな組織作りや人材育成の模索を強いています。TIS株式会社では、リフレクションの第一人者・熊平 美香氏と共同開発した組織対話実践アプリ「Practice」の提供を通じて、企業における自律成長型組織の実現を後押ししています。本記事では、熊平氏とTIS株式会社の久保田 博氏を迎え、「自律型人材の育成」を実現させる新たな方策について語り合って頂きました。

  • (写真)久保田氏と熊平氏

    (左)TIS株式会社 産業公共事業本部 産業ビジネス第1事業部 プロデューサー 久保田 博氏
    (右)21世紀学び研究所 代表理事 熊平 美香氏

自律型人材の育成に向けた新たな挑戦

──組織の対話を活性化させ、自律型人材の育成をサポートするために開発されたというアプリ「Practice」について、まずはその誕生経緯を教えていただけますか?

熊平氏:
これまで企業様に対してリフレクションを広める活動として、本の出版やワークショップの開催などを行ってきました。ただ、一度の研修で伝えられることには限度があります。会社の“カルチャー”として実践を重ねなければ、組織的な効果を発揮することはできません。「ITの力で、マイクロラーニングの仕組みをつくりたい」と考えていたとき、久保田さんから声がかかったのです。

久保田氏:
実は私自身がリフレクションによって気づきを得たことが、Practice開発の大きなきっかけなんです。2019年の秋頃、TISでは人材領域での新規事業として企画を考えており、知人の紹介で熊平さんと出会いました。そして私も実際に「リフレクション(内省)」と「ダイアローグ(対話)」を学ぶ研修を受けたところ、深い深い気づきがあったのです。過去・現在・未来の自分の根幹を見つけることができました。

熊平氏:
「自分が大切にしていること」は、内発的動機を湧き上がらせる源泉です。教育を変えたい、人を育てたい、といった行動の根底には、必ず「価値観」が存在します。これを自認することで、自分で自分のエネルギーを出しやすくなるんです。より創造的になり、学ぶことが苦じゃなくなったりします。

久保田氏:
まさにその通りで、自分がなぜ新規事業に手を挙げたのか、人事領域を選んだのか、といった行動の意味が一つ一つくっきりと明らかになりました。また、研修では他者のリフレクションを聞くことで、初対面であっても昔からの知り合いのように打ち解けることができ、これは素晴らしい技術だと感じました。こうしたテクノロジーは「自律型人材」の育成や、「学習する組織」への変革に向けて、凄い可能性があるぞと思ったのです。

熊平さんの技術の根幹になっているのが、意見・感情・経験・価値観という「認知の4点セット」です。このフレームを意識することで、段違いに深いリフレクションと対話が可能になります。ですから、認知の4点セットを"要素技術"としたITプロダクトをつくれば、世界中どこにも無いものを生み出せると思い、すぐ開発に着手しました。

熊平氏:
「まずはリフレクションをやってもらおう」と焦点を明確にしました。Practiceによって、チームで具体的なテーマのもとにリフレクションを実践することができるようになり、お互いを深く知り信頼関係を高めること、企業のビジョンやパーパスを自分事化することなど、さまざまな目的に合わせて活用できます。

  • (写真)インタビューに答える熊平氏

    熊平氏

組織の対話を変革するアプリ「Practice」

──そうして開発された、リフレクション(内省)にフォーカスしたPracticeとは、どんなアプリなのでしょうか?

久保田氏:
Practiceは「リフレクションを深めるための150問」が搭載されており、ユーザーに対して、定期的に問いが投げかけられます。それに対する自分の意見・経験・感情・価値観を入力して投稿することで、質の高いリフレクションができるようになっています。また、他の人のリフレクションも見られるようになっていて、スタンプといっしょにフィードバックを返すことができます。

熊平氏:
スタンプはすごくいい発明よね。文字のフィードバックだけだと、相手が危険な受け止め方をしてしまうこともある。でも「応援します」「賛成」「深掘り提案」「詳細希望」というスタンプを添えれば、発言のベクトルを示すことができます。

久保田氏:
コミュニケーションとは難しいもので、たとえば上司からメールで「いいよ」とだけ返信が来たとき、「あれ、何か気に障るようなこと言ったかな……」と思ってしまう人もいます。「深掘り提案」のスタンプには、「ダメだと言ってるんじゃなくて、もっと良くするためのアイデアを提供するよ」という意味が、「詳細希望」のスタンプには、「相談に乗るよ。でももっと詳しく教えて」といった意味が込められていますので、心理的に安全を保ったままリフレクションをすることができます。

熊平氏:
誰かとリフレクションをし合うことは、「ああ、この人はそう考えているんだ」「あの行動の根底には、こういうとらえ方があったんだな」と自分という枠を越えた理解をすることに繋がるため、とても大事なことなのです。

たとえば「犬が好き」という人と、「犬が嫌い」という人が、ただ意見をぶつけ合ったら喧嘩になってしまうかもしれません。でも、「ずっと家族として一緒に過ごしてきたから好き」「子どもの頃に追いかけられたから嫌い」という背景がわかると、対話が可能になります。

久保田氏:
リフレクションは、一つ一つが、まるで映画のワンシーンのように、その人の人生を垣間見せてくれます。

熊平氏:
「意見が違う」事に対して、認知に多様性があることを前提として、各自が持ち込んでいる価値観込みで聞き合うことができれば、会社の会議の創発性はがらりと変わるでしょう。多様性がチームの武器になるからです。

  • (写真)リアクションマーク

    リフレクションへのフィードバックは、“ポジティブ”な内容のスタンプを添えて行う。

メタ認知を深める「自律型チーム育成プログラム」

──Practiceの発展として、TIS様は2023年12月から「自律型チーム育成プログラム」の提供をスタートされました。これはどのようなプログラムなのでしょうか?

久保田氏:
「研修だけではその後の継続が途絶えがち」「アプリは組織内に指導者が必要」といった課題がありましたので、お客様自身で自律的な学習型組織になるためのパッケージを用意しました。3~5分ほどの短い動画教材が、基礎編・応用編で合計50本あります。動画を見てからPracticeでリフレクションをすることによって、より深く学べるようになっています。

熊平氏:
動画には、自己を知る、ビジョンを形成する、多様な世界から学ぶ、経験から学ぶ等の内省の技術について解説しています。みんなが同じ動画を見て、そのテーマについてリフレクションをすることによって、リフレクションが上達するだけでなく、チームビルディングにも繋がっていきます。

──具体的に、本プログラムはどのような効果を得られますか?

久保田氏:
弊社では毎週、動画を見てリフレクションをして、発表会をしているのですが、認知の4点セットをもとにしたメタ認知が非常に深まっている事を感じています。

先日、ある若手社員がマカオに行ってきたのですが、「運の要素が強く、負けた理由を自分のせいにできないゲームはつまらないのだと気づいた」というリフレクションをしてくれました。休暇中もメタ認知がはたらいて、「負けてつまらなかった」で終わらず、なぜ自分はそう感じたのだろう? と見事に分析できていました。上司としてはこの社員に「どこまで裁量を効かせられるのか」を明示した上で仕事を渡した方がいいのだな、という気づきにもなりました。

熊平氏:
リフレクションが身につくと「自分の感情」に目を向けやすくなります。「何かおかしいな」というシグナルにすぐ気付けるわけです。“正解”があった時代は、感情なんて関係なくてただ行動すればよかったのですが、今は違います。感情という人間の大切な機能を正しく活かすことが、大切なのです。実感にもとづくウェルビーイングが、商品・サービスに価値をもたらす時代になったからです。

久保田氏:
これまで「部長は部長らしいことを言わねば……」という役職についての固定観念があったかもしれませんが、自律型チーム育成プログラムは、動画のテーマについてリフレクションすればいいので、本音・本心を明かしやすくなっています。一方で、弊社では入社1年目で仮説形成に関する素晴らしいリフレクションをされる方も見られるようになり、「部長」とか「入社1年目」というとどうしても偏見を持ってしまいますが、それを越えてお互いに学びあえる環境が築けています。

  • (写真)インタビューに答える久保田氏

    久保田氏

  • (キャプチャ)リフレクションとフィードバック

    入社1年目のメンバーによる動画視聴後のリフレクションと、久保田によるフィードバックのようす。

「多様性を力に」自律型組織が拓く新たな可能性

──最後に、今後の展望についてお聞かせ下さい。

熊平氏:
リフレクションと対話が根付いた組織は、成長のスピードが変わります。失敗を含めた仮説検証をのびのびと繰り返して、新しい何かを見つけられるようになるからです。 その結果、組織の中にある「イノベーション力」が発揮されるようになります。私は今回のTIS様との取り組みなどを通して、日本にそんな会社をもっともっと増やしていきたいと考えています。

久保田氏:
「多様性」というキーワードが注目されるようになって久しいですが、自律型チーム育成プログラムは、「他者には自分の知らない世界があるのだ」と実感できる大きな機会です。ダイバーシティ&インクルージョンの実践に直接繋がっていくことでしょう。

今後も、リフレクションと対話を身につけられるよう、「いつでも熊平さんが寄り添っている状態」を目指し、プログラムを日々ブラッシュアップしていきたいと思います。

  • (写真)対談中の久保田氏と熊平氏

組織対話実践アプリケーション「Practice」
https://www.tis.jp/service_solution/practice/

自律型チーム育成プログラム
https://www.tis.jp/service_solution/practice_program01/

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