「NANDフラッシュメモリ技術」でパフォーマンスが進化し続けるSSD

HDD(SASディスク)の耐久性と信頼性、そして何よりI/O性能が頭打ちになっている状況において、注目されているのが、「NAND型フラッシュメモリ(*1)」という不揮発性メモリにデータを書き込むSSDです。もともとフラッシュメモリは家電製品やデジタルカメラなど、コンシューマ向け製品で多用されていた技術ですが、近年、エンタープライズ分野でも利用されるようになりました。

(*1)NAND型フラッシュメモリ:1987年に東芝が開発した、不揮発性記憶素子のフラッシュメモリ技術。電源を切っても情報が消えない、大容量化が容易で消去や書き込みの速度も速いといった特性を持つ。デジタルカメラや携帯電話のメモリなどに使用されている。

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SSDの特長は、何といってもI/O性能が高いことです。NAND型フラッシュメモリは、「セル」(フラッシュメモリのデータを記録する最小単位)に電子を蓄えたり放出したりすることで、データを記録します。つまり、HDDのような機械的な構造ではないため、シークタイムがなく、高速なランダムアクセスが可能なのです。また、物理的に動作するモーターやアームがないため、振動に対する耐性も高く、稼働時だけでなく、保管や輸送時の外部からの衝撃で発生する故障のリスクも軽減されています。

SSDの容量は、今後、飛躍的に増加すると期待されています。その理由は、「3D NANDフラッシュメモリ技術」の実用化です。

現行のNAND型フラッシュメモリは、プレーナ(平面)型が主で、フラッシュメモリ内の配線の太さ(プロセスルール)を微細化し、SLC(シングルレベルセル)からMLC(マルチレベルセル)へと多項化し、ダイを8層程度まで積層(SDP:Single Die PackからODP:Octal Die Pack)することで、大容量化を実現してきました。現在のプロセスルールは20nm(ナノメートル)から15nmが主流です。しかし、これ以上微細化すると、性能が出にくくなったり、書き込み許容量が低下したり、読み取りエラーが発生しやすくなったりする問題が指摘されています。

この技術的な限界を超えるのが、3D NANDフラッシュメモリ技術です。これまでの平面型の回路配置であったセル上に、何層ものセルを積層(多層化)し、微細化によるパフォーマンスの低下を防ごうというものです。つまり、微細化による密度向上が信頼性の低下やエラー発生率上昇を引き起こすのを防ぐために、プロセスルールには余裕を持たせて多層化することで、書き換え耐久性や速度の向上、容量を増大させる方法です。

現在は韓国のサムスン電子が先行して32層(128Gbit)の3D NAND型フラッシュメモリを販売していますが、追って各社から48層の製品も登場すると言われています。プロセスルールに余裕がある3D NANDフラッシュメモリは、多項化(MLC,TLCなど)しても性能と信頼性を維持しやすく、来年にはSSDベンター各社から1本あたりの容量が8TBや16TBのSSDのリリースを控えており、3D NAND型フラッシュメモリを搭載したストレージが幅広い容量帯で登場すると期待されています。

SSDが割高なのは過去の話

ここまで紹介してきたように、HDDとSSDを比較すると、性能と信頼性の観点からもSSDのほうが優れていることがわかります。ただし、これまでエンタープライズ分野において、容量単価の高価なSSD搭載ストレージはそれほど普及していませんでした。しかし、SSDの微細化技術にともなう大容量化が進み、その状況は大きく変化してきています。

2015年11月時点において容量単価だけを比較すれば、HDDのほうが安価です。しかし、エンタープライズ分野でのレベル評価するのであれば、容量だけではなく性能単価にも注目すべきでしょう。

例えば、10,000IOPS(I/O per Second)をRAID10(ストライプミラー)で実現する場合、HDDは100本必要(1本あたり200IOPSとして)なのに対し、SSDなら2本のミラーリングだけで実現できます。つまり、少ない台数で十分な性能を得られるのです。さらに、消費電力を比較してみると、1ドライブ当たりのHDDの消費電力は、10~15Wです。また、ストレージ装置の場合にはストレージコントローラーや冷却ファンに必要な電力もかかります。これに対しSSDは、何万IOPSを発揮するピーク時でも10W以下で、冷却の電気代、CO2排出量なども少なく済み、設置面積も比べものにならないくらい小さくなります。TCO(総所有コスト)全体で考えれば、SSDは決して“割高”ではなく、むしろ性能単価で言えばかなり優位性があります。

複数のアナリストは、2016~2017年度中にSAS HDDとSSDの容量単価が逆転すると指摘しています。そうなれば、HDD搭載ストレージは、SSDへと置き換えられていくことになるでしょう。

では、ストレージの記憶媒体はすべてSSDに置き換えられるのでしょうか。その答えは「ノー」です。なぜなら、「SATA(Serial ATA)ディスク」などの「ニアラインディスク」があるからです。

ニアラインディスクは、性能よりも大容量、低価格であることを重視して設計され、ディスク回転数は7,200rpm以下で冗長性(コネクター)もシングルポートです(NL-SASはデュアルポート)。これらのニアラインディスクとSSDの容量単価が逆転するのは、かなり先であると予測されています。今後しばらくは、アクセス頻度の少ないデータ、バックアップやアーカイブにはニアラインディスク搭載ストレージを率先して利用し、ランダムアクセスのパフォーマンスが要求される環境ではSSDを活用するといった「記憶媒体の共存」がしばらく続くと予想されます。

HDDとSSDの性能比較。HDDと比較して容量が小さいと言われていたSSDだが、「3D NANDフラッシュメモリ技術」の実用化で飛躍的な大容量化を遂げつつある

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