AI(人工知能)が企業ITにおける一大トレンドになっている。AIによる機械学習を故障予測や異常検知に活用したり、顧客の行動を分析し新たな知見を得たりなど、幅広い業界でさまざまな取り組みが実施されている。
ただ、その一方で、AIが一種のバズワードとして広がっている面は否定できない。メディアを中心にAIの壮大な可能性が喧伝され、成果のでないまま事例として紹介されるケースも増えている。また、「PoC疲れ」といった言葉が生まれるなど、AIの導入が検証で終わってしまい、本番稼働まで漕ぎ着けられないケースも少なくない。その結果、AIに対しては「実用段階ではない」「夢物語」「言葉だけが先行している」といった印象を持つIT担当者も増えてきているようだ。
しかし、待ってほしい。実はAIが実用化され、すでに利用が進んでいる企業IT分野も確かに存在する。その1つがネットワーク運用管理の分野だ。
「地に足のついたAI活用」が進むネットワーク運用管理の世界
スキルを身につけるのが難しい、トラブルシューティングに高度な知識と経験が必要になる、……ネットワーク運用管理というと、こうした職人的な世界がイメージされるかもしれない。だが、現在はAIの技術が急速に浸透し、現場の運用管理のあり方を大きく変えつつある。
ジュニパーネットワークス Mist Solutions事業部長の鈴木 良和 氏は「少なくともネットワーク運用管理の領域においては、AIは “地に足のついたフェーズ” に入ってきている」とし、こう話す。
「スキルを持ったエンジニアが人海戦術でやっていたネットワーク運用管理を、AIが実行できる。そんな世界が実現されてきています。一例を挙げましょう。つながりにくい、途切れる、といったWi-Fiネットワークのトラブルに対応することは簡単ではないのですが、今はAIが自動的に原因を特定するところまできています。2020年段階はまだ自動修復には到達していませんが、数年のうちにこれも実現されるでしょう。ユーザーはトラブルが起こったことすら気づかず、またAIが問題を対処したことも意識せずに、普段どおりネットワークを利用できるようになるのです」(鈴木 氏)
ネットワーク運用管理の分野でAIが提供する機能は大きく4つある。「ネットワーク全体の調査」「ユーザー体感の可視化」「AIアシスタントによる対策の提示」「トラブルの原因特定と自動修復」である。
これらを実現しているのは、ジュニバーネットワークスが提供しているAIを実装したクラウド管理システム「Juniper Mist Cloud」と、対話型AIアシスタント「Marvis」だ。同ソリューションについて、ジュニパーネットワークスのコンサルティングエンジニア 林 宏修 氏はこう説明する。
「ジュニパーでは、AIを活用して企業ネットワークを自律的に運用管理していく『AIドリブンエンタープライズ』を推進しています。。ネットワーク上には機器やアプリケーションが生成する膨大なログデータ、テレメトリデータがあり、従来はこうしたデータをエンジニアが解読して運用していました。AIドリブンエンタープライズでは、その作業をAIが行うことで、これまでは難しかった可視化やトラブルシュートを可能にしています。そう遠くない未来で、自動制御まで実現できるようにしていく予定です」(林 氏)
これまでネットワークエンジニアの腕の見せ所は、社内やデータセンター内の有線ネットワークが中心だった。AIドリブンエンタープライズはそれだけでなく、Wi-Fi(無線)、WAN、ネットワークセキュリティまで対象を拡大。アプリケーションエンジニアやインフラエンジニアが担当する領域までを包括してAIの管理対象にすることをコンセプトとして掲げる。
Wi-Fiがつながらない! Zoom会議が遅延する! そんなトラブルを未然に防ぐ
AIによる管理対象をアプリケーション領域まで広げると、ネットワーク運用管理はどう変わるのか。概念的にいえば、”ネットワークの健全な動作” を管理してきた従来のネットワーク運用管理が、”健全なユーザー体験” を管理する形へと、その姿が変わる。少し伝わりづらいと思うので、以下で2つ、具体例を挙げたい。あらかじめいっておくと、これらはAIドリブンエンタープライズですでに実現できていることだ。
例1. 数百にわたる無線トラブルの根本原因を即座に特定
「無線につながらない」「つながるけど遅い」など、無線ネットワークではしばしばこうした問題が発生する。問題だけをみると “接続トラブル” の一言で表せるほどにシンプルだが、その裏側には数百にのぼる “原因の可能性” が潜んでいる。[従来]
上流の設定ミス、回線混雑、RADIUSをはじめとするサーバーの問題、ユーザーの手元にあるクライアントの問題……多岐にわたって散在する “原因の可能性” から根本原因を特定するのに、従来はサーバー担当など各方面にヒアリングをしたり、熟練のエンジニアが経験を活かしたりなどが必要だった。動き出しも、ユーザーから “体感がよくない” との連絡が来てからである。[AIドリブンエンタープライズ]
AIドリブンエンタープライズではサーバー含むネットワークの全区画の情報を集積するため、juniper Mist Cloudの画面を開くだけで根本原因の解析、追求が可能。人間では把握が難しい「ユーザー体感」も数字やグラフで可視化されるため、ユーザーが気づくよりも前に先手の対応を打つことができる。
例2. Zoom会議中にトラブル発生! AIがそれを自動検知
新型コロナウイルス感染症への対応でテレワークを導入する企業が増えている。そこで耳にするようになったのが、Zoomをはじめとするオンライン会議ツールのトラブルだ。音声途切れや映像乱れはネットワーク性能を理由に引き起こされることが多い。[従来]
当該アプリケーションは自社データセンターで稼動しているのか、クラウドで稼動しているのか、またはSaaSなのか。そこへユーザーはどのように接続しているのか。たとえSD-WANの仕組みを整備していても、対応にあたっては今述べた切り分けの後に設定作業を行う必要があった。[AIドリブンエンタープライズ]
フルスタックで情報を集積することで、Juniper Mist Cloudから当該アプリケーションのステイタス画面を開くだけで、現在のユーザー体感の度合いやこれを引き起こしている根本原因、対応策案を確認できる。管理者は提示されるガイドに沿って対応を進めるだけでよい。
管理画面からMarvisのタブを開くと、現在のネットワークの状態を表示し、どこにボトルネックがあるかをわかりやすく表示する。上の画面からもわかるように、その管理対象は、サーバー含めネットワーク全体を包括。Wi-Fiから有線LAN、WAN、セキュリティの情報を、ワンストップかつエンドツーエンドで確認できる。 |
[次ページ目次]
- AIドリブンエンタープライズで今できること
- オープンなプラットフォームであるゆえの発展性
- ジュニパーネットワークスが目指すAIドリブンエンタープライズの未来