近年、世界では経験したことのないような特異な出来事が続いています。新型コロナウイルスの蔓延、高まる世界同時不況のリスク、地政学的紛争、デジタル時代の到来によって余儀なくされるグローバル化など、未曾有の出来事が重なっていて、将来を予測することがかつてないほど難しくなっています。しかし一方で、これらの事象はまた、保険業界を含むほぼすべての分野において、破壊的なイノベーションに拍車をかけているのです。
保険業界におけるデータ活用の障壁
特に、何かと規制の多い業界は、この新しいデジタル時代の到来によって最大級の試練を強いられています。消費者の要求と期待は劇的に変化しており、企業は競争力を維持しつつも、同時にコンプライアンスも遵守するべく奮闘しています。また、消費者のリスク意識も高まっているため、安定性と安全が損なわれる世界情勢の中で、保険サービスなどの予防措置に関心が集まっています。保険業界は、このような市場ニーズの変化に対応する上で重要な役割を担っています。データを活用したイノベーションこそ、根本的に変化してしまった経済状況においても、継続的な価値を引き出す鍵になっていきます。
デジタルの世界においても、消費者は、保険会社やそのサービスを検討する際に、価格や柔軟性といった点に関心を寄せるようになっています。保険会社はすでに信頼関係を基にして、大量の消費者データを保有してはいるものの、マーケティングファネルを通して、そのデータ活用に苦戦しているのが実情です。旧来の収集、保存、活用方法では、膨大な量のデータが十分に活用されていないのです。
高い運用コスト、レガシーシステムの非効率性、そしてインシュアテック(InsureTech - テクノロジーを活用し保険業界の変革を目指す新たな産業)の台頭による画期的なイノベーションは、従来型の保険会社にとっては大きな障壁となっています。しかし、保険の変革は着実に加速しており、アジア太平洋地域では過去5年間に200億米ドルがインシュアテックに投資されています。そして保険会社も、顧客が効率的に支払いや給付を受けられるようなデジタルプラットフォームを開発し、よりデジタルに精通した顧客像を想定しつつあることは確かです。
消費者は、保険契約やサービス購入プロセスの簡素化を求めていて、より透明性とカスタマイズ性を求めています。それゆえに、保険会社は、消費者との信頼関係を強化するためにも、デジタルサービスと顧客体験(CX)を最適化することが不可欠です。日本の個人情報保護法やオーストラリアの消費者データ権(CDR)のような政策や規制も、デジタルトランスフォーメーションを追求する上でコンプライアンスを必要とする保険会社に義務を課しています。
このような市場の変化は、デジタルイノベーションに課題を提示する一方で、顧客の獲得、既存顧客との再エンゲージメント、さらには業界セグメントの再活性化などにも、新たな方法を提供します。顧客のニーズ、信頼、テクノロジーを優先させることで、イノベーションと成長の大きな機会が生まれます。そのためには、保険会社は新たな市場環境に対応したビジネスモデルを再考する必要があります。
規制は、「消費者の権利」と「企業の透明性」を向上させる
保険会社は、日本の個人情報保護法やオーストラリアのCDRなど、新しい規制やさらに進化する規制をはじめとして、アジア太平洋地域全体で複数の課題に直面しています。これらの規制は、消費者と企業との間でおこなわれるデータ共有やデータやり取りの方法を変化させています。また、そのデータ交換の文脈までをも変化させているのです。そして、市場環境の変化に伴い、消費者の行動も変化しており、デジタル化された購入プロセスへの需要が高まっています。
オーストラリアでのCDRの展開は、この国の保険業界を実験場とすることになるでしょう。同国の保険会社が、この種の規制を世界で最初に広く採用することになるためです。CDRは、人々にサービス提供会社との間で自動化された安全な方法で自分の個人情報を管理する責任を与え、同時に、自分のデータをいつ、どのように扱うかについて、より高いレベルでの制御を可能にするものです。
CDRにより、オーストラリアの経済情勢へデータポータビリティが導入されます。これは、同時に市場競争の激化をもたらすので、保険会社は飽和状態の市場で競争力を維持するために可及的速やかに行動する必要があります。さらに、プライバシー法が改正(PLA)されることで、1988年のオーストラリアのプライバシー法強化が余儀なくされ、プライバシーの基準も引き上げられ、罰則と執行メカニズムの強化につながるでしょう。PLAは大手テクノロジー企業をターゲットとする狙いがあるものの、法案の「オンラインプラットフォーム」の定義が多くの金融サービスプロバイダーにもおよぶため、大手保険会社や銀行はこれらの変更を懸念しているのです。
日本では、最近、改正個人情報保護法が施行され、データの取得、利用、第三者への提供に関する規制を強化する改正規則が盛り込まれました。個人情報保護法は今後も定期的に更新され、より多くの企業がデジタルトランスフォーメーションの過程でデータを商業化するにつれて、より厳格な管理を課されることが予想されます。また、日本の保険業界は、非接触型サービスやオンラインサービスに重点を置き、販売チャネルを多様化する必要性にも直面しています。
日本の保険会社は、ニーズに合わせた商品と変動料金制によって若い層を取り込もうとしており、消費者のプライバシーを尊重することは、新しい世代の信頼を得るために非常に重要となります。
日本の消費者の80%が、個人情報を提供することに懸念を示している
保険会社が持続的な競争優位性を築くには、現在保有しているデータの価値を引き出すことが引き続き重要です。
ファーストパーティデータを継続的に収集するためには、保険業界は消費者との信頼関係を構築しなければなりません。消費者は、保険購入のプロセスが簡素化され、カスタマイズされるのであれば、それと引き換えに、自分のデータを共有するという概念に決して嫌悪感を抱いているわけではありません。しかし、この取引に快く同意するために、消費者は自分のデータがどのように使用、保存および保護されているかという点で、より高い透明性を求めているのです。
テクノロジーを活用し、保険会社がプライバシーを最優先としたアプローチで顧客体験の刷新を図ることができれば、このような課題を機会に変えることができるのです。
プライバシーを強化する技術への投資が増えているものの、企業も消費者も、データプライバシーのリスクが常に存在することは認識しています。実に日本の消費者の80%(※1)が、個人情報を提供することに懸念を示しています。オーストラリアでは、83%の消費者(※2)が企業がどのようにデータを利用するかについて明示することを望んでおり、データ収集行為全体について86%がより透明性を高めることを望んでいます(※3)。
ニュージーランドの顧客(※4)は、信頼とロイヤルティを築くための主要な方法は、顧客のニーズを最優先にすることであると述べています。ビジネスの観点からは、シンガポールでは組織の46%(※5)が、信頼の向上は収益性の向上、市場シェアの拡大(36%)、ブランド力の強化(34%)につながると考えています。
また、シンガポールの企業の10社に8社は、サイバーリスク対策において信頼こそを第一に考えていると回答しています。保険会社が信頼を優先させることで、結果として顧客との関係が長続きする可能性が高くなります。
消費者の信頼強化に努めることで、保険会社はファーストパーティデータの取得を促進し、自社のサービスを利用する市場の潜在顧客についてより深い知見を得ることができるようになるでしょう。プライバシー優先でパーソナライされたCXは、今や世界標準と言えるでしょう。
保険会社は、個人情報の管理において透明性と信頼への責任を示すことで、顧客を獲得し、顧客との関係を改善できるはずです。
テクノロジーを活用して時代の最先端をいく
デジタルのグローバル化が進み、データプライバシー規制が強化される中、保険会社にとって唯一の現実的な選択肢は、変革を受け入れることです。信頼できるプラットフォームのセキュリティに支えられた、デジタルを駆使したCXを提供することで、競争力を高めることができます。しかし、簡単に導入できる適切なテクノロジーを選択すること自体が課題でもあるのですが、カスタマーデータプラットフォーム(CDP)は現実的な解決策を提供します。
CDPは、他のシステムからアクセス可能な一元化された顧客データベースを構築します。データを複数のソースから収集し、クリーニングと統合の後、オーディエンスのセグメンテーションとプロファイルを作成し、充実した内容のシングルカスタマービュー(360°ビュー)を生成できます。この構造化されたデータを、広範なマーケティングシステムに取り込んで、信頼性の高いカスタマービューを全社的に共有することができます。パーソナライズされたCXの提供を大規模に自動化するCDPは、現代のマーケターのテクノロジーツールキットとして不可欠なものとなっています。保険業界にとって、CDPは2つの主要な目的を果たす実現手段です。第一に、CDPはプライバーを遵守した上でデータの価値を引き出します。CDPを利用することで、保険会社は、消費者が保険加入に関心を示した瞬間に、パーソナライズされたエンゲージメントを提供することができます。第二に、CDPのAIを活用した機能により、これまで時間がかかっていた手動プロセスを自動化し、CXのイノベーションを促進できます。プライバシーを優先した拡張性のあるCXイノベーションの最終的な成果は、顧客ロイヤルティと生涯価値の向上であり、市場をリードすることを可能にする2つの中心的原動力となります。
Tealiumとnib: 保険の顧客体験を革新
保険業界において、テクノロジーは実現者であると同時に破壊者でもあります。従来の保険会社では、データの統合されたビューが欠けているため、顧客獲得戦略の自動化、パーソナライズ、拡張に制限が生じています。
オーストラリアの大手医療保険会社、nibはTealiumのCDPを使用してこの問題を解決しています。複数のオンラインとオフラインのソースからデータを収集・統合することで顧客の懸念に対処しました。Tealium AudienceStream CDPによるデータ統合で、nibはインサイトを他のデータ管理製品と統合し、パーソナライゼーションを改善することができました。また、Tealiumは、nibのアイデンティティとカスタマージャーニーに360°のリアルタイムなカスタマービューを組み込むこともできました。これにより、コールセンターとサポートチームは、統合されたメンバーデータ技術によって特定の顧客要求に対応できるようになりました。
保険会社にとって、適切なテクノロジーを採用するだけでなく、CDPの潜在能力を最大限に引き出すために、将来に備えた組織構造が重要なのです。CDPは、組織全体のチームがビジネス目標を達成するための比類ない手段となり得ます。nibの場合、データのセンターオブエクセレンスを立ち上げました。そして、異なる事業部門から専門家を集め、必要な人がデータに容易にアクセスできるようにしたのです。CDPの利用は、データ、マーケティング、IT、製品など特定の部門が主導する場合もありますが、このツールによる長期的な価値創造を最大化するには、部門横断的な賛同者を確保することが重要です。大企業や中堅企業では、CDPの中核となるチームがさまざまな事業部門の利害関係者で構成され、積極的なコミュニケーションを図り、目的、経験、および結果を共有し、相互の成功に向けた確固たる基盤を築くことが極めて重要です。そして、このような協力的なアプローチは、業務効率の向上という形で還元されることになります。
適切なテクノロジー、インフラストラクチャー、人材を揃えれば、保険会社はCDPを利用して、顧客と1対1のレベルで信頼関係を築くことができます。さらに、CDPはリアルタイムのオムニチャネルパーソナライゼーションを活性化し、保険会社の価値提案を競合他社と差別化することができます。例えば、保険会社はCDPを活用して、予防医療分野で疾病を未然に防ぐためのパッケージや、各顧客の固有のプロファイルに応じた動的な価格設定など、商品とサービスの提供を最適化することができます。
信頼と価値に基づく競争力
テクノロジーを活用して信頼を築くことは、保険業界にとって最も差し迫った課題のいくつかを解決するのに役立ちます。これらの課題の中には、リソースと人材の不足があり、これは事業運営の最も重要な側面の1つであるプロジェクトの納期にも影響を与えます。
業務遂行やクレーム処理の遅れ、コールセンターの対応の遅さ、そしてそれがサービス提供に及ぼすドミノ効果は、もはや顧客にとって受け入れられるものではありません。消費者に多くの選択肢がある市場において、不満や満足度の低下を招くようなことは、ブランドの崩壊につながります。また、リアルに人を配置する顧客接点は、企業にとってよりコストがかかることとなりつつ、クレーム処理と顧客満足度の維持の両方に遅れをもたらすという事実もあります。その結果、顧客維持に支障をきたし、アップセルの可能性も制限されるため、必ず収益に影響を与えることになるでしょう。
保険会社がリアルタイムに適切なサービスを提供するためには、データのサイロ化を解消し、顧客のニーズを読み解く必要があります。そこで、CDPのようなテクノロジーソリューションが、データを統合し、顧客との軋轢を最小限に抑え、高度にパーソナライズされたカスタマージャーニーを創出するために必要な情報を提供するのです。
保険会社がひしめく市場で突出した存在となるためには、変化の潮流に乗り、同意に基づいたデータの機会を利用すべきです。これは、CDPを導入して顧客に対するインサイトを得た上で、そのインサイトを活用し、顧客一人ひとりに真に価値のある体験やサービスを提供することで実現できます。保険会社は、CDPと社内の利害関係者の共通理解を組み合わせることで、将来への備えを強化し、人々を手助けするために存在するブランドとしての地位を向上させることができるのです。競合他社と差別化するためには、保険会社は顧客が「個客」として認識されていると感じられるようにし、保険購入の過程でストレスや非効率性をなくす必要があります。
CDPで価値を引き出し業績を向上
CDPはあらゆる顧客接点で顧客の期待に応え、それを超えるために、マーケティングテクノロジー能力を増強し、真にパーソナライズされた体験を提供します。
1.ビジネスの整合性を図る
どのようなビジネス変革もトップから始まります。データ駆動型組織への転換は、経営陣の影響力にかかっています。データファースト、安全性、プライバシーを重視した企業への変革において、経営陣の賛同と理解の一致は不可欠です。
3.技術要件と経営目標のすり合わせ
データのデジタル化と統合、請求処理時間の短縮、顧客獲得と維持の向上など、明確な事業目標と最適な内部組織構造を持つことで、保険会社は計画と実行に適したツールを特定することができます。
2.事業目標とKPIを明確に定義
現在運用しているテクノロジースタックを評価し、プライバシーとガバナンスを考慮した上で、CDPがどのようにビジネス目標をより効率的に達成するのに役立つかを評価します。 CDPは、データを統合し、顧客との軋轢を最小限に抑え、高度にパーソナライズされたカスタマージャーニーを創出するために必要な情報を提供するのに役立つ。
4.データを統一されたビューにまとめる
人々の生活が変化するにつれて、保険のニーズも変化します。顧客とそのライフステージについて知れば知るほど、ニーズを予測し、適切なタイミングで適切な商品を提示して、顧客生涯価値を容易に高められるようになります。
5.データを活用し、進化する顧客ニーズに沿ったサービスを一貫して提供
人々の生活が変化するにつれて、保険のニーズも変化します。顧客とそのライフステージについて知れば知るほど、ニーズを予測し、適切なタイミングで適切な商品を提示して、顧客生涯価値を容易に高められるようになります。
テクノロジーの進化によってユニークなイノベーションの機会がもたらされています。ゆえに、保険会社にとっても、新しいデジタル時代への準備は達成可能です。CDPを活用したデータアーキテクチャにより、保険会社は、世界的な混乱の次の波の真っ只中においても、消費者に最高のサービスを提供するためのインサイトを特定し、それを活用することができます。今こそ、最も重要な瞬間にある消費者のニーズに応えるために、保険のCXを革新 し、その価値を高めるべき時です。そして、デジタルグローバリゼーションの中で競争力を維持するべく、従来の保険会社から、将来を見据えた企業へと変貌を遂げましょう。
※1参考:令和2年版 情報通信白書 第3章第3節「パーソナルデータ活用の今後」(総務省)
※2参考:「Adobe survey reveals link between brand trust and consumer buy-in」(Techday Australia)
※3参考:COVID-19: Impacts on the New Zealand Insurance Environment(Deloitte)
※4参考:「KPMG’S 2022 Cyber Trust Insight」(KPMG Singapore)
※本記事はTealium Japan株式会社から提供を受けております。著作権は同社に帰属します。
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