みなさんは、美容室グループ「Agu.」をご存じだろうか。「美しい生き方をデザインする」をブランドビジョンに掲げ、2020年1月末時点で47都道府県に434店舗を構えている。その規模は、およそ3日に1店舗というハイペースで拡大しており、創業からわずか10年で国内最大級の店舗数・ブランドを築くまでに成長している。
そんな飛ぶ鳥を落とす勢いのAgu.グループを展開しているのが、AB&Companyだ。同社では、急成長にともなうインフラ整備やセキュリティ強化に課題をかかえつつも、低賃金・長時間労働が指摘されるこの業界において「スタイリストファースト」を掲げ、スタイリストが柔軟に働ける環境づくりに注力。
こうした課題に「ひとりだけの情シス」として立ち向かった、AB&Company 取締役 CSO 事業戦略本部長の江木壮太郎氏は、いかにして解決の糸口を見つけていったのだろうか。
まったくの素人からスタート
江木氏にとって、情シスの仕事はまったく予想外のことだったという。
江木氏がAB&Companyに入社したのは2019年のこと。過去に米国の大学を卒業し、海外企業や大手IT企業で実績を積んできた同氏は、「海外事業展開に専念すること」が自分のミッションだと考えていた。しかし、グループ経営における優先課題を整理した結果、「ひとりだけの情シス」として始動することになる。
「私はシステムエンジニアではなかったので、当時はかなり心細かったです。確かに、IT業界目線で既存店舗におけるセキュリティの課題は感じていましたが、専門家として会社のセキュリティを守るとなるとまったく別物です。ほとんど素人の私が、本質的にAgu.グループに必要なセキュリティとは何かを学ぶところからスタートしたのです」(江木氏)
まずはセキュリティコンサルタントに本部オフィスと店舗の状態を把握してもらい、業務の棚卸しをして、必要なこととそうでないことを洗い出した。
しかし、実行フェーズの一歩目で、早くも難問にぶつかることとなる。「Agu.グループ」は関係する法人が非常に多い。本部とフランチャイジー各社と店舗、そして子会社の情報インフラ、これらを一元的に管理し、セキュリティを強化する必要性があったのだ。
最も包括的で、最も効率的な情報インフラ整備を
こうした難問に直面した江木氏に対し、「Microsoft 365」の導入と、「業務PCのレンタル」という最も現実的な提案をしたのはソフトクリエイトだった。
江木氏は「ソフトクリエイトは『ひとりだけの情シス』との付き合いにとても慣れている会社だと思いました。ほどよいフィット感で、二人三脚で進んでいきましょうという姿勢が頼もしかったです」と当時を振り返る。
Microsoft 365は、「Windows 10」と「Office 365、Enterprise Mobility+Security(EMS)」を丸ごとセットにしたクラウドサービスだ。業務で使うアプリケーションに加えて、包括的なセキュリティ機能を導入することができる。
美容室を新たに開店する際は、事前にソフトクリエイトで設定されたノートPCが店舗に届く。起動すればすぐに利用可能な状態で納品されるのだ。
「店舗ではPCのヘビーユースはしません。ブラウザベースでの予約管理や本部への売上報告が主な使い道です。そのため、コストパフォーマンスを優先しつつ、画面が大きくて使いやすい端末を選んでいます。ハイペースで出店を続けていますから、業務端末のキッティングを肩代わりしてもらってとても助かります」(江木氏)
店舗側に複雑な操作設定を要求しない、ということも情報インフラ整備における重要なポイントの1つだった。
「スタイリストに要求されているのは、技術とコミュニケーションによって、お客様のためにパフォーマンスを発揮することです。ネットワークやシステムのことまで、オフィスで働く本部スタッフと同じように理解してもらおうとするのは無理な注文でしょう。そういうことを気にせずにいても、自然とセキュリティが高まっている。そんな環境を目指しました」(江木氏)
仕事で複数のクラウドサービスを使うときも、「Azure AD」を介せばシングルサインオンですむ。ノートPCを店舗外に持ち出して使うこともあるが、「Microsoft Intune」を使えば、万が一端末を紛失した場合でも遠隔でデータを削除することができる。また、本部と店舗は地域も出社時間もバラバラだが、「Microsoft Teams」によって、スマホからでも密なコミュニケーションが可能となる。
江木氏が「ひとりだけの情シス」を始めて1年足らずで、グループ全体の情報インフラの整備とセキュリティの強化が実現したのだ。
エンジニアにとってAB&Companyの魅力とは
江木氏にとって待望のエンジニアがチームに加わったのは、2019年12月のことだ。
AB&Company 情報戦略部 マネージャーの大関努氏は、これまで化粧品メーカーや小売のバックグラウンドで、システム構築や保守に携わってきた。なぜ転職先にAB&Companyを選んだのだろうか?
「これだけ新しくて勢いがある会社は珍しく、それで関心を持ちました。エンジニアとしてすごく良いと思うのは、江木とソフトクリエイトがクラウドネイティブで情報インフラを開拓してきたおかげで、レガシーな仕組みがまったく無いところです。普通、そんな会社はよっぽどのベンチャーでもない限りありません。古い技術に付き合わされることほど、うんざりすることはありませんから」(大関氏)
オンプレミスで稼働していたサーバーのトラブルで、深夜に呼び出された経験を思い出し、大関氏は苦笑いをする。
美容業界はITに対して、どちらかと言えば保守的な傾向があるが、Agu.グループはシステムを否定しないと江木氏は次のように語る。
「ITは魔法の杖ではなく、導入の手間やコストがかかりますし、運用も決して楽ではありません。重要なことは『業務効率化や事業拡大のためには何が一番肝心なのか』を見極める事です。中期目標として国内1,000店舗を目指す上で、どんなシステムが必要なのかを検討しつつ、必要であれば自社での開発もしていきたいと考えています」
この1年間で、システムに関する会話が他の社員からも頻出するようになったそうだ。江木氏の奮闘は、社内全体の情報システム部門への理解度を底上げする効果ももたらした。
そして戦略部門としての情シスへ
基本的な情報インフラを整え、チームとなったAB&Companyの情シスは、今後、より戦略的な施策に取り組む予定だ。
大関氏はMicrosoft 365の設定を最適化しつつ、さらに業務効率化に取り組んでいきたいと次のように語る。
「いまは『美容室の働き方に適したシステム』へとMicrosoft 365をチューニングしているところですが、今後は、紙運用をしてしまっている部分などをデジタルに移管したり、メールのやり取りではないワークフローの仕組みを整備していきたいと考えています。また、業務端末としてタブレットを各店舗に導入し、グループ内の情報共有だけでなく、顧客へ情報を提供していくような仕掛けもつくりたいと思っています。まだ構想段階ですが、ゼロトラストネットワークの実現など、情シスとして力を発揮できることがここには無数にあります」
さらに江木氏は「リアル店舗を持っている強み」を活かした情報戦略を練り上げていきたいと次のように語る。
「一般に『オンラインの方がオフラインに比べて良いことだ』と思われがちですが、必ずしもそうではありません。私がIT企業にいたときに喉から手が出るほどほしかったオフラインの行動・消費データが、フィジカルの店舗ならば容易にリーチすることができるのです。また、IT化が急速に進む現在だからこそ、リアル店舗の空間価値が高まっていると考えます。Agu.グループは北海道から沖縄まで店舗を持っていますから、この強みを活かし、オムニチャネルでの面白い取り組みを打ち出していきたいと考えています」
美容業界の抱える問題を根幹から改善することを目指して、AB&Companyは生まれた。そして、まったく新しい価格と働き方と経営体制という仕組みによって、国内最大級の美容室グループとなった。そんな同社で、少数精鋭の情シスもまた、インパクトの大きい「新たな仕組みづくり」を成し遂げていくだろう。
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