一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会(以下、当協会)の顧問理事の寺田学です。 私は試験の問題策定とコミュニティ連携を行う立場です。 前回はデータ分析の学習のコツやツールに関係するお話をしました。 今回は、これまで何回か話題にあげたコミュニティについてお話ししたいと思います。

一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会 顧問理事 寺田学氏

著者:寺田学
一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会 顧問理事

コミュニティで得られるのは友人と情報とモチベーション

コミュニティに参加すると、同じ志を持つ友人を得られることはもちろん、良い勉強方法などの情報を共有し合えたり、一緒に学習することでモチベーションアップになったりという利点があります。 実際、私も自身が主宰する以外のコミュニティに参加することがありますが、そこで学べることは多く、友人関係も広がるので情報交換がしやすくなり、学ぶモチベーションのアップにもつながったと感じています。

また、コミュニティの存在はそれだけでなく、ソフトウエアやパッケージなどのプロダクトの発展につながることもありますし、それらを広く伝えるきっかけにもなります。

よく「コミュニティは怖いし初心者は参加しにくい」という声を聞きますが、実際はそんなに怖いところではありません。 コミュニティには職人気質の人が多く所属していて、彼らの正確にモノを伝えようとする姿勢が怖いと感じる要因になっていることがあります。時には強く言い合っていることがありますが、それは昔馴染みだからであって、初めて来た人にキツイことをいう人はめったにいません。基本的に本質は優しく、丁寧できちんとしている人が多いので、怖がらずに参加してみてほしいなと思っています。

コミュニティではどんなことをしているか

たいていのプログラム言語にコミュニティがあるように、Pythonにもコミュニティは新旧大小存在し、Python全般から、Djangoやデータサイエンスのような特定のツールや分野を取り扱うものまでさまざまです。 運営は個人がしているものから、企業が先導しているもの、アーリーアダプターがしているものがあります。行っている内容も異なりますが、大体3つのタイプに分けることができます。

・講演会タイプ
誰かが発表するのを聞くのがメインで、終了後にはライトニングトークや懇親会が行われることがある
・もくもく会(勉強会)タイプ
集まって手を動かしながら学習することが多く、一緒に何かを作ることもある
・ハッカソンタイプ
短期集中的に皆でお題を立てて何かを開発する

このすべてを行っているコミュニティもあれば、どれかひとつだけのコミュニティもあります。 私も運営に関わっているコミュニティのひとつ、PyCon JPではすべてを行っています。

コミュニティの選び方

コミュニティによってやっていることにも違いがあるので、自身に合うところを見つけるには、結局のところ行ってみるのが一番です。 また、コミュニティが持つ歴史についてはさほど気にする必要はありません。できあがりすぎていると入りにくい可能性もあれば、逆に歴史がある分、新しい人を受け入れる体制ができている可能性もありますので、興味がわいたところにまずは飛び込んでから考えてみましょう。 それでもどう選ぶか悩むのなら次のような視点で探してみてください。

・居住地や趣味など、参加している人たちに共通点があるものを選ぶ

同じ地域に住んでいるからこそ、同じ考え方や課題を持っている可能性が高いですし、近いからこそ仲良くなりやすく、共に学ぶ相手が近隣にいることでモチベーションにつながる可能性があります。

・あえて普段かかわることのない人が多そうなところを選ぶ

同じ地域に同じ興味や趣味を持つ人がいないということも十分にありえます。そうした時は、あえて遠方のコミュニティに参加するのもいいと思います。いまはオンライン時代なので、飛び込みやすいはずです。普段なら出会えない人に出会える可能性が高くなります。

・使用しているツールや、IT全般、IoT、データ分析などのテーマで絞る

例えばDjangoのようなツールであれば、国内はもちろん世界中にコミュニティがありますが、使っているツールによっては国内にコミュニティがないことがあります。そうした場合は海外で探してみましょう。 海外の場合、認知してもらうのは特に大変ですが、認知された後には開発やメンテナンスをしてみないかと誘われることもあり、世界が広がるチャンスになります。

それでも見つからないのであれば、やりたいことで絞りましょう。

コミュニティとの付き合い方

コミュニティで自分の居場所を得られるようになると、入ってくる情報量やできることが増えますし、新しい発見を得ることもあります。質問もしやすくなりますが、逆に頼られることもあります。

ただ、居場所を作れるようになるまで時間がかかることがあります。 9割が常連ということがよくあり、参加したての頃は独りぼっちなことも多くなりますし、何を言っているのかわからないこともあります。 コミュニティでのアピールや仲良くなるには次のような方法もありますので、参考にしてみてください。

<仲良くなる方法>
(1)仲良くなりやすいハッカソンタイプやもくもく会タイプに参加する
(2)寂しくないように友人と参加する(すでに参加している人に紹介してもらう)
(3)コミュニティのイベントに積極的に参加してみる(イベントスタッフなど)

(3)の運営スタッフはたいていの場合が無報酬ですし、大変なことも多々ありますが、イベントを運営する以上、スタッフ間の連携は必要不可欠なため、相手の人となりを知り、仲良くなる大きなチャンスです。

どんなコミュニティでも飛び込んでみないと分かりません。失敗することも当然ありますので、強い意志をもって参加することが肝要です。 飛び込んでみても「つまらなくて時間の無駄だった」と思うこともあるかもしれませんが、それもひとつの学びですし、手をこまねいて何もしないよりはいいと思います。まずは参加してみて、ダメだと思えば次に行き、合うなと思えばそこで仲間を作りましょう。

コミュニティを主宰したい人へ

コミュニティはその度合いが行き過ぎてもつまらなくなりますので、さじ加減が難しい場面があります。 私が運営しているコミュニティは比較的自由な形で運営していますが、新しい人、ひとりで参加する人でも馴染みやすくなるような配慮や、トラブルが起きにくい環境づくりを心がけています。

個人的に多様なコミュニティがあったらいいと思っていますので、新たなコミュニティはもちろん、新しい手法を取り入れたコミュニティの誕生を歓迎しています。 特に最近は、若い人たちにとってコミュニティという形があまり馴染まなくなっているように思うことがあります。コミュニティが合わないという人たちが馴染める場所があればいいとも思っています。

もし自分でコミュニティを設立・運営してみたいと考えているなら、協力したいと思っています(例えば、イベントでの紹介や講師派遣、相談など)。 いろいろな挑戦をして、仕事とは違うところでの経験をどんどん積んでいってください。

業界全体の発展に貢献するためのオープンドキュメントプロジェクト始動

ここまでコミュニティの話をしてきましたが、初学者が学習しやすくなる手段のひとつとして、当協会が取り組みはじめたPythonオープンドキュメントプロジェクトもご紹介しておきたいと思います。

このプロジェクトを始めたきっかけは、初学者へ教える際の教材作成です。 初学者へ教える際、まずは環境のインストールとセットアップから始め、1+1などの簡単な計算用のプログラムを書いて、動作の確認をし……と、大体のお決まりのパターンがありますが、Pythonは毎年バージョンアップされるため、半年も経てば古い情報になってしまいます。 確かに公開されているドキュメントはありますが、その再利用が許されているのは学術利用がほとんどで、企業研修や学校教育、書籍で使用することは許可されていないことがほとんどです。

そのため、教材に使用する画像はほぼ毎回一から作らなくてはなりませんが、私の場合、普段使用しているのがmacOSやLinuxのため、Windowsでわざわざ環境を用意しなくてはならず、結構な手間がかかります。 そこで、画像付きでPythonのインストール方法や文法の基礎をまとめた最新のドキュメントを、誰もが自由に利用できるようにしておけば、私自身も助かりますし、協会としても業界貢献になると考え、実現させました。 企業研修や大学、高校の授業での使用はもちろんのこと、コピーライトをつけていただければ書籍でもお使いいただけるようになっています。ぜひご活用ください。公開は2021年10月を目指しています。

さいごに

よく素人であることやPythonをほとんど使っていないことを謝られることがありますが、個人的にコミュニティへの愛はあっても、Python自体に愛があるわけではなく、あくまで何かを便利にするために使うツールでしかありません。Pythonより簡単な方法があるのであれば普通にそちらを使用しますし、それでいいと思っています。 そのためコミュニティの参加者に対して経験やPython愛を問うことはありませんし、何かを知りたいと思ってきてくれているだけで十分です。 コミュニティでつながりを持てるようになれば、深く学習できるようになりますし、イベントに誘い合ったり、気の合う者同士で新しい分野のイベントに行ったりすることもできますので、ぜひ躊躇せずに飛び込んでもらいたいと思っています。

私が運営に関わっているコミュニティを二つご紹介しておきます。初心者だからと引け目に感じず、ちょっと勉強してみたい、勉強する機会が欲しい、情報が欲しいと思ったなら、ぜひ飛び込んでみてくださいね。

●PyCon JP

業界としては一番大きな1,000人規模のコミュニティです。広く多くの人に来てもらい、いろいろな人が楽しめる会であるようにと考えて運営しています。 イベントでは講演会、チュートリアル、発表会がありますが、もくもく会スプリントを行うこともあります。特に講演会は準備もいらないので比較的ハードルが低く、参加しやすいと思います。何か作りたいものがあるなど目的があるなら、チュートリアルに参加してもいいと思います。

●Python mini Hack-a-thon

主宰者3人が集まって各自好きなように開発できる場として作ったもので、ほかに興味のある人も来たらいいよねという感覚でスタートしました。 質問があればできるだけ丁寧に説明するようにしているものの、ある意味、主宰者のわがままでできたコミュニティでもあるのでどこまでも丁寧にというのは難しく、来たばかりの人には怖いと言われることもありますが、各々が自由に学習できる環境です。

当協会の最新情報は公式サイトか、公式Facebookページでご覧いただけます。FacebookページではPythonに関連したニュースもお知らせしていますので、ぜひフォローしてみてください。また、YouTubeチャンネル「Pythonエンジニア認定試験」では、私が試験概要や学習のコツをお話ししたものや、合格した方のコメント動画を公開しています。こちらもぜひご覧ください。

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