1639 (寛永16) 年に西本願寺境内に設けられた教育施設「学寮」を起源とする龍谷大学は、380 年もの長い伝統を持った、"日本で一番長く教育・研究活動を行なっている大学" です。伝統という言葉から、ともすると龍谷大学を古めかしい大学とイメージする方がいるかもしれません。ですが、時代時代で発生してきた社会の変化と対峙し、先進性を持った試みにより絶えず伝統を刷新してきたからこそ、龍谷大学の教育は "今なお残る伝統" として存在しているのです。
380 年もの伝統に示される龍谷大学の先進性は、ICT の取り組みにも表れています。龍谷大学は 2017 年より、"クラウド活用" を軸とした情報プラットフォームの刷新に着手。 2018 年までに学内ネットワークを再構築することで学内のどこからでもセキュアにシステムへアクセスできる環境を整備し、2019 年からは、今述べた環境を有効活用するための仕組みづくりを推進しています。Office 365 と Windows 10 デバイス、Microsoft Azure を活用した新たな業務環境は、その高い利便性からわずか 1 か月で職員の利用が浸透し、職員から教員、教員から学生へと、これを活用するユーザーも拡がりをみせています。
社会の変化をただ眺めていてはならない
龍谷大学は 2017 年度、ICT の在り方を従来の学内に閉じたものからオープン化していくための、大きな一歩を踏み出しました。これは社会の変化を見定めた、同学の伝統の刷新に他なりません。
龍谷大学 情報メディアセンター長の本多 滝夫 氏は、「本学は京都の大宮キャンパスと深草キャンパス、滋賀の瀬田キャンパスと、大きく 3 つキャンパスを構えています。従来は各キャンパスで情報機器を設置し、別々に管理していました。」と、これまでの ICT の在り方について言及。2017 年の取り組み以降でこれをどのように変えていったのか、龍谷大学 情報メディアセンター事務部の丹羽 奈緒子 氏とともに説明します。
「社会のクラウド化に伴い、一般企業の ICT の在り方が、閉鎖的だった従来形式から外部との接続を前提としたものへと変化してきています。政府機関や自治体なども同じ動きを見せ始めていますから、我々も教育機関として、ここに取り残されてはいけません。しかし、外部と接続するということは、攻撃者からの脅威が増す、ということとなります。また、システムやネットワークを強化しなければ、例え外部から利用はできても使いづらい環境となってしまうでしょう。セキュリティと利便性の両軸から "外部接続に備えた準備" を進めるべく、2017 年度、まずは各キャンパスに散在していた ネットワーク機器をデータ センターへ集約しました」(本多 氏)
「取り組みにあたっては、機器を集約するだけでなく、システムとネットワーク帯域の増強も実施しました。将来的に利便性の高いサービスを提供するためのインフラを整備すること、そして、脅威に対応するための管理体制の強化が、大きな狙いとなります。翌年には各キャンパスにある無線アクセス ポイントの数をおよそ 3 倍に増設したため、2018 年度までで先ほど述べたインフラ整備はおおよそ整った形となりました」(丹羽 氏)
Office 365 ならば、業務改善で掲げる多くのテーマに対応できる
インフラ整備を経た 2019 年度、龍谷大学は、"活用" のフェーズとして ICT サービスの刷新・強化に乗り出します。同学がまず焦点に定めたのは、職員が利用する業務・コミュニケーション環境の改善でした。
龍谷大学では従来、全職員に対してデスクトップ型の PC を配備し、事務系ネットワークへ有線接続する場合にのみオンプレミス環境下の情報系システム、事務系システムへアクセスできる形式を採ってきました。2019 年度の取り組みでは、総合職型の職員全ての業務 PC が Windows 10 搭載のモバイル PC へ刷新され、そこで利用する情報系システムについてもクラウド サービスの Office 365 へと統一されています。
龍谷大学 情報メディアセンター事務部 部長の屋山 新 氏は、"教育を提供する側" で ICT を利用するユーザーは、教員と職員の 2 つのカテゴリーがあると言及。職員に向けた取り組みから先に着手した理由として、「先生方は必ずしも大きな変化を求めないこともあり、変化の理由を確固たる根拠と併せて提示しなければ、たとえ ICT の環境を変えても活用が拡がりません。まずは職員の環境を変えて業務上にある課題を解消する。そしてここでの結果を根拠にして、教員側の環境変化にも取り組んでいくことを考えました。」と語りました。
続けて、龍谷大学 情報メディアセンター事務部・ 業務改善推進室 次長の中川 昭文 氏は、業務変革の核を担う Office 365 の選定理由についてこのように説明します。
「業務改善を進めるにあたって、情報メディアセンターと 2018 年に新設した業務改善推進室との連携を密にし、積極的な推進体制を整えました。業務改善推進室の下にプロジェクトを設置し『コミュニケーション』『文書共有』『ペーパーレス会議』『WEB 会議』など 複数のテーマを定めました。その後に各テーマをどのように変革していくか検討していったのですが、Office 365 によってこれらのテーマの多くがクリアできると考えました。例えば、Microsoft Teams (以下、Teams) を学内コミュニケーションの軸にすれば先の『コミュニケーション』『WEB 会議』を円滑化できますし、Teams をSharePoint Online や OneDrive と連携させることで文書共有やペーパーレス化を進めることもできます。特に大きな成果が出たのは、管理職の会議がペーパーレス化されたことと、その結果、会議時間の大幅な短縮につながった事です。Office 365 の恩恵を最大限受け、大きな業務改善を達成できたのです」(中川 氏)
マイクロソフトのクラウド サービスで、多方面のセキュリティ水準を担保
文書データや日々のコミュニケーション ログをやり取りする以上、Office 365 上では、教職員のみならず学生個人に関わる情報も取り扱うこととなります。「以前まではこうした情報を学外に置くという考えには抵抗があった。」こう本多 氏は述べますが、2018 年に発生したある出来事をきっかけに、クラウド サービスの実用性を強く感じるようになったと話します。
「2018 年は、大阪府北部地震や台風第 21 号など大きな災害に見舞われた 1 年でした。このとき痛感したことは、学内で情報を管理することは、ICT サービスの安定提供、セキュアな運用と必ずしもイコールにならないということです。災害で管理者が出勤できなくなれば学内にシステムがあったとしてもサービスは止まってしまうし、物理ハードウェアの破損によってシステムにある情報が失われる危険性もあります。また、学内、クラウド サービスのどちらも、外部から攻撃を受ける可能性はあります。データの所在どうこうではなく、いかに堅牢なプラットフォームを用意するか、運用体制を整備するかが重要なのだと気付きました」(本多 氏)
この言葉を紡ぐように屋山 氏と丹羽 氏は、マイクロソフトの各種サービスは、今挙がった堅牢性を確保する上で有用だったと言及。詳細についてこのように語ります。
「Office 365 の提供基盤であるデータセンターは、マイクロソフトという世界有数の技術者が集う企業が管理しています。運用体制の強固さについては申し分がありません。また西日本と東日本に国内データセンターを構えていることを明示しているため、我々の持つ情報のありかが分かるという安心感もありました」(屋山 氏)
「マイクロソフトのサービスを利用することで、エンドポイントや取り扱うデータなど多方面のセキュリティ水準が高められる点もポイントでした。今回の取り組みでは Windows 10 の業務 PC を職員に配備した他、BYOD (Bring Your Own Device) で職員の個人端末でも Office 365 へアクセスできるようにしました。業務 PC は生体認証の Windows Hello でサインインする仕組みを採っているため、第三者に PC が利用されることはありません。BYOD の場合は通常の ID/Password でのサインインとなりますが、Azure Active Directory による多要素認証を整備していますから、こちらもセキュリティを担保できます。これからの導入になりますが、Azure Information Protection によってデータ保護の仕組みを実装することも可能なため、セキュアなサービス運用が可能だと考えています」(丹羽 氏)
わずか 1 か月あまりで、職員の活用が浸透
龍谷大学は職員が利用する全業務 PC のリプレースとシステム構築を進め、2019 年 10 月より Office 365 の利用をスタートしました。この取材を行った同年 11 月時点では、まだスタートから 2 か月も経過していません。
ですが、龍谷大学 情報メディアセンター事務部の瀧下 昌学 氏は、驚くほどのスピードで新たな情報系システムの活用が拡がっているとし、次のように述べます。
「開始からまだ間もないながら、会議時に PC を所持しない人の方が珍しいくらいに、Office 365 や新たな業務 PC は職員内に浸透しました。Teams には 10 月 1 日のリリース以降、"キャンパスを跨った遠隔会議をしたい" といった前向きな相談が日々ユーザーから寄せられています。従来環境に対して少なからず課題意識を持っていたユーザーが多かったのでしょう。Office 365 の備える高い利便性が今述べた課題意識を刺激したこと、"このツールなら業務を変えられる" とユーザー自身が感じてくれたことが、浸透へと結びついていると考えています」(瀧下 氏)
Office 365 の備える利便性も 1 つの要因ですが、スムーズに活用が拡がったのはそれだけが理由ではありません。中川 氏は、活用を促すためにリリースにあたっては様々な工夫を凝らしたと言及し、幾つかの例を交えて説明します。
「これまでは自席での作業が当たり前でした。PC を持ち運ぶことに対して "本当に大丈夫なの?" と不安に思う方もいるため、マイクロソフトのサービスを利用しているからセキュアなのだと、安心して利用して良いのだと提示した上で環境をリリースしています。また、活用の拡げ役を担うアンバサダーを職員の中から選定し、管理職とアンバサダーについてはリリース前から密に活用方法を指南しました。組織内で影響力のある職員が率先して "新しい在り方" で業務を行うことで、それをみた職員に "使わないことは時代遅れなんだ" と思ってもらえるよう働きかけたのです。Teams のチャットのメッセージ件数を活用の 1 つの指標にしていますが、この 1 か月あまりで着実に件数が増えてきています」(中川 氏)
Office 365 の活用に弾みをつけるために、リリース時にはマイクロソフトの方に京都までお越しいただき、職員向けの説明会を開催しました。サービスが優れるだけでなく、こうした "活用を支援するサポート" がある点もマイクロソフトの魅力だと思います。
―本多 滝夫 氏:情報メディアセンター長 法学部 教授
龍谷大学
クラウドを活用して ICT をより便利に、よりセキュアに
職員からスタートした Office 365 の活用ですが、既にそのユーザー対象は一部の教員、学生にまで拡がりつつあります。龍谷大学の理工学部では、教員と学生が利用するコラボレーション環境を Teams に統一しました。さらに、産学官連携における学外組織とのコラボレーション用途でも、Teams が活用され始めています。
本多 氏は取材の終わり、「現時点では、学外から利用できるサービスは情報系システムのみとなっています。ただ、ゆくゆくは利用可能なサービスも広げていきたいと考えています。実は利用しているデータセンターで Azure Stack のサービス提供が開始されたため、これを採用しました。これを使用すれば、多要素認証やデータ保護で利用している Azure Active Directory、Azure Information Protection などのセキュリティ サービスがオンプレミス環境でも利用できるようになります。こうした有用なクラウド サービスも活用することで、より便利な ICT 環境を、セキュアに教職員と学生へ提供していきます」と、今後の取り組みの構想を語ってくれました。
2017 年よりスタートした ICT プラットフォームの刷新は、龍谷大学の長い歴史の中に新たな伝統を生み出しつつあります。龍谷大学の教育は、こうした ICT の取り組みにも見られる先進性を武器に、これから先も発展を続けていくに違いありません。
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