グループ初となる2019年の農業専業会社設立から1年が経過した2020年7月、NTT東日本は畜産・酪農分野をフィールドに新たな事業会社「ビオストック」を設立した。
前年の企業設立と大きく異なるのは、パートナーとしてバイオマス発電(メタン発酵)の専門家集団であるバイオマスリサーチ(本社:北海道帯広市)を迎え、合弁会社を設立したことだ。前回あった「成功の鍵は、豊富な知見や先進的な考え方を持つパートナーとともに課題解決に臨むこと。」の体現といえよう。
本稿ではパートナーとの共創が農業にどんな風を生むのか、ビオストックの取り組みとともに紹介したい。
アグリビジネスをもっと豊かに――NTT東日本は日本の農業をどう変えるか?
【1回目】現場目線からICT活用の効果を生むために――農業専業会社NTTアグリテクノロジーの設立
【2回目】共創が農業に新しい風を生む――ビオストックを共同設立した狙い
【3回目】ドローンの社会実装がスマート農業を叶える――NTT e-Drone Technology誕生
現場のニーズに応え、持続可能な畜産・酪農を支える
酪農家の数は、この30年間で実に3分の1にまで減少している。これに伴い、1戸あたりの飼育頭数は、急拡大することとなった。ここで生じる課題が、人手不足に起因する長時間労働や後継者不足だ。営農業務の軽減、自動化なしには、事業を持続することが困難になってきている。
畜産・酪農家の抱える深刻な問題を解決すべく、NTT東日本とバイオマスリサーチは2019年12月に業務提携を締結。畜産・酪農家が抱える、様々な課題に対する解決策の模索に奮闘してきた。その1つの結果が、ビオストックの設立というわけだ。
ビオストックは現場の具体的なニーズに応えるソリューションを提供する。そのひとつはNTT東日本が持つ通信技術を駆使した、牧場内無線ネットワークの構築だ。
牧場は立地上、スマートフォンの電波も入らないようなエリアが多い。このため、通信環境の改善を望む声がビオストックには多く寄せられているという。こうした課題に応えるべく、同社では畜舎内Wi-Fiなど、牧場内無線ネットワークの構築を支援する。 これにより、畜産・酪農家は、下の表にあるような様々な課題を解決するソリューション(クラウドカメラ、IoTセンサーなど)を活用することができる。
ニーズ | 用途 | 解決策 |
---|---|---|
遠隔で監視したい | 家畜の分娩予兆 | クラウドカメラ設置 |
家畜の盗難防止 | 飼育管理を効率化したい | 家畜の活動管理 | 個体管理ソリューション導入 |
家畜の傷病対策 | ||
畜舎での飼育記録投入 | 畜舎内Wi-Fi整備 | |
従業員の通信費負担を軽減したい | 畜舎でのWi-Fi利用 | |
畜舎管理を自動化したい | 温度・湿度・風雪管理 | IoTセンサー導入 |
牛のストレスを軽減したい | 搾乳量の向上 | インダクションライト導入 |
牧場内無線ネットワークなどを提供する価値
牧場内無線ネットワークを構築すると、畜産・酪農家の抱える課題がどう解決できるのか。
上の表にある「遠隔監視」を例に挙げよう。畜産・酪農家で働く従業員は、分娩時期になると24時間体制で見回りをせねばならない。人的リソースが十分にあれば持ち回りなどで対応できるが、人材不足を理由にそういった体制は限界にきている。牧場内に無線ネットワークを構築してクラウドカメラを導入すれば、事務所や自宅に居ながら畜舎内を監視することが可能になる。センサーに反応した際にアラートが出る仕組みを用意すればアラート時にだけ確認するなど、効率的な家畜の分娩介助ができるだろう。
この他、牧場内無線ネットワークを構築すれば、家畜の個体を管理するソフトウェアやIoTセンサーによる畜舎の温度・湿度・風雪の監視ツール、遠隔による畜舎窓の開閉システムなどの活用が可能となり、営農業務の大幅な削減が期待できる。
注目したいのは、こういったソリューションの1つ1つが、現場にいる畜産・酪農家の意見を反映する形で生まれたものだということだ。
例えば、下の図にあるように、LEDでは実現が難しいブルーライトを大幅にカットし、牛のストレスを削減できる最先端の牛舎専用照明「インダクションライト」を提供している。 光周期コントロールによる搾乳量アップと、カウコンフォートを両立し、酪農経営を改善。加えて、牛舎内の労働環境の改善を支援するなど、現場のニーズに応えている。
同社では、業界に精通し牧場の業務を理解しているバイオマスリサーチと共に、絶えず現場のニーズを吸い上げている。これを基にしてNTT東日本や多彩なパートナーとソリューションの開発、提供に臨むことで、他社にない「現場に即したICT化」を可能にする。
共創が、バイオガスプラント導入の障壁もなくす
畜産・酪農家向けソリューションとともに、バイオガスプラントの提供も、ビオストックのコアビジネスの1つだ。
家畜のふん尿、生ゴミや食品残渣といった再利用可能な有機性の資源をエネルギー源にして電気や熱を生み出すバイオガスプラント(メタン発酵)が、畜産・酪農設備の一環として注目を集めている。
ビオストックはバイオガスプラントの小型化や、遠隔管理による運用・保守の省力化を目指している。
また、バイオガスプラントを畜産・酪農家が利用しやすい「初期コスト不要、月額利用型(ビジネスモデル特許出願中)」で提供。バイオガスプラントは建築コストの高さから未だに畜産・酪農家での導入が加速していないが、同社はこの導入ハードルを大きく引き下げることで、畜産・酪農家へのバイオマスプラントの実装を推進していく運びだ。
さらに、バイオガスプラントを活用し、自治体やJA、畜産・酪農家、地域企業と連携した地域循環型エコシステムを構築することにより、エネルギーの地産地消を実現する。 その地域は、ふん尿の処理に関わる悩みから解消されるだけでなく、そこで生み出すエネルギーを活用した新たな収益源の確保や、そこで生まれた電気を蓄電することで、災害に強い街づくりが可能となる。
ビオストックが、上図の地域循環エコシステムの構築を目指し、自治体等と連携している北海道湧別町での事例を紹介する。
湧別町は酪農業が基幹産業であり、排出される家畜ふん尿の適切な処理と営農業務の軽減、臭気対策や水質保全等が課題となっていた。
これらの課題の解決に向けて、2020年12月23日、湧別町、湧別町農業協同組合、えんゆう農業協同組合、湧別漁業協同組合、バイオマスリサーチ株式会社、株式会社ビオストックの6者で『湧別町バイオガス事業推進に関する連携協定』を締結した。
この連携協定は、「湧別町バイオマス産業都市構想」に基づき、バイオガスプラントの整備を通して、持続可能な酪農体型の確立、環境保全及び地域の活性化を図るための運営方法の検討及び体制づくりを具体的に進めるためのものだ。
このように、ビオストックは、自治体や地域の関係者と連携し、地域循環エコシステムの構築、およびバイオガス事業を推進している。
共創の積み重ねが、農業に新しい風を生む
ビオストックが提供するソリューションは、農業(畜産・酪農)というフィールドに自ら乗り出し、豊富な知見や先進的な考え方を持つパートナーと共同して地域に密着したからこそ生まれたものだ。
こうしたNTT東日本の取り組みで注目すべきなのは、農業という分野だけでも、共創によるビジネスが頻繁に生まれているということ。2021年に設立したNTT e-Drone Technologyを数えるなら、同社は毎年、共創をもった新企業の設立を行っていることとなる。これは、同社が農業という産業に強くコミットしている証と言ってもよい。
最終回となる第3回では、最も新しい取り組みであるNTT e-Drone Technologyの設立についてみていきたい。
アグリビジネスをもっと豊かに――NTT東日本は日本の農業をどう変えるか?
【1回目】現場目線からICT活用の効果を生むために――農業専業会社NTTアグリテクノロジーの設立
【2回目】共創が農業に新しい風を生む――ビオストックを共同設立した狙い
【3回目】ドローンの社会実装がスマート農業を叶える――NTT e-Drone Technology誕生
【お問い合わせ先】NTT東日本(法人向けICT相談窓口):0120-765-000
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