デザインとITのチカラを組み合わせ、学生たちが新たな「まち」をメタバースで表現するというユニークなプロジェクトが2023年12月から始動しました。その名は「はちゃメタ byニチゲイ」。
日本大学芸術学部、通称「日藝(ニチゲイ)」の学生たちが、キャンパスの位置する東京・江古田付近の町並みを自分たちでデザインし、メタバース上に構築します。そんな学生たちをサポートするのは、日本大学芸術学部の先生方と、日本電子計算、クニエといった企業のメンバーです。
今回は「はちゃメタ byニチゲイ」をさまざまな面で支えた4名のメンバーによる座談会を実施。プロジェクト発足の背景や狙い、活動を通して見えてきたメタバースの可能性などについて語ってもらいました。
座談会メンバー
(写真左から)クニエ ディレクター 新規事業戦略担当 福士 浩二郎氏
コンサルタントとして新規事業や事業開発を行う。テクノロジー×トレンド×新規事業の軸で多彩なプロジェクトを担当。「はちゃメタ byニチゲイ」ではディレクターとして参加。
日本大学芸術学部 専任講師 谷口聡子氏
一級建築士。日藝では基礎デザインから専門事業分野まで担当。「はちゃメタ byニチゲイ」では学生との調整やフォローなどを行う。
日本大学芸術学部 教授 笠井則幸氏
研究分野はタイポグラフィ。日藝ではグラフィックデザインやコミュニケーションデザインについて講義を行う。「はちゃメタ byニチゲイ」では学生のサポートを担当。
日本電子計算 技術本部 COCREATION LAB部 DIGITAL技術推進担当 戸田 邦昭氏
デジタルビジネスマネージャーとして、新しい技術を用いた社会課題解決に取り組む。「はちゃメタ byニチゲイ」では最新技術の提供や学生をサポートしながら一緒にメタバースを作り上げる指導役を担う。
日藝の「なんでもできる」カルチャーがメタバースと好相性だった
――今回の共同研究に至った経緯を教えてください。
福士氏:
もともと笠井先生とは10年来の付き合いでして、今回のご提案をしました。日藝を選んだ理由は2つあります。まず、日藝の自由な校風です。日藝では学生さんの意思を尊重して、学びや創作を自由にやらせてあげるカルチャーがあります。メタバースも同様で自由な世界です。日藝の学生さんの自由な発想を表現するのにメタバースはぴったりだと思いました。
もう1つの理由が、日藝デザイン学科がメタバースにも必要なものを取り揃えていることです。日藝デザイン学科にはコミュニケーションデザイン、グラフィックデザイン、建築デザイン、プロダクトデザインなど、さまざまな分野があります。メタバースには建物や物があり、そこで人と人がコミュニケーションします。それらのデザインを網羅した日藝デザイン学科が最適だったのです。
――先生方や学生さんはメタバースに対してどんな印象を持っていたのでしょうか。
笠井氏:
コロナ禍のとき、自宅にいながらバーチャルで買い物をしたり、他の人とコミュニケーションしたりする手段の1つとしてメタバースが注目されました。メタバースが身近な存在のようにも思えますが、やはり私にとってはどこか遠く、つかめない存在でした。今回の共同研究で、メタバースの面白さを発見できたので、印象はガラッと変わりましたね。
谷口氏:
最初の授業で学生に「日藝に入って何がしたいか」をアンケートで聞いたことがあります。すると、学生の中には「メタバースがやりたくて日藝に入った」という子もいたんです。日藝の学科にメタバースはないのに。それだけ、若い世代はメタバースに興味を持っているということですし、今回の共同研究はとても有意義なものだと思います。
共同研究に江古田を選んだ理由
――今回のプロジェクトは日藝のキャンパスが位置する江古田をテーマに行われました。なぜ江古田だったのでしょう。
戸田氏:
最初から江古田にしようと思っていたわけではありませんでした。学生さんと話す中で「せっかく日藝に入ったんだから江古田エリアはどうだろう」「実は江古田について知らないよね」という話になり、自然と江古田に決まったんです。
笠井氏:
そうなんですよね。学生はキャンパスに通っていても、意外と町については知らないものです。上京してくる学生もいますし、とくにここ数年はコロナ禍で、学校が終わっても、飲みに行くこともなく、すぐに帰るという状況でしたから。一方で、江古田という町は住宅街でもあり、商店街でもある面白い町です。私も第二の故郷だと思っています。
日藝では以前から西武鉄道と一緒に江古田キャンパスプロジェクトという活性化施策にも取り組んでいます。そうした経緯もあって、今回の「はちゃメタ byニチゲイ」で少しでも江古田の活性化につながると面白いなと思いました。
戸田氏:
とはいえ、今回のプロジェクトは江古田の課題を発見するためではなく、まずは学生さんの視点で町を観察して、そこから新しい江古田を作ってみる。そのうえで見えてくる課題もあったという流れでしたね。
生成AIも活用しながら学生のイメージを具現化
――「はちゃメタ byニチゲイ」はどのような流れで進めていったのでしょうか。
戸田氏:
「はちゃメタ byニチゲイ」は江古田をメタバース上に再現するのではなく、学生さん自身が考えた「こんな江古田があってもいいんじゃないか」というイメージをメタバースで具現化するプロジェクトです。そのためにも、まずは実物の江古田をじっくりと観察してディスカッションすることが大事だと考えました。毎週のように日藝を訪れて、学生さんと一緒に江古田を歩いたり、飲食店に入ってごはんを食べたりして町を取材してましたね(笑)。
福士氏:
「いつの江古田にするか」という議論もありましたね。メタバースは時空を超えられるので、昔でも現在でも未来でも、好きな時代の江古田をモチーフにできます。
谷口氏:
最初、学生たちから出てきたメタバースの江古田のイメージって、かなりのディストピアだったんですよ(笑)。ただ、実際に作り始めると、だんだんイメージが明るくなっていったので、町を良くしたいという思いも伝わってきましたね。
福士氏:
生成AIと組み合わせた取り組みもユニークでしたよね。学生さんがイメージするメタバースで表現したい江古田を戸田さんが生成AIでイラストにして全員で共有して、それをもとに議論を進めていきました。
戸田氏:
生成AIの他にも新しい技術はどんどん活用しましたね。たとえば2D画像から3Dモデルを生成するツールとか。学生さんが描いたキリンの絵を3Dにして歩かせたときは、皆さんすごく驚いてくれました。
福士氏:
アリスと呼ばれる学生さんが描いたキリンだったのですが、その出来事があったときに「アリスのキリン」という名前がついたほどの衝撃でしたよね(笑)。
笠井氏:
言葉でイメージを紡ぎ出して、それを生成AIで可視化し、そこから3Dにしていく。生成AIや3D生成ツールなどのテクノロジーを活用することで、モヤッとしたイメージの解像度がだんだん高くなっていきました。ふだんは課題などに生成AIを使うことを禁止しているのですが、今回は生成AIを活用したプロセスのおかげでうまくいったと実感しています。
――活動の中で印象に残っていることを教えてください。
戸田氏:
「駅があるから町が分断されてしまうんじゃないか」という学生さんの言葉がとても印象に残っています。たしかに江古田は駅と線路で町が分かれているんですよね。ではその分断をどうやって解決するのか。出てきたアイデアが駅や線路をモノレールにするということです。モノレールなら上空を走るので、線路で町が分断されないというわけです。
また、シャッター街の商店街でグラフィティアートがやりたいという学生もいました。実際にグラフィティアートをするのはダメですが、メタバースなら自由にできますからね。
メタバースは次世代のコミュニケーションプラットフォームに
――共同研究「はちゃメタ byニチゲイ」の成果について教えてください。
笠井氏:
今回は江古田の町をつくったわけですが、その過程で学生はあらためて江古田という町に向き合い、教育効果も大きかったと感じています。「はちゃメタ byニチゲイ」は地域を知る機会にもなるので、他のエリアでも実践してみてもいいですよね。全国から好きなところを選んでもいいし、地元の町でもいいでしょう。
また、「アリスのキリン」もそうですが、メタバースを通じたコミュニケーションがどれもユニークで、学生たちの言葉が豊かになっていきました。今回のプロジェクトを通じて、学生たちが何か覚醒したような印象を受けています。
谷口氏:
学生たちが毎回真剣に議論する姿が印象的でした。また、普段は引っ込み思案な学生が「はちゃメタ byニチゲイ」では積極的に参加してくれて、楽しそうにしていたのもよかったです。
戸田氏:
コミュニケーション面では、一級建築士の鶴田 一さんと学生さんがメタバース内で距離を縮めていたのも印象的でしたね。今回、鶴田さんにメタバース内の建築物作成のサポートをいただいているのですが、アバターを介すことで対面よりも隔てなく議論を交わすことができていました。
また、メタバースの空間内で待ち合わせて、「ここをどうしたらいいかな」と、臨場感のあるディスカッションができるのも非常に面白いと思いましたね。
福士氏:
そもそも学生さんが一級建築士と話せること自体が貴重な経験ですよね。メタバースは「デジタル職業体験」のような役割も果たせるではと思います。エンジニアとか、コンサルタントとか、分野を超えて学生さんがその道のプロと交流する。それも、メタバースならその中で一緒に取り組みができるわけです。これこそが、次世代の一般的なコミュニケーションになると思っています。メールがチャットになり、チャットがLINEになったように、次はメタバースでアバターを介したコミュニケーションが当たり前になっていくでしょう。
――メタバースの可能性についてどう思われますか。
戸田氏:
メタバースはゲームと何が違うのかと疑問を持つ方もいます。学生さんとも最初にその点について議論をしました。私が説明したのは、「ゲームはルールがあるけれど、メタバースにはルールがない」ということです。
また、メタバースは現実のコピーでもありません。むしろ現実にはできないような「違和感」をつくるのが面白かったりもします。今回も江古田だとわかるものの、そこに「違和感」を織り交ぜることで、見たことがないエモーショナルな江古田になったと思います。
福士氏:
私は常々、メタバースは宇宙開発に似ていると言っています。かつてアポロが月を目指した結果、耐熱技術やカーボン技術がどんどん進化しました。メタバースも同様に、半導体技術とか音声認識技術とか、付随する技術がどんどん進化しています。メタバースはこれからさらに盛り上がると思います。
戸田氏:
学生さんが今後社会に出ていくときに、「はちゃメタ byニチゲイ」でいろいろなテクノロジーに触れ、ディスカッションしてメタバースを作り上げた経験が糧になってくれたらと思います。
関連リンク
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日本大学芸術学部
芸術総合学部としての特徴と伝統を保持するとともに、21世紀における芸術の持つ社会的先導性にかんがみ、学科の各々の専門教育をさらに充実・発展させ、同時に、学科の垣根を越えた総合的なカリキュラムを展開することで、芸術・文化全般にわたる広い視野を持った人材を養成しています。 -
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