ITの浸透や社会情勢の変化により、企業における人事労務業務の重要性はますます高まっています。多様化した人事労務の仕事を最前線で支えるキーマンに「新しい人事労務のあり方」をお聞きする本連載。第3回となる本稿では、企業の労務担当と社労士、2つの立場で労務の仕事に携わってきた横井良典氏に話を伺い、これからの労務に求められる業務のあり方や労務担当者が目指すべき方向性について語っていただきました。
1983年滋賀県生まれ。禅宗のお寺の長男として、幼少期からお寺を継ぐことを期待され、さらに両親が小学校の先生だったこともあり、“働くこと”に関しては比較的早い段階から考えていたという。社会の中で揉まれることが自身にとっての修行と捉え、工場向けの人材派遣、業務請負の会社に新卒で入社。そこで労務の仕事に興味を持ち、さまざまな業種・規模の企業で労務を担当しながら社労士事務所を開業し、スタートアップ企業における労務管理の支援なども行っている。現在はホームセンター事業を運営する企業の人事部門に在籍し、人事企画として新たな人事戦略の推進に注力している。
外部そして内部から労務の仕事に携わる
──まずは、横井さんが”労務”という仕事に興味を持ったきっかけについて、お聞かせください。
学生時代にITブームやベンチャーブームが起きていて、私もビジネスや起業というものに興味を持っていました。当時は、特に人材業界のスタートアップが注目を集めており、工場向けの人材派遣、業務請負の会社に新卒で入社し、そこで労務という仕事を知りました。派遣・請負の違いや衛生管理者など安全衛生の法律、最低賃金など採用に関する法律などを理解していくことで、働く人と会社の関係がこれまでとは違って見えてくるようになり、労務という仕事への興味が増していきました。
──さまざまな業種・規模の企業に在籍し、労務の仕事をされてきたとお伺いしています。これまでのキャリアについてお話しいただけないでしょうか。
新卒で入社した人材派遣、業務請負の会社では、実際に自分自身も工場のラインに入って働いたりしました。そこで労務の仕事や法律に関しての興味が高まり、社会保険労務士の資格を取得するため、法律の勉強を開始するとともに転職活動を開始しました。
比較的大きな社会保険労務士法人に入ることができ、数人から数百人までの企業規模やさまざまな業種の会社に対して、社会保険の事務手続き業務、給与計算、就業規則の整備、退職金制度の変更などプロジェクトベースで業務に携わりました。
そのなかで、外部からの支援ではなく、内部から働く人と会社を支え、そして個人や会社と一緒に成長して喜びを共有したいという思いが強くなり、新たなチャレンジとして事業会社への転職を決意しました。アパレルやITなど、人員規模、事業フェーズ、事業内容が異なる会社で労務担当として仕事をしてきました。
──現在は、企業の労務を担う一方で、社会保険労務士事務所を開業して社労士として外部からの支援もされていますよね。
社労士事務所を開業した理由は、労務の仕事が企業規模や業種によっても求められるものが大きく違うと感じたことにあります。急成長するスタートアップ企業や上場前後の変化を経験し、そうした経験をこれから成長するスタートアップ企業や他の業界に伝えていきたいと感じました。
現在は在籍している企業の業務に注力しており、社労士事務所は休業状態ですが、今後は社労士としても、上場を目指すスタートアップと伴走して、労務的な問題が成長の妨げないような制度・体制の構築を支援していきたいと考えています。その意味でも、多様な会社に在籍して事例を知り経験することが、私にとって成長につながっていると感じています。
労務に求められるモノ─コミュニケーションとデータ分析・活用能力
──労務担当者は、給与計算や社会保険の手続きなど事務的な作業を行う人というイメージがありますが、実際の仕事内容とのギャップはあるのでしょうか?
ミスなく安定的に行うための事務的なスキルが求められるのは確かで、暗いイメージもあるかもしれません。ただ、労務と一括りにいっても、企業によって業務内容は異なってきます。
私もこれまで多くの企業で労務を担当してきましたが、同じ仕事を総務がやったり、経理がやったりと、企業規模や事業内容によって、労務が担当する業務範囲は違っていました。必要なリソースも企業の業種・業態やフェーズによって異なり、成長期で従業員数が急増している会社に在籍したときには、リソースが足りないと感じることもありました。
ただ、事務的な業務はすべて自分でやる必要はなく、マネーフォワードをはじめITベンダー各社からリリースされているツールやサービスを活用したり、社労士などの外部リソースを利用したりすることもできます。可能な部分はシステム化やアウトソーシングで効率化を図っていくという流れが加速していると感じています。
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とはいえ、ツールや外部リソースを使いこなすためには法律などの専門知識は必要です。専門知識があると先回りして考えることができるので、自分でミスに気づき、ミスを防ぐポイントがわかり、業務スピードが向上します。自分で判断できるようになると、信頼も得やすくなり、仕事のモチベーションも維持できます。こうして労務という仕事にやりがいと楽しさを感じる担当者が増えてくれば、事務的な作業をする人というイメージも払拭できるのではないでしょうか。
──ここまでお聞きした内容を踏まえ、横井さんが思い描く「新しい人事労務のあり方」や、いま労務に求められていることは何でしょうか?
事務的な部分はシステムや外部リソースに代替されていくと考えています。このため、これからの労務は人にしかできないこととして、コミュニケーションによりエンゲージメントを高めるための取り組みが求められていると感じます。そこには傾聴を中心としたコミュニケーション能力が求められます。
労務の仕事は、従業員のさまざまな節目に関わることが多く、入社、結婚、出産とったポジティブな出来事だけでなく、退職、離婚、家族の死などネガティブな出来事もあります。そうした節目において、従業員に寄り添った対応、ケア、提案ができると、従業員のエンゲージメント、すなわち、この会社で働いていて良かったという気持ちに大きく影響するのではないでしょうか。こうした従業員の人生の節目に陰ながら関わることができることが、労務のやりがいなのではないかと思います。
また、労務という仕事は勤怠、給与、評価、退職などさまざまなデータが集まってきますが、そうしたデータを活用できている企業は多くありません。昨今トレンドとなっているデータドリブンな組織作りを考えると、今後の労務には、収集したデータをもとに、従業員や会社にとってより良い制度を企画できる分析力、企画力、提案力が必要になるのではないでしょうか。コミュニケーション能力と合わせて分析力を身につけると、従業員の声という裏付けをもったデータ分析、提案が行えるようになります。その意味でも、今後の労務にはコミュニケーション能力に加え、データ分析・活用能力が求められるのでと考えています。
他業務への理解を深めることで、労務という仕事をよりクリエイティブに
──現在取り組んでいる仕事についてお話しいただけないでしょうか。
子どもの誕生という私自身のライフイベントを機に、育児の環境を求めて群馬に移住したことで、地域貢献、身近なくらしに対する興味が生まれました。そこで地域に密着しホームセンター事業を運営している会社に転職し、現在はこれまでの経験を活かして人事企画として新たな人事戦略の推進に携わっています。小売業は今まで携わってきたITとは違い、店舗があり、多くの従業員が働いています。一人ひとりが「この会社で働いてよかった、あの会社で働けてよかった」と思ってもらうための取り組みを推進しています。
──現状を踏まえ、今後のキャリアで目指していることをお聞かせください。
現在は、社労士事務所は休業状態ですが、タイミングをみて改めて社労士とスタートアップの支援や群馬県、地域の企業の支援をしていければと思います。あとは、自分がお寺に生まれたということもあり、将来的には働く人たちにとっての「駆け込み寺」のようなものを作り、相談を聴いたり、お話をしたりできたらと考えています。50代でサラリーマン人生を終わらせて、喫茶店などを経営しながら駆け込み寺ができれば理想的ですね。まだ10年以上ありますが。
──最後に「新しい人事労務のあり方」を模索している方や、これから労務に携わりたいと考えている人にメッセージをお願いします。
労務という仕事にやりがいと楽しさを感じていただける担当者が増えていくと、労務という仕事の価値も高まり、給料や待遇も上がって労務で働きたい人が増えるという好循環が実現すると思います。
そのためには、自らが忙しくて、ここまでが労務の範囲、と定めている業務の範囲を取り払い、採用や経理、財務などの前工程、後工程の仕事に対しても興味を持っていくことが重要です。たとえば、入社手続であれば前工程の採用の仕事に興味を持ってみたり、給与計算であれば後工程の経理の仕事に興味を持ってみたりといった具合です。それだけで、労務の仕事の幅は広がり、事務的な作業ではなく、よりクリエイティブなものになるのではないでしょうか。
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