文部科学省の「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」が走り出し、全国の自治体が、その構想に沿った教育ICT環境の整備に動き始めている。その中で大きなポイントとなる一つが、校内の通信ネットワーク環境をどう整えるかだ。ネットワンシステムズでは、この重要課題に対する答え──すなわち、GIGAスクール構想を支えるネットワークシステムのあるべき姿を、これまでの経験とノウハウ、そして実際の検証を通じて明らかにしている。本稿では、そのエッセンスを3回に分けて紹介する。
GIGAスクールのネットワーク作りで検討すべきこと
文部科学省(以下、文科省)が打ち出した「GIGAスクール構想」とは、日本の小中学校で学ぶ児童・生徒1人につき1台の割合で端末(パソコンやタブレットなど)を配備し、かつ、それらの端末を活用した授業展開をしっかりと支える高速・大容量の通信ネットワークを整備することを指している。
2019年12月に閣議決定された補正予算では、GIGAスクールの実現に向けて総額2,318億円(公立:2,173億円、私立:119億円、国立:26億円)の財源が確保され、さらに早期実現に向けて令和2年度補正予算額(案)2,292億円が計上された。
こうした国の支援策により、自治体が教育ICT環境を整える財政的なハードルは引き下げられたというより、むしろ前倒しでの実現を要求していると言える。ただ一方で、日本の多くの自治体・小中学校では、ICTに関する人材、スキル、リテラシーの不足から、『新技術や基盤の刷新に十分に対応できない』『クラウド活用など、GIGAスクール構想が求めるICT環境の新たな要件が満たせない』、さらには『情報セキュリティ施策の運用がしっかりと行えない』といった問題を抱えていると、ネットワンシステムズ ビジネス開発本部 フィールドマーケティング部 第1チーム エキスパートの堀切 裕史氏は指摘し、次のように続ける。
「ICTに関する人材、スキル、リテラシー不足にかかわる問題は、一朝一夕に解決できるものではありません。逆に、その問題を解決するソリューションを提供することこそ、私たちICT企業のミッションであると認識しています。とりわけ、当社ではネットワークのソリューションに関して、企業システムの領域のみならず、教育の分野でも豊富な実績と経験、ノウハウを積み上げています。それをフルに活用しながら、GIGAスクール構想におけるネットワーク環境の構築と運用負荷の軽減、そして効率性を高めるソリューションの提供に力を注いでいます」(堀切氏)
いずれにせよ、GIGAスクールを実現するためには、児童・生徒1人1台の端末利用を想定したうえで、インターネットを使った授業や動画を使った授業、さらには、遠隔教育などをストレスなく行うための無線ネットワーク環境を整えなければならない。
今日、こうした無線ネットワーク環境を築くための選択肢は大きく二つある。一つはキャリアが提供する移動通信システム、LTE(4G)を使うことであり、もう一つは、Wi-Fi環境を学校内に敷設することである。
このうち、LTE(4G)を採用することでWi-Fi環境のない場所でもインターネットにアクセスすることが可能となり、学校外や自宅での教育ICT端末の活用も容易になる。その点で、LTEは教育ICTのネットワークインフラとしてはWi-Fiよりも利便性が高い。
「しかしLTEの場合、毎月の通信料が高く、小中学校の児童・生徒全員が使うとなると、通信コストが大きく膨らみます。5G(第5世代移動通信システム)の登場で、通信パフォーマンスの問題は解決されるかもしれませんが、コストの問題は解決されずに残るはずです」(堀切氏)
一方Wi-Fiに関しては、アクセスポイント(AP)の設置の仕方や機種によってネットワーク性能の差が生まれるほか、従来規格である「Wi-Fi5(11ac)」と最新規格の「Wi-Fi6(11ax)」との間でも性能が違ってくる。
したがって、GIGAスクール実現のために適切なWi-Fi環境を構築するには、AP製品の設置場所や製品、サポートするWi-Fi規格による性能差を、さまざまな実機を使った検証によって把握することが重要と言える。
とはいえ、個々の自治体が、数多くのベンダーから実機を集めてWi-Fiの検証を行うのは困難なはずである。そこでネットワンシステムズでは、1人1台の端末利用を想定したWi-Fi環境のパフォーマンス検証も行っている。
GIGAスクールの教室を模した環境でAP製品の実力を測定
ここで紹介する検証は、ネットワンシステムズが2020年2月に実施したものだ。同社では、自社の教育部門であるネットワークアカデミーのセミナールームを活用して、小中学校の教室を模した環境を構築し、異なるメーカーから集めた10数機種のAPを使いながらネットワークのパフォーマンスを検証した。その検証環境のイメージは図1に示すとおりだ。
ここでは、上記環境を使った検証から、以下の点にフォーカスした結果について紹介する。
●Wi-Fi5(11ac)とWi-Fi6(11ax)の性能差
Wi-Fi6(11ax)は、Wi-Fiの新しい規格であり、この規格に対応したAPは、高密度な環境下でWi-Fi5(11ac)よりも効率的な通信を実現し、従来よりもWi-Fi環境のパフォーマンスを向上させることができるとされている(図2)。言い換えれば、Wi-Fi6(11ax)は、GIGAスクールにおける1人1台の多端末環境で学習系コンテンツを快適に利用するための最適な通信方式であるというわけだ。
ただし、Wi-Fi6(11ax)に対応する端末は(2020年3月時点では)まだ限定的で、かつ、Wi-Fi6(11ax)対応APはWi-Fi5(11ac)対応APよりも値段が高く、実際にどれくらいのパフォーマンスの差異があるのか確認できないため、教育ICT環境の整備において、Wi-Fi6(11ax)の導入に二の足を踏む自治体・小中学校は多い。
では、実際の性能はどうなのだろうか。その検証結果は図3のとおりである。
図3をご覧のとおり、PDFファイル/動画のダウンロードともに、全てのメーカーのAP製品について、Wi-Fi6(11ax)対応製品のほうが早くダウンロードが完了するという結果が出ている。
この結果から、限られた時間内で効果的、かつ効率的に授業を行うためには、Wi-Fi6(11ax)対応APのほうが、GIGAスクール構想を実現するためのWi-Fi環境としてはより適していることが分かる。
また、同じWi-Fi5(11ac)対応、あるいはWi-Fi6(11ax)対応のAP製品であっても、機種によって性能が大きく異なっていることも分かる。この辺りの違いを正しく把握することも、GIGAスクール構想を実現するためのWi-Fi環境構築においては重要なポイントとなるはずである。
これらの検証に加え、ネットワンシステムズでは二教室を一台のAPで賄えるかの検証も行っており、ここでもWi-Fi5(11ac)とWi-Fi6(11ax)の差が大きく出ている。
実際堀切氏も、これらの検証結果を踏まえながら以下のように指摘する。
「Wi-Fi6(11ax)対応のAPは今後数多くリリースされ、それに応じて値段も下がっていくはずです。それを加味すれば、やはりGIGAスクールを想定したWi-Fi環境としては、Wi-Fi6(11ax)対応APの導入がお勧めと言い切れるでしょう。もっとも、今回の結果を見る限り、Wi-Fi6(11ax)対応APを採用したとしても、二教室に1台のAPという構成で45分間の授業を滞りなく回せるとは考えにくいというのが正直なところです。そうした構成はやはり回避すべきではないでしょうか」
のちの運用を考えた検討ポイント
ネットワンシステムズでは、今回検証したAP製品について、性能のみならず管理性・運用性についても入念に点検し、運用管理・セキュリティの観点からもGIGAスクールを見据えたAP製品検討・選定のポイントをまとめている。
「高額なAP製品を使っても、コンフィグがデフォルト設定のままでは安定した通信ができず、最適化を行うことで安定する機種もありました。製品による規格の選定だけではなく、チューニングがとても重要で、当社ではそういった導入後のトラブルを未然に防ぐことも可能です」(堀切氏)
また、AP製品のみならず、パソコンやタブレットなどの端末についてもさまざまなメーカーの製品について検証・検討を重ねているほか、端末を格納する充電保管庫(キャビネット)についても、各メーカーの製品を取り寄せ、比較検討し、キャビネットを選ぶ際の要件をまとめている。
このうち、運用管理の観点から見たAP製品検討・選定のポイントとして、同社がまとめた要点は以下のとおりである。
GIGAスクールでは100台以上のAP製品が設置される可能性があり、全APの設定変更を一括して行え、無線トラフィックの状況や接続端末の情報が管理画面上で可視化される製品が望ましい。
●ポイント2
AP製品によってはSSIDのパスワードが平文で記載される製品があるが、管理者以外にSSIDが見える状態はセキュリティリスクが高まる可能性があるので注意が必要。
●ポイント3
快適な授業を行うためには、コンフィグを最適化することでパフォーマンスが改善する機種もあり、各メーカーの製品に合わせたチューニングが必要。
●ポイント4
コンシューマー向けのAP製品はGIGAスクール用としての利用は難しい。理由は、利用可能なSSID数が実質1つであったり、VLANに非対応、複数台を集中管理する機能が無いためである。
一方、各メーカーのキャビネットについては、かなり詳しく調べているのもネットワンシステムズの特徴と言え、同社によれば、学習者用と指導者用とに分けて、キャビネットの要件を細かく定めたうえで製品を選ぶ必要があるほか、メーカーによって、「端末の出し入れのしやすさ」や「供給電源容量制限」などにも差異があるので、その点への配慮も必要としている。図5は、ネットワンシステムズがまとめたキャビネットの要件だ。
「GIGAスクールの実現に向けて最適なネットワークシステムを提供することが当社の注力ポイントですが、そのための機器を提供するだけではなく、GIGAスクールを支えるシステム全体の運用管理を視野に入れながら、お客さまの状況・課題に適合したソリューションの提案を行っています。これからも、ネットワークの機器/ソフトウェアを中心にしながら、多様なベンダーの製品について自分たちでしっかりと検証し、その裏づけを持って間違いのないアドバイスやソリューションの提案・提供をしていく考えです」(堀切氏)
なお、次回以降では、GIGAスクールの実現に向けたWAN改善の要点や教育システム全体のあるべき方向性について、ネットワンシステムズの考え方と提案を明らかにする。
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