ビジネスにスピードがますます求められている。個々の社員の業務効率化や、それによる企業全体の収益力向上を実現するために、昨今叫ばれているキーワードが「モバイルワーク」や「テレワーク」だ。ただし、モバイルワークやテレワークを社内に根付かせ、真の効果を発揮するためには、導入するセキュリティ対策やソリューションの特性など、必ず抑えるべきポイントがある。

そこで本連載では、「モバイルワーク&テレワーク」の効果や注意点とともに、「VDI」、「ディスク暗号化」、「データレスPC」という3つの主要ソリューションのメリット、デメリットについて、「エンドユーザー」、「情報システム部門」、「経営層」のそれぞれの立場から3回にわたってお届けする。第一回は、エンドユーザーについてだ。

モバイルワーク&テレワークで働き方がこう変わる!

「ワークスタイル変革」という言葉に代表されるように、モバイルワーク&テレワークの真髄は、現場の社員(エンドユーザー)の働き方を最新のITを駆使して変革することにあると言っていい。それによりもたらされる効果は仕事の効率化、つまり生産性の向上にとどまらず、仕事とプライベートのどちらも充実させ、人生をもっと豊かなものにするという「ワークライフバランス」の実現にまで及ぶと期待されている。

ここでモバイルワーク&テレワークのメリットがわかりやすいケースを簡単に示してみよう。たとえば、営業マンの一日のスケジュールは、朝出社してチーム内でミーティングの後、日中は得意先をまわり、夕方前後に帰社すると、営業日報を作成してその日の業務を終えるというのが典型的なパターンだろう。

これがモバイルワーク&テレワークを導入すれば、営業マンは得意先からいちいち帰社することなく、そのままプライベートな時間に突入することが可能になる。営業日報は、最後の得意先の近くのカフェで作成しようと、自宅に帰ってから作成しようと自由だ。これだけでも、どれだけ時間が有意義に使えるかがおわかりいただけるだろう。

外出先から営業日報を報告できれば生産性が向上する

また、核家族化が進む一方で共稼ぎが当たり前になるなか、一般的に子供が増えてくると生活と仕事を切り分けることが非常に難しくなる。これは「ライフスライス」と呼ばれる現象で、社会問題ともなっている。この問題も、テレワークを活用して在宅勤務を取り入れることで解決が見込める。モバイルワーク&テレワークのソリューションを導入すれば、夫婦どちらかが家で子育てをしながら働くというワークスタイルも無理なく実現できるからだ。国もテレワークの普及に注力しており、導入企業も増えつつあるため、今後こうした働き方は一般的なスタイルになっていくに違いない。

これらの他にも、得意先などから送られてくる重要なメールに社外のどこにいても速やかに返信をしたり、クライアント先に向かう移動中にプレゼン資料を最終チェックしたりなどなど、職種や働き方に応じてモバイルワーク&テレワークのメリットは数多く、挙げればきりがないほどだ。

問題はセキュリティの確保

どこで誰に情報が盗まれるがわからない

このように、良いことづくめに見えるモバイルワークだが、当然リスクもある。モバイル機器には常に紛失や盗難の発生がつきまとうからだ。失われた機器のコストもさることながら、それ以上に重要なのは、その機器内にあるデータである。重要なデータが失われたり、漏えいしたりすることは、企業活動において重大なセキュリティリスクとなる。ことコンプライアンスや内部統制が叫ばれる今日、モバイル機器の活用にあたってはそのデータ保全に最大の配慮が必要なのだ。

主要なモバイル&テレワークソリューションのメリットとデメリットとは
(エンドユーザー編)

情報漏えい等のリスクを抑えつつ、エンドユーザーに対しモバイル&テレワークがもたらす利便性を享受できるソリューションとして、「VDI」、「ディスク暗号化」、「データレスPC」の3種類が挙げられる。これらの特徴について知っておくことは、エンドユーザーであっても大切だ。

ディスク暗号化

ディスク暗号化は、文字通りモバイル機器内のディスク全体を暗号化してしまうため、情報漏えいに対しては強力なソリューションとなる。現在推奨されている暗号化方式を用いれば、現時点のコンピュータパワーでの解読は極めて困難だと言える。社外での利用頻度は低いが、とりあえず情報漏えいを防ぎたいというのであれば、ディスク暗号化を導入すれば目的はほぼ十分に達成できると言えるかもしれない。

ただし、社外での仕事にも本格的に活用しようとなると、デメリットも多く存在する。まず、仕組み上ディスクへの書き込み頻度が増えるため、どうしても処理が重くなってしまう。また、SSDの場合は書き込み回数への配慮が必要になる。

加えて、データの漏えいは防げても、データの損失リスクは高い。情シスが日頃から暗号化の鍵をしっかり管理できていなければ、ディスクが壊れてしまった場合など、大事なデータを二度と取り戻せなくなってしまうのだ。

VDI

VDIとは、サーバー上の仮想マシン(VM)上でクライアントOSを複数起動し、モバイル端末からリモートログインして利用をする方式である。各ユーザーは自分専用のデスクトップを複数の端末から利用することができるため、利便性も高い。

しかし、VDIは場合によっては使いにくいケースもある点に注意が必要だ。まず、複数の端末から利用できるとはいっても、操作性はあくまで使用時の端末に依存するので、ある端末に特化したアプリの場合、それ以外の端末での操作性が落ちてしまう。これは、現場の生産性に大きく影響してくるので抑えておきたい。

また、サーバーからクライアントに画面転送を行っているため、動画再生ではフレームが落ちてしまうことも多い。最近、Skypeなどのツールはクライアント側のチップ上でデジタル信号の変換処理を行うため、サーバー上ですべてを処理するVDIでは使えないこともある。とりわけ在宅勤務では、Web会議やテレビ会議、音声通話などでのコミュニケーションが非常に重要になる。これらが使えないとなると、ソリューション導入も本末転倒となりかねない。

さらに、通常VDIはオフラインでは使用できないため、携帯キャリア等の回線を使用していたとしても、圏外になればまったく仕事ができなくなってしまう点も知っておかなければならないだろう。

データレスPC

データレスPCは、その名の通りクライアントPC内にデータを保持せずにモバイルワーク&テレワークを実現する方法である。モバイル端末側にデータを残さない「データレスPC」環境を提供することで、社内外場所を問わず常に同じPC環境を安全に利用することができる。もし端末を紛失したり盗難にあっても情報漏えいリスクは最小限に抑えることが可能だ。

たとえディスクを暗号化していたとしても、もしも社外でモバイル端末を紛失したとなれば、暗号化されたデータ自体は流出したことになる。ほぼ解読は不可能だったとしても、決して気持ちのいい話ではないはずだ。これがデータレスPCであれば、データそのものが端末内に存在していないため、流出や漏えいは生じていないことになるのだ。

また、ファイルサーバー上に存在しているファイルを、自分のデスクトップ上にある場合とまったく同じ感覚で利用することができ、データの保存以外は通常の端末使用時と変わらないため、動画再生やWeb会議、テレビ会議などあらゆるコミュニケーションツールの使用にまったく支障がでない。

さらにデータレスPCでは、PCのメモリ上に仮想的に作られるRAMディスクにサーバー上のファイルをコピーすることにより、ネットに常時接続できないオフライン環境や回線品質が高くない場所でも安定して使うことが可能だ。RAMメモリ上のファイルは、ログアウト/シャットダウン時に自動的に消去されるので、端末の紛失や盗難といった万が一の場合でもデータの流出や漏えいを防ぐことができる。

ビジネスの最前線で働くエンドユーザーにとって、モバイルワーク&テレワークは仕事の生産性向上のためにも、仕事とプライベート双方の充実のためにももはや欠かせないものと言っていい。主要な3方式の特徴をよく理解して、自社にとって最適な方式を導入するよう声を挙げるといいだろう。

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