東京を中心とした大都市部を中心に、DX(デジタルトランスフォーメーション)への関心が高まっているという印象があります。一方で、地方部の現状はどうなのでしょうか。地域の住宅建築に関する仕事なら何でも手掛けるという山口県下関市の岩永工務店は、日頃の顧客・案件に関する情報管理で不便に感じる部分があり、取引先である地元の山口銀行に相談します。同銀行が属する山口フィナンシャルグループと日本マイクロソフトが地域中小企業の DX 推進に向けた包括連携協定を結んでいたこともあり、グループの情報テクノロジー企業であるデータ・キュービックが岩永工務店の困りごとを、Microsoft Power Apps を用いた顧客・案件管理のシステム開発で迅速に解決しました。

【導入パートナー】

株式会社山口銀行
株式会社データ・キュービック

地域中小企業の DX 推進に本腰を入れ取り組むための包括連携協定

地域に根ざした金融機関は、地元の顧客企業に密着して課題や悩みを知り抜き、そこに対して手厚く親身にサポートを提供できるのが大きな強みです。そうした顧客企業の課題は、金融や経営に関するものだけではありません。最近でいえば、デジタルを活用した業務効率化をいかに進めていくかという点で課題を抱える企業も増えています。

ところが、とりわけ中小規模の企業においては、自社の課題をデジタル活用で解決できるということ自体に気づいていないケースも多々見られます。ならばこういうときこそ、地域に密着し顧客を知り抜く地元金融機関の出番でしょう。

下関市に本店を置く山口銀行は、山口フィナンシャルグループ傘下の地方銀行です。山口フィナンシャルグループは 2020 年 10 月、地域企業の DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けた包括連携協定を日本マイクロソフトと締結しました。同グループが事業を展開する山口・広島両県および福岡県北九州地域の中小企業を対象に、Microsoft 365 などのソリューションを導入して進める DX の取り組みをグループとしてサポートし、テクノロジー活用につながる機会の促進や、そこから生まれたイノベーションに対する資金提供などが盛り込まれています。

こうした協定が結ばれることからもわかるように、同地域の中小企業の DX はやはりまだまだ進んでいません。山口銀行で法人向け営業を担当していた彦島支店(当時)の落合 佑樹 氏(現在は同じグループ傘下の北九州銀行に異動)は、地域における DX の進展について次のように話します。

  • 株式会社山口銀行 彦島支店(当時) 落合 佑樹 氏

    株式会社山口銀行 彦島支店(当時) 落合 佑樹 氏

「少数精鋭の小さな規模で事業を営む会社がほとんどですし、人材面でも資金の面でも制約がありますから、デジタルを活用した業務効率化に乗り出すのはやはり難しい点があります。それでも、DX に向けたデジタル活用を進めた顧客からは『やってよかった』という声を聞きますので、地域の中小企業の DX に、より本腰を入れて取り組まなければならないと決意を新たにしているところです」(落合 氏)。

紙書類での案件管理や手作業入力による業務負担と、情報共有が課題

同協定の締結を受けた地域の DX 推進は、コンサルティングを通じて課題発掘と提案を行い、顧客ニーズに合ったオーダーメイドのシステム開発やデジタル導入支援を手掛けるグループの情報テクノロジー子会社、データ・キュービックが中心となって進めています。同社情報活用事業部主任の山本 仁志 氏は、現場により近い立場から地域の顧客の課題をこう整理します。

  • 株式会社データ・キュービック 情報活用事業部 主任 山本 仁志 氏

    株式会社データ・キュービック 情報活用事業部 主任 山本 仁志 氏

「紙の書類を使うにせよ、Microsoft Excel(以下、Excel)を利用するにせよ、やはりまだまだ手作業で、人力と時間をかけ業務を行っている企業が多いことを実感しています。お客様からしばしば聞くのですが、DX やデジタル化 という言葉はどこか遠いものと感じられるようです。東京など都市部の大企業だけでなく、地方の中小企業でも業務効率化をデジタルで実現でき、しかもそれを実現することでコストの部分にもメリットが出ることを浸透させ、ゆくゆくはこの地域に DX を根付かせていきたいと考えながら日々活動しています」(山本 氏)。

デジタルの導入を提案する際は、顧客ごとに丁寧にヒアリングを行って課題をつかむことはもちろん、パッケージ商品では顧客によって不要な機能が含まれている場合もあるため、ニーズに応じて必要な機能を必要な形で提供することを意識している、と山本 氏は語ります。

取締役専務の岩永 和樹 氏を含めて社員 5 人という小さな所帯の岩永工務店では、山本 氏がまさに指摘した「紙の書類や Excel」を使って業務を行っていました。しかも、紙や Excel に対してまず数字を入力し、その後に別ソフトで見積書などの書類を作成する作業や、顧客・案件情報の管理などの業務は岩永 氏が一人で担っていたため、時間と手間がかかるだけでなく、情報を共有できていないことも悩みとなっていました。

「お客様や案件に関する情報は、事務所に置いてある私個人のパソコンや紙の書類で管理していました。出先に持ち出すノートパソコンもあるのですが、事務所のパソコンとデータ共有していませんでしたし、そもそも多くの案件は紙で管理していたので、お客様から質問が来たときなど私自身が事務所に不在だと誰も情報を確認できず、すぐにお答えできないことが多くあったのです」と岩永 氏。仮に事務所のパソコンを他の社員が開いても、ほとんど岩永 氏にしかわからない状態で管理していたため、他の社員は手が出せなかったとのこと。また、書類作成に使っていた別ソフトも使いづらく、なかなか思ったような形式の書類を作れないことも悩みだったと岩永 氏は振り返ります。

  • (左から)岩永工務店株式会社 取締役専務 岩永 和樹 氏、岩永 小代子 氏

    (左から)岩永工務店株式会社 取締役専務 岩永 和樹 氏、岩永 小代子 氏

  • 岩永工務店が手掛けた住宅

    岩永工務店が手掛けた住宅

システムの開発契約からわずか 1 カ月でのスピード納品を果たす

2021 年末、山口銀行彦島支店で岩永工務店を担当していた落合 氏は、岩永 氏がポツリと漏らしたこれらの課題を耳にし、これはデジタルの力で解決できるのではないかと考え、データ・キュービックに話をつなぎます。山本 氏はそれを受けて岩永工務店を訪問。岩永 氏の事務負担が大きいことや情報共有に課題があることをヒアリングし、これを解決する手段として、Microsoft Power Apps(以下、Power Apps)を活用したオーダーメイドの顧客・案件管理システムの構築を提案しました。

「一つのシステム上で顧客と案件に関するあらゆる情報を管理できるようになります。データはクラウド上に保存するので、パソコンはもちろん出先のスマートフォンなどからでも、端末を問わず同じデータをリアルタイムに照会・編集できます。岩永専務が現場に出ているときに問い合わせがあっても、現場にいながら内容を確認してすぐに返事をできるようになりますし、社員間の情報共有も進みます」(山本 氏)。

  • 顧客・案件管理システムのイメージ図

    顧客・案件管理システムのイメージ図

山本 氏からの提案を聞いた岩永 氏は、「これなら一つのシステムですべてのことが楽に行えますし、社員みんなで情報共有もできるので、すごくいいなと思いました」と当時の印象を語ります。

Power Apps でのシステム開発に向けて、Microsoft 365 Business Standard のプランを新規に契約。契約を交わしたのは 2021 年のクリスマスイブだったそうですが、そのわずか 1 カ月後の 2022 年初めには、データ・キュービックからシステムの最終的な納品が行われています。「開発に際しては、スピード感はもちろんのこと、事前打ち合わせで“シンプルでわかりやすいシステムにしてほしい”という要望を岩永 氏からいただいていたので、とにかく使いやすさ、わかりやすさを重視しました」と山本 氏。一方の岩永 氏は、1 カ 月でシステムが出来上がったことについて「いやいや、びっくりしました」と当時を振り返ります。

「データ・キュービックは私の要望どおりわかりやすいシステムを作ってくれたと思います。ですが、こちらが IT に慣れていないという理由で、うまく使えるようになるまでにはちょっと時間がかかりました。今もまだ完全に使いこなせているとまではいえませんが、データを現場でもスマートフォンから見ることができるのは本当に便利だと思いました。見積書などの書類やスケジュールを他の社員が見られるようになったところもよかったですね」(岩永 氏)。

  • 実際のシステム画面(顧客管理)

    実際のシステム画面(顧客管理)

  • 実際のシステム画面(案件管理)

    実際のシステム画面(案件管理)

事務負担軽減に加え、現場で確認できることで顧客対応の改善も実感

このシステムには顧客管理・案件管理機能だけでなく、見積登録と帳票作成の機能も備えられており、データ入力とそれに基づく書類の自動作成が可能になりました。このため、従来のように見積書などを作るためにわざわざ別ソフトを立ち上げることがなくなり、事務負担の軽減に寄与しています。その他には、現場の住所を登録すると地図アプリとの連携で地図が起動し、経路を示す機能も盛り込んでいます。現在は見積書作成や工事データの登録で使うケースが最も多いといいます。

「見積もりをお客様に早く出せるようになったことと、現場に私がいるときに変更が発生し、私が細かなところを忘れていても事務所で情報を確認して変更に対処できるので、お客様への対応という点でもかなり改善されたと感じています」(岩永 氏)。

Power Apps を使ったシステム開発について、山本 氏は「複雑なコードを書くことが必要な従来のシステム開発では、どうしても時間が長くなり、それに伴い費用も高くなってしまいがちでした。その点、Power Apps なら短期間でスムーズに構築でき、安価に素早くご提供できるので、お客様にも喜んでいただけますし、私たちとしてもこれまでにない価値を実現できると魅力を感じています」と語ります。

日本マイクロソフトはこれからも、山口銀行やデータ・キュービックに代表される地域のパートナーと手を携え、地域経済を支える岩永工務店のような企業が将来 DX を実現できるように、まずはデジタル化の推進を力強く支えていきます。

[PR]提供:日本マイクロソフト